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終戦

ガルドは勝利を確信していた。

これまでの殺し殺されかけたりと楽しんで行った戦闘での経験、獣人としての闘争本能による勘、そして手に伝わってきた骨を砕いた感触。

それらを考慮すれば勝ったと確信するのは当然で、むしろこのままじゃこいつは死んでしまうかもな、くらいに考えていた。


ガルドの頭の中は既に次はどんな戦いがあるのか、それだけしかなかった。

確かに勇輝の攻撃力は凄まじく、事前に聞いていなければやられていたし、式神とやらも初めて見る物だったから面白かった。

しかし、終わってしまえば後はどうでもよく、次の事を考え出していた。


だから気づいていない。

興味を失った勇輝に起きている変化に。




〜葵視点〜


「………………………。」


あ、気絶してる……

人選ミスった。


〜気を取り直して、リリア視点〜


ユウキ様とセツラ様の奥義が決まった時、勝ったと思った。

セツラ様は雪女という精霊のような種族で雪や氷を操る事ができると聞いている。

そして、雪を……いえ、吹雪を起こす能力をごく狭い範囲に圧縮する事で生物が生きられない空間を作るという奥義。

その奥義に閉じ込められれば、どれだけ強かろうと、体温を急速に奪われまともに動くことすら叶わずに息絶える。

それがユウキ様とセツラ様の奥義、凍てつき終わる世界のはずだった。

それなのにガルドは生きていた。

それを見たユウキ様は即座に式神を変更して距離をとった、空に。

しかしそれは間違いだった。

ガルドは風を起こし空にいるユウキ様の自由を奪い、一撃を放った。

勝敗は誰の目から見ても明らかで、ユウキ様の命が危ういことも明らかだった。

一夜を共にし、肌を重ねた好みの男性。

そんなユウキ様の息も絶え絶えな姿を見て、叫ぶこともできず、ただ、呆然と立ち尽くすしかできなかった。

アオイ様は気絶し、アリスは悲鳴をあげていた。

そして私は目撃した。

ガルドに無造作に、捨てるように放られたユウキ様に変化が起きる様を。

ガルドにやられた時点で憑依は解けていた。

しかし、懐から新たな式符が浮かび上がると、突然ユウキ様を金色に輝く炎が包み込んだ。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






勇輝に意識は無かった。

しかし、式符の中の式神は別である。

妖怪達は勇輝と契約し支配下に置かれているが、全ての妖怪を支配できているわけではない。

勇輝の式神使いのスキルは低く、勇輝自身もその手の経験が不足している現状では高位の妖怪を支配下に置けるはずが無かった。

それでも契約できたのは既に仮契約してあったこと、そして、妖怪自ら望んで受け入れたからに他ならない。

そんな高位の妖怪が勇輝の負担にならないようスキルによって施された呪縛から解き放たれ、行動を開始する。


まず、瀕死だった勇輝を救うために自身の力を分け与える。

その力は美しく煌めく金色の炎となって勇輝を包み込む。

その炎に包まれた勇輝の折れた骨や損傷していた内臓は綺麗に治り、放られた際にできた小さな傷まで治った。

治癒が済むと、式神は勇輝の中へと潜り込んだ。

勇輝は意識を失っているから代わりに戦うためだ。


そこからの変化は劇的だった。

黒かった髪の毛は金色に変わり腰のあたりまで伸びる。

瞳の色も琥珀色に変わり、背も160に満たないサイズから165cm程までになり肉体も男のそれからお胸の豊かな女性へと変貌を遂げる。

そして最も特徴的な部位である狐耳と九本の尻尾が現れる。

服装はみんな大好き巫女服だ。

そんな変化を渦巻き、燦めくように操った炎によって隠しつつも変化の様を魅せるという演出を行う。

そして鉄扇の一振りによって煌びやかに炎を散らしてポーズを決めた。


(いつ、主人殿の前に現れてもいいように練習した甲斐があったの。)


内心でこんな事を思ってたりする。


「そこの、確かガルドと言ったかの。待つがよい。」

「ああ? って誰だおめぇ?」

「ふむ。誰とな。生憎と、長い生の中で数多の名を授かったのでな、決まった名を持たぬ。だが、ここではこう名乗らせてもらおう。妾の名は御神勇輝とな。少々姿が変わっておるが、お主の対戦相手じゃ。」


変化を見ていた全ての人がこう思った。


(((少々どころか別人じゃねーか!)))


ちなみに、数多の名とは普通の子狐に扮して人里に訪れた際に適当につけられた名前のことだ。

ポチ、コロ、ごん、コン、金、クレイトス・クロノ・カタストロフィー、健二郎、姫、ゆかり、梅などがある。


「ま、誰だろうと別にいいけどよ。」


いいのかよ!


「おめぇが俺の相手をしてくれるってことでいいんだな?」

「その通りじゃ。とはいえ、これでは少々戦いづらいの。」


そう言いながら手をかざすと、勇輝と雪羅が放った凍てつき終わる世界によって作られた氷のフィールドと乱立する氷柱が一瞬にして昇華する。

絶対零度に匹敵する温度によって生み出された氷を地面を溶かすことなく一瞬で昇華させるあたり、圧倒的な技量を感じさせる。

流石に悠久の時を経て………いえ、何でもないです。

だから睨まないで。


「ほぉ。すげーな。ただの美人じゃねーって事か。こりゃ、アレを使うしかねぇな。ハァァァァァァァッ!!」


ガルドはそう言い気合いを入れると、筋肉が膨れ上がり尻尾と耳しか動物の特徴が無かった人間ベースの姿がより獣らしい姿へと変貌を遂げる。

身体能力が跳ね上がる獣人でも限られたものにしか扱えない獣化というスキルだ。

まあ、いろんな作品で出てくるベタな能力だが。


「行くぜ!」


たった一歩。

それだけである程度離れていたはずのガルドは九尾狐へと肉薄し、鋭い爪で切り裂くために腕を振り下ろす。

ガルドが元いた場所は地面が抉れひび割れており、速度も凄まじく一般の者では見ることも叶わぬほどの速度だった。

しかし、九尾狐が軽く鉄扇を振るだけで攻撃の流れを操られ後方へと投げ出される。

着地したガルドは驚愕の表情を浮かべるが、即座に頭を切り替え攻撃を再開させる。

高速の連撃を放つガルド。

しかしその悉くを"鉄扇"によって防ぎ、受け流し、往なされている。

そう、鉄扇によってだ。

九尾狐が鉄扇を持っているのは右手であり、その鉄扇で全て対処している。

それはつまり、九尾狐とガルドの間に大きな実力差があるという事に他ならない。


「俺の攻撃を全て防ぐとは流石に驚いたわ。だが、次の攻撃はそんな細っこい扇子で防げると思うなよ。」

「確かにこれではちと心許ないの。」


ただの鉄扇でガルドの攻撃を防ぐことが出来たのは九尾狐が自身の力によって鉄扇を覆い強度を上げていたからだ。

しかし、元は唯の鉄扇であり強度を上げようと限界というものは存在する。

その限界は次のガルドの攻撃によって容易く超えられ受けに回れば鉄扇は間違いなく破壊されるだろう。


「食らいやがれ! 狼王風滅覇拳!」


風によって相手を抉りながら突き進む必殺の拳。

螺旋を描く風によって岩を砕くどころか罅ひとつ入れる事なく穴を開けるという。

更に、例え風を無効化できようとも獣化によって元から高かった身体能力が更に跳ね上がった状態での一撃は生半可な者では防ぐことはできない。


ーバシィィィン


それを九尾狐は今まで使っていなかった左手で受け止めた。

拳に纏わせていた風は霧散し辺りに衝撃波を撒き散らすが九尾狐は全くの無傷であった。

それどころか、数ミリたりとも後退する事はなく、それはつまり衝撃を受け流す事なく完全に受け止めていた事を表している。


「嘘、だろ……俺の必殺の技を………無傷で、それも片手で防いだ、だと……」

「ふむ。確かに凄まじい威力だの。あのまま扇子で受けていれば間違いなく跡形もなく消し飛んでいたであろうな。この扇子は妾のお気に入りでの、壊されたくなかった故、受け止めさせてもらった。」


その物言いに、ガルドは崩れるようにして膝を地につける。

九尾狐の後方には一撃の威力を物語るように地面は抉れ、罅割れている。

それなのに数ミリたりとも動かすことが出来ず、あまつさえお気に入りのおもちゃを壊されたくないから懐にしまったと言うような気軽さで放たれたそんなセリフ。

何でもないようなその言い方は自信を喪失させるには十分だった。


「次元が、違いすぎる……」


次元が違う。

まさにその通りである。

九尾狐は確かに妖怪である。

しかし、唯の妖怪でもない。

妖怪と神の境界は曖昧であり、付喪神は妖怪の一種だがその名に神の字を冠しており、神の末席に名を連ねている。

扱える権能自体は本体に準じるが、それでも神なのだ。

猫又もまた妖怪だが、修行を積み長き時を経ると猫しょうとなり、更に格が上がれば猫神となる。

そして狐だが、妖狐として有名であるが神の使いとしてもまた有名であり、力の方向性、畏怖されるか、敬われるかによってその性質を変化させる。

そして九尾狐は大妖であるが、稲荷神と同一視される事もあり、この九尾狐もまた神格を得ている妖怪であった。

唯の人と神。

その差は明らかであり、人の次元である内はどれだけの猛者であろうとも、神に対抗すること能わぬ。


「俺の………負けだ……」


こうして、グレイフィア王国とラベスタ帝国の戦争はグレイフィア王国の勝利で幕を閉じた。

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