戦争中(4)
〜戦場〜
グレイフィア王国の騎兵隊が逃げ遅れた敵兵を屠っていってから暫く。
戦況は膠着状態に入っていた。
その理由としてはラベスタ帝国軍が必要以上の攻撃をしていないからだ。
不用意に近づけば矢と魔法の雨が降ってくるし、対砦用の兵装もないため、帝国軍本陣でどうするかという議論が白熱している為、兵たちは行動することができないからだ。
一方でグレイフィア王国軍は砦を用いた防衛戦に徹する構えなので、本陣から離れていない。
その為、戦場を静寂が支配するという、戦争規定が定められてから初めての光景が広がっていた。
〜ラベスタ帝国陣営〜
「ですから、明日の一騎打ちに勝てばいいのです。今無闇に突撃していっても無駄死にを増やすだけなんですから。」
「馬鹿か。敵は勇者召喚を行ったのだぞ。一騎打ちなんて危険に決まっているだろうが。」
「勇者と言っても召喚したばかりな上にたったの2人ではないか。何をそんなに弱気になっておる。」
「1人の能力は極めて強力、もう1人の能力は未知数だと本国から伝えられているだろう。過信して負けたらどう責任を取るつもりだ。」
「だからって継戦不可能と判断されるほど兵が減ってはそれこそ責任が取れんだろうが。」
「じゃあ、お前は確実に残りの三戦で勝てるというのか!」
「そういう事ではない。特攻するだけでは無意味だと言っているのだ。」
「静まれ!」
「「「「「しょ、将軍。」」」」」
「……今すべきは明日に備えることだ。このような作戦に出るとは誰も予想していなかったからな。お陰で攻城兵器を用意できていない。もしこのまま攻撃を仕掛けても、勝つことはできないであろう。兵の数はこちらが少なく、魔法を使っても妨害されるだけだろう。そうなればむしろこちらが負ける可能性すらある。ならば我らが今すべきことは明日、確実に勝てる布陣を考えることだ。」
「そう、ですね。……分かりました。」
ラベスタ帝国本陣では明日の一騎打ちでの布陣を決め始めた。
本来の戦争の流れならば、後半戦となり出し惜しみされる事なく強力な騎士等の一騎当千の猛者が投入され、より過激になっていくはずであったが、グレイフィア王国の奇策によりそうはならなかった。
これにより、明日の一騎打ちに騎士団長クラスの一騎当千の騎士達が参戦する事が決まった。
〜グレイフィア王国陣営〜
「敵軍、未だに沈黙しています。」
「そうですか。引き続き監視の方、よろしくお願いします。」
「はっ!」
「姫王様、これは予定通り……という事でしょうか?」
「概ねそうですが、少しまずい事になるかもしれませんね。」
「ではやはり。」
「ええ。恐らく彼が出てくるでしょう。」
「あいつか。それで、どうしますか? 誰を当てますか?」
「勇者様達に戦闘慣れした彼に当てるのは得策では無いでしょうし、彼が出てくる試合は避けるべきでしょうね。」
「では、私がいきましょう。」
「ドレアス……本当に、よろしいのですか? 彼とは親しい友人なのでしょう。」
「だからですよ。私と奴の実力はほぼ互角です。他の者なら勝率は低いでしょうが、私ならば50パーセントはありますし、私が出るべきでしょう。」
「そうですね。では、彼の相手はお願いします。」
「分かりました。」
そのまま勇輝達を除く一騎打ちに出る人を選んでいき、争う事なく静かに2日目が終わった。
ちなみに、即席の砦で強度に不安があり、いつ攻めてくるのかとリリアはドキドキだったりする。
〜カトレイア領〜
朝食を終えた勇輝達はそれぞれの仕事に戻る。
リルカやシルフィ達はメイドの仕事に、勇輝と葵は明日の一騎打ちで少しでも勝率を上げる為の修行をする。
流石に疲労を残すわけにもいかないので近接戦闘は控えめにしている。
「ふっ、はぁっ!」
「くっ、やぁっ!」
「そこまで! 10分の休憩の後、明日の一騎打ちを想定した模擬戦をしましょう。時間は……そうですね、5分としましょうか。」
「「はい。」」
霞月の宣言通り、2人は全力を出す。
勇輝は雪羅を憑依させ、手には霞月を持ち、葵も自身のユニークスキルを発動させる。
その模擬戦はかなり激しく、わずか5分の戦闘でありながらクレーターができ、地面の至る所が凍っていた。
◇
「こほん。えー、次は魔法の練習をしましょう。指導は僭越ながら私、リルカがさせていただきます。」
「「お願いします。」」
「私の得意魔法は風ですが、基本は習得しているので気になる事があったら聞いてくださいね。」
「「はい。」」
「では、先ずは………ここの修復から始めましょうか。」
「「……はい。」」
そこら中に穴が空き凍りついているところもある為、先ずは修練場の修復から始める事になった。
葵は火魔法の練習も兼ねて凍っているところを溶かしていく。
所々焦がしてもいく。
そして勇輝はぬりかべの堅吾を召喚して堅吾に土魔法で土を出してもらう。
その土を使って穴を塞いでいく。
そうして30分程かけて修練場の修復を終えた。
「では、改めて練習を開始しましょう。」
「「はい。」」
そういって魔法の練習を始める勇輝と葵。
勇輝は風を、葵は光を。
「ぎにゃー! 目がー!」
「アオイ様。魔力を込めすぎです。」
ま、まあ、練習中の為にまだまだなところがあるが、それでも練習の成果はあり、勇輝は水魔法を、葵は火魔法をそれなりには使えるようになっている。
そして今現在はもう一つの属性を練習しているのだ。
「ウインドショット!」
ドォーーン!
「ユウキ様。風属性は視認しづらい為に狙いが甘くなりやすいので注意してください。」
「はい。」
勇輝は風魔法を放つが狙いがずれてしまい、的の奥の木に当ててしまい、それをリルカに注意された。
魔法の練習はシルフィ達が昼食を入れたバスケットを持ってくるまで続いた。
◇
「それじゃあ、何して遊ぼうか?」
「鬼ごっこー!」
「影鬼ー!」
「ドロケイー!」
「じゃあ、全部やろうか?」
「「「「「うん!」」」」」
勇輝とシルフィ達、そして葵は日が暮れるまで遊び倒したのだった。




