鬼と女郎蜘蛛
「勇輝様。人殺しについてどうお考えですか?この世界では命はとても軽いものです。モンスターがいて、盗賊がいてそこら中に死が転がっています。この世界で生きていくには人の死を沢山見ていくでしょう。だからこそ聞かせて下さい。勇輝には人殺しを、死というものをどうお考えですか?」
盗賊のアジトへと向かう道中。
雪羅は勇輝に疑問を問いかける。
この疑問は闘争渦巻く異世界で生きていく上で必要なことであり、それ故に雪羅は勇輝に聞く。答えによっては自分達の行動方針を決めなければならないと判断し、必要ならば自分達の手を汚す事を考えての事である。
「……。僕にとって死は、とても身近なもので、病院で死んでいく人を沢山見てきた。僕自身もいつ死んでもおかしくないと言われ続けて、でも今日の今日まで死ぬことは無くて、異世界に来て自由を手に入れた。……だからもしも僕から自由とか、大切なものを奪おうとする者が出たら……殺すよ。勿論、相手は犯罪者とかモンスターとか、殺しても問題ない相手だけにするつもりだよ。人なんて簡単に死んじゃうし、助けたくても助けれない人がいる事も知っている。でもその一方で好き好んで人を殺す人がいる事も知っている。だから僕は自分の為に、失いたくないものの為に戦うし、必要とあらば殺すよ。独善的なことかもしれないし自己中だと言われるかもしれないけど、それが生きるってことだから。まあ、実際に自分の手で殺したことなんかないからどうなるかは分からないんだけどね。」
「立派なお考えです。命の価値も、大切さも知っている勇輝様なら道を踏み外すことはないでしょう。」
「買い被り過ぎたよ。」
「いいえ。そんなことはありません。」
それからアジトへ着くまでの間、二人は一言も喋らなかった。
◇
「勇輝様ぁ〜。ここよぉ〜。」
「この声は葛ですね。」
「あ、あそこ。」
そう言って勇輝が指差した先に葛はいた。
そして彼女の足下にはアジトに潜んでいたのであろう盗賊たちが彼女自慢の糸によって拘束されていた。
「そいつらが中にいた盗賊?」
「そのことなんですけど、ちょっと困った事がありまして。」
葛は普段年上のお姉さんといった雰囲気を醸し出しながらしゃべっている。
しかし今回の事はそのような喋り方ではなく真面目に話したほうが良いと判断しているのだろう。
「ひょっとして、奴隷、もしくは捕まっている人がいた?」
「!?どうしてそれを。」
「まあ、テンプレ……って言うのは問題かな。でもこういう奴らなら人攫いとか普通にやってそうだからな。」
そう言いながら勇輝は葛の足下の盗賊へと鋭い視線を飛ばす。
「それで、勇輝様。先ずは見てもらいたいのですが。」
「分かった。案内して。」
「それではこちらへ。」
そうして勇輝と雪羅は葛の案内のもと盗賊のアジトを進んでいく。
しかしそこは洞窟を利用した場所で暗く、足元が覚束ない。
そう判断した勇輝は式神の中からこの状況を打破出来そうな者を探す。
そして一人の式神に白羽の矢が立つ。
『式神召喚、豪鬼』
◇
「こんなことに使っちゃってごめんね。」
「いえいえ。あっしらは勇輝様の為に居るんすから、もっと堂々としていて下さい。」
「言ったでしょ。契約の時に「友とし…」って。だからそんなコキ使うような真似はしないつもりだよ。」
「勿体なきお言葉でさぁ。」
そう。
勇輝は式神の中から灯りを灯せそうな者を探した。
そしてその中で彼、豪鬼の能力の一つである鬼火に目をつけた。
そうして召喚した豪鬼にお願いして鬼火を灯りにして辺りを照らしているのだ。
青紫の鬼火が照らす中、盗賊のアジトを進み、目的である囚われた人達がいる場所へと辿り着く。
そこはやはりというべきか女子ばかり集められており、牢屋の中へと閉じ込められていた。
しかし、その中でも一際目を引く者がいる。
その者は他の者が村人が着るような格好をしている中でレースがふんだんに使われた煌びやかな服に身を包んでいるからだ。
その不自然さに何処かのお嬢様と辺りをつけた勇輝はその女性へと声を掛ける。
この手の人はプライドが高く、優遇されるのが当たり前だと考えていると思ったからだ。
「大丈夫ですか?助けに来ましたよ。」
「だ、誰?ひっ!ば、化物!?」
(青紫の炎に照らされるゴツい鬼。うん。そりゃあ、怯えるのも無理ないよ。)
「安心してください。こいつは、その、僕の使い魔というか従魔というか、そんな感じなんで、だから大丈夫です。あ、豪鬼。檻壊して。」
「ば、化物……。」
「だ、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけだから。ね。」
「そ、その通りですよ。その、さっきはごめんなさい。だから…」
(豪鬼って見た目と違って結構繊細なんだな。でも、ゴツい鬼があからさまに落ち込んでいる姿のギャップが可笑しかったのか、女性が落ち着いてくれたのはラッキーだったな。)
落ち込みから復活した豪鬼が牢屋をメシャリと壊す姿に捕まっていた他の女の子ご怯えて、再び落ち込むという一幕があったが、勇輝は無事に全員救け出すことに成功する。
そして勇輝は先程の女性から話を聞くことにした。
「あの、盗賊は?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと捕まえましたから。あ、でも外に出てた奴らがいるかもしれないから、葛。悪いんだけど外の警戒をしてくれないか?」
「構いませんよ。でも、その前にこちらを。服の方ですがあまり綺麗とは言えなかったので、代わりにこの皮の防具を。」
「ああ、そういえばそうだったね。忘れてた。ありがとう、葛。」
「い、いえいえ。で、では私は外の警戒を。」
「うん。頼んだよ。」
勇輝の線の細い儚げ美少年スマイルに赤面しつつ葛は出入り口へと向かう。
しかし、その顔を緩みきっている。
女郎蜘蛛の葛。
彼女は勇輝の式神の中でも二番目に若く、種族柄異性と接することも少ない。
何が言いたいかというと。まあ、要するに最初の頃の年上お姉さんの威厳は塵となって消えていたということだ。
当作品では河童や鬼のようなのを日本妖怪。ヴァンパイアやアラクネのような存在を西洋妖怪としています。
因みに女郎蜘蛛は下半身が蜘蛛の姿というアラクネのような姿をイメージしてました。似た者同士で仲が良いというのを考えていたので、読んでいる方は出来ればこの姿を想像してください。