参戦前
王城前へと無事に転移した勇輝と葵は気絶したレディックを引きず……コホン。連れて門番の元へと向かう。
本日の門番さんは勇輝が初めて王城前に来た時の人であったため、簡単な身分確認だけで通ることが出来た。
そうして王城内で暫し待った後、二人はレディックを衛兵さん達に任せたて、案内された馬車に乗り込み戦場へと向かう。
レディックは戦場へと赴いた事がなかったので、直接転移できない。
そして他の転移魔法使いも往復するだけの魔力は無い。
その為に、このような回りくどい事をしているのだ。
そうして結構な時間馬車に揺られて漸く戦場に辿り着いた。
幸いな事に歴代転移者、歴代勇者のおかげで他作品のような緩衝効果のある装備やら仕組みが無い馬車では無かった為、比較的快適な移動となった。
その為、車や電車に乗り慣れている葵は勿論の事ストレッチャーや車椅子に乗り慣れている勇輝も馬車に酔うことは無かった。
まあ、病院内という基本的に平坦な道をいくストレッチャーや車椅子は大して揺れないんですよね。
それでも酔わなかったのは技術が進歩してるからなんですけど。
……………こほん。作者の感想は置いといて、続きをどうぞ。
「ユウキ様、アオイ様。よく来てくださいました。」
「久しぶり……って程でもないかな、リリアさん。」
「一応、出番はあるんだよね?」
「はい。ユウキ様達のお陰で二日間を無事に凌ぎきることが出来ましたから。戦闘順を相談したいのでどうぞこちらへ。」
そうして勇輝達はリリアの案内の元、グレイフィア王国本陣へと赴く。
「お二人はどのような順番がいいですか? 一応こちらの方でも幾つか案を考えてはいるのですが……」
「どんなのがあるの?」
「その前に、既に決まっている事が一つあるのでそちらを先に説明します。」
「お願いします。」
「それはある人物が出てきた時にはこちらのドレアスをぶつけるというものです。」
「ある人物って誰ですか?」
「自由騎士ゲイルです。」
「自由騎士って、あの?」
「ええ。あの、自由騎士です。」
自由騎士とは戦争時における一騎打ち専門の騎士の事である。
戦争においては1万の兵のみを運用する為、自然と各国の精鋭揃いとなる。
しかし、その戦争に参戦した場合疲労や負傷、運が悪ければ戦死する事もありそうなると最後の勝敗を決する一騎打ちにおいて不利となる。
それを避ける為に考えられたのが自由騎士。
普段は冒険者なり傭兵なりと自由に過ごしているが、戦争時には最後の一騎打ちにて騎士として戦うよう国が雇う。
そうする事で最悪の場合である軍の上位5人全てが戦死したとしても戦えるように備えているのだ。
その自由騎士を勇輝達は王城でのお勉強で既に学んでいた。
「ですので、ドレアスを基本先鋒に配置し、ゲイルが出てこなければ後ろへとスライドさせていく事になります。そして、それ以外の4人。次鋒、中堅、副将、大将の何れかをお二人には選んで欲しいのです。こちらで用意した案としては、ドレアスとお二人に先に戦ってもらい早々にケリをつけるプラン1、ドレアスとこの世界の者達を前に配置するプラン2、重要な役割を担う中堅と大将をお二人に任せるプラン3があります。もちろん、何か希望があればそれを最優先しますが、どうしますか?」
「僕としてはプラン3が良いと思うんですけど、ゆーちゃんはどう思う?」
「そうだなぁ、私としてはプラン2かな。こういう事は出来る限りこの世界の人達が頑張るべきだと思う。もちろん最後には戦うけど、やっぱり最初に戦うのはこの世界の人達の方が良いと思う。」
「確かにそうかも。僕達が決定打になって勝っても、自分達で国を守ったって誇れない。僕達が出るのは本当に後がなくなった時の方が良いのかも。うん。僕もプラン2にするよ。それでいいですか?」
「分かりました。それと、ありがとうございます。私達の国の事を考えてくれて。では、アオイ様が副将、ユウキ様が大将という事でいいですか?」
「いいですよ。」
「私もいいです。」
「それでは、オーダーを発表します。先鋒、ドレアス。次鋒、ライオ。中堅、グリフィス。副将、アオイ様。大将、ユウキ様。但し、ドレアスに関してはゲイルが出てこない時は前後させるので、皆さんは臨機応変に対応して下さい。」
「「はい!」」
「「「はっ!」」」
一騎打ちの開始時間は日が真上に来た時という分かりやすく王道な決まりとなっている。
その時間に合わせて勇輝達は集中力を高めたり、軽く胃に物を入れたり、仮眠をとる。
そして一騎打ちの少し前になったので勇輝達は一騎打ちが行われる場所である戦場中央に赴いた。
戦場中央部を一騎打ちの場所に選ぶというのは昔からの慣例である。
ラベスタ帝国軍が最初に選んだのは黒い髪と黒い瞳を持つ男、ゲイルだ。
帝国側としても初戦を取って勢いをつけたいようでいきなり自由騎士を投入して来た。
グレイフィア王国側も予定通りドレアスを出した。
「久しぶりだな、ゲイル。」
「そうだな。5年ぶりくらいか?」
「もうそんなになるか。」
ゲイルは元々冒険者だ。
面白そうなモンスターの噂を聞けば西に行き、大きなダンジョンの話を聞けば東に行くような自由な人間だった。
そんな中武術大会の噂を聞きふらっと立ち寄ったグレイフィア王国王都で事件が起きた。
地竜が襲ってきたのだ。
ゲイルはそれを迎撃する冒険者の一団に参加しドレアスも騎士が興したカトレイアの一族として武術大会に参加する為に王都へ来ており騎士として迎撃に赴き、見事に地竜を打ち倒す事に成功する。
その後の国が主催した祝勝会で意気投合し二人は親友となったのだ。
それから数年が経ちゲイルの故郷であるラベスタ帝国皇帝が代替わりする。
ラベスタ帝国先代皇帝は戦争の抑止力とする為に軍を鍛えてきたが、今代の皇帝になってから帝国は変わった。
今代の皇帝は第二皇太子であり、彼が皇帝になる為に戦ってこそ軍であるという戦争肯定派の貴族を味方につけ皇帝の地位を勝ち取った。
それから帝国の方針は180度変わり護るための軍は奪う為の軍となった。
ゲイルも年老いた両親を養う為に国に雇われる事を選び、戦争を行う帝国からの招集に応じやすいよう帝国近辺で冒険者としての仕事を行うようになり二人が会う事はなくなっていた。
「例えお前が友だとしても、俺は国を護る為にお前を倒そう。」
「俺もお前に負ける気はないさ。」
「そうか。では……」
「尋常に……」
「「勝負!」」
中央で向かい合っていた二人はほぼ同時に駆け出した。




