帰国
ガルドが敗北の宣言をした事によって戦争の結果が出た。
グレイフィア王国がラベスタ帝国の侵略から守りきり勝ったのだと。
しばしの静寂の後、その事実に気づいた者達がまばらに歓声をあげ、それは周りに波及していき、気づけばグレイフィア王国に所属する全ての者達が歓声をあげる事になった。
その歓声によって葵は目を覚ましたが周りの状況に理解できずに辺りをキョロキョロと見回している。
そして、グレイフィア王国に勝利をもたらした九尾狐は……
(え? これで終わりかの? 妾は一度も攻撃しておらぬのじゃが………折角主人殿に見てもらおうと思って考えていた技が………。ま、まあ、主人殿は未だ寝ておるし、勝ったのだからそれで良いという事にしておこう。うむ。それが良い。)
こんなことを考えていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「んっ……ふぅ……」
気絶していた勇輝が目を覚ましそうになっている。
しかしその時に漏れた艶かしい声によって勇輝に好意を抱く者達は頬を染める。
勇輝はれっきとした男なのだが見た目は華奢で可愛らしい顔をしている。
そして今のように無防備な姿なのだから、より女らしさが表面化しても不思議ではない。
その結果、本陣にいる未婚の男性陣と一部の既婚者の男性陣も若干前かがみになっていた。
美少女や美女に変化する姿を見たのがさらに影響を与えている。
男でありながら女にもなる存在という認識が男性陣をそうさせたのだろう。
「ふぁ………あれ、僕は一体……?」
「ゆー君!!!!!」
「え!? ゆーちゃん!? な、何!? どうしたの!?」
「目が覚めてよかったよーーーー!!!」
傷は全て治してあると言われても気絶から目覚めるまでは安心できなかったのだが、目を覚ましたのを見て感極まってしまい葵は勇輝に思いっきり抱きついたのだ。
そうして暫くの間泣いていた。
「あの、それで、僕は負けたん、ですよね?」
葵が落ち着いた頃合いになって勇輝がそんな事を口にする。
その表情は負けてしまったことへの申し訳なさと後悔、そして、みんなの未来を想像したことによる恐怖に彩られていた。
そんな勇輝の姿を見て、気絶していたのだから知らないのは無理もないという事を理解している者達を代表してリリアが口を開く…………………………前に子狐が近寄って喋った。
「いや、我らの勝利だぞ、主人殿。」
「狐が喋ったぁ!?」
この子狐は先程の九尾狐である。
実は、この九尾狐のように高位の妖怪を支配下に置くには勇輝の式神使いのスキルではレベルが足りない。
それで何故契約できたのか。
それは妖怪が自ら望んだから。
つまり、その気になれば自由に出てくる事ができるという事だ。
しかしそれをすれば勇輝に大きな負担がかかる。
だから普段は出てこないが今回は説明するものが必要だろうという事で、それでいてあまり負担をかけないようにという配慮の元、現在の形に落ち着いた。
ちなみにこの子狐は九尾狐の分体で本体は既に式符の中だ。
それを聞いた勇輝は一言。
「へ、へー。そうだったんだ……」
との事。
そんな高位の存在がなんで自分と契約したのかと気になっているようだ。
そんな事はつゆ知らず、子狐はいかにして自分が活躍し、勝利をもたらしたのかを勇輝に語っていく。
その頭の中は褒めて欲しい一色だ。
一通り説明したところでふとこの後の事が気になりリリアへと問いかける。
「と、それよりもこれからどうするのかの? このまま妾達は城へと帰って良いのか?」
「あ、そうでした。この後は速やかに各自、自国へと帰還して戦争の結末を国民へと通達します。そして戦後交渉を1週間後に行います。これは敗戦国が戦勝国へと赴いて行われます。今回はこちらが攻められ、その上で勝利し、尚且つ向こうの要求が我が国の支配でしたので大抵の要求は通ると思います。なので、申し訳ないのですが暫くは忙しくなってしまい迷惑をかけることになりますが、協力してくださいませんか?」
「そういうことなら協力させてもらうよ。一応勇者だしね。」
勇輝が返答し、葵も首肯する。
葵は勇輝と一緒に居られればそれでいいので特に考えずに応じたようだ。
「リリア様。馬車の準備ができました。」
「分かりました。それではみなさん、帰りましょうか。」
「「はい!」」
戦に勝ち、笑顔で帰ろうと言うリリア。
同じく笑顔で返答する勇輝と葵。
その光景は見ていて微笑ましい気持ちになるが、忘れてはいけないのはここがまだ戦場だということだ。
あわよくば有耶無耶にできればなんていう愚かな選択をする者もいるのだ。
つまり、リリアを狙う暗殺者が近くに潜んでいた。
浮かれている者達しかいない中、ただ1人、というか、一柱はそれに気づいた。
しかし、せっかくの戦勝ムードに水をさすべきではないと判断された。
その結果………4人の暗殺者がこの世から姿を消した。
「全く、遠足は帰るまで、戦争は戦後処理が終わるまでが戦争だというのに、仮にも一国の主人や王を守る兵であろうに……まあ、浮かれる気持ちはわからんでもないがの。」
後でそれとなく注意しようと考えて、子狐は馬車へと乗り込んだ。
勇輝達を乗せた馬車は勝った嬉しさ故か、心なしか通常よりも少しだけ速く進んでいるように見える。
そして兵達を連れて国へと凱旋すると王城へと続く大通りに溢れんばかりの人がいた。
戦争の結果が決まった時点で早馬が出ていたのだろう。
そしてそれによってもたらされた情報が広まりこうして国民からの祝福と歓声が勇輝達に降り注いでいる。
「勇者様ーー!!」
「姫様ーー!!」
「「「「ありがとーーーー!!!」」」」
勇輝達はそれを馬車の中で聞いている。
気絶したら勝っていたというわけのわからない状況で勝った実感の無かった勇輝だったが、この歓声を聞いて、じわりじわりと実感していく。
自分は勝ったのだと。
この国を、国民を、そして、リリアとアリスを護ったのだと。
「最後はよくわかんない内に終わってたけど、でも、頑張ってよかった。勝ててよかったよ。」
「ユウキ様………ありがとうございます。私も、ユウキ様が勝って、またこうしてユウキ様と一緒に笑っていられるのが、すごく嬉しいです!」
「私も頑張ったんだけど、リリア?」
「あ、もちろん、アオイ様にも感謝してますよ。」
「うん! ま、別に、リリアに感謝されなくてもいいんだけどね。なんせ、今晩は私とゆー君の初夜だから!!!」
「はいっ!? き、聞いてないんだけど!?」
「その次は私ですからね、ユウキさん。」
「アリスさんまで!?」
幸せで満たされた馬車はなおも進み、王城へと帰るのであった。
◇
王城へと帰った勇輝は…………速攻で風呂へと放り込まれた。
放り投げられたりして汚れたからだ。
「ふぅ~。終わったん……だよね。これから、どうしようかな。」
「これからとは?」
「こっちの世界とあっちの世界で行き来できればいいんだけど、無理そうならどちらで生きるのかを決めないといけないかなって。それに、向こうに戻ってもまた入院生活に戻るのかも分からないし…………ところでさ、動物ってお風呂に入れていいのかな?」
勇輝へと問いかけたのは子狐だ。
何故か着いてきてしまったのだ。
勇輝はこの狐さんが女性であることは知らず、唯の尻尾の多い狐だと思っているのだ。
だからこうして平然としていられる。
「確かにこのままではちと問題があるかの。」
ぽふん、と。
ぷかぷかと浮いていた子狐はその姿を変え、一騎打ちの際の美女を幼女にしたような姿へとなる。
急に体積が増えた為にお湯が押し寄せ、肩まで浸かっていた勇輝に襲いかかった。
「わぷっ!」
そして目撃したのは全裸の女の子。
「な、ななな、お、女の子!?」
「おや、言っておらんかったかの? とはいえ、やはり物足りんのう。本来はもっと色々と大きいのだが主人殿に負荷をかけぬようにしたらこのような姿になってしもうたわ。」
「そ、そうなんだ……えと、それでなんで一緒に入ってきたの?」
相手が女の子ということで見ないように顔を思いっきり背けている。
「この姿でその反応もどうかと思うが………まあ、それは置いといて、妾がここにきた理由は主人殿にお願いがあったからじゃ。」
「お、お願い?」
「うむ。妾に名を付けてくれぬかの?」
「な、名前?」
「そうじゃ。妾には決まった名はない。いや、正確には親にもらった名はある。しかし、妾はもう主人殿の物だ。だから、妾が主人殿の物だという証が欲しいのだ。というか、いい加減こちらを見よ!」
御神勇輝、16歳。
リリアと肌を重ねたものの、未だ女性の裸には耐性がないのだ。




