戦争中(3)
〜戦場〜
グレイフィア王国軍とラベスタ帝国軍が戦争を行っている戦場に朝陽が差し込む。
開戦の際には足並み揃えて戦争を始めていたが、二日目は陣を敷き合図を行っていざ戦争とはならない。
開戦の合図は日が完全に出た時であり、そこから各軍が兵を出して行くことになる。
〜グレイフィア王国陣営〜
「私達のすべき事は今日を守りきり明日に繋げることです。明日になれば必ずや勇者様たちが一騎打ちで我が国へ勝利をもたらしてくれるでしょう。だから、今日は全身全霊を賭け、家族の為、友の為に守りきってください。そうすれば勝てるのです! 私は先日勇者様の力の一端を垣間見ました。その姿は力強く、正しく我が軍の希望にふさわしい姿でした。断言します。明日に繋げば、今日を守りきれば勝てるのです! 隣に立つ仲間と共に今日を守りきり、勝利を掴み取りましょう!」
「「「「「おおぉーーーー!!!」」」」」
朝陽が完全に姿を表す少し前。
リリアは総大将として、一国の主として兵たちを鼓舞する。
負ければ国が終わる……という事を意識させず、勝利のみを意識するようにして兵たちを奮い立たせる。
〜ラベスタ帝国陣営〜
「我らが精鋭たちよ、決着の時だ! 昨日は敵の奇策により遅れをとった。しかし、あんな物は一時しのぎにしかならん。誇り高き帝国軍人よ、これまでの戦を思い出せ! 我が軍は敗戦を経験したか? 否! これまで一度たりとも敗れたことなし! そしてこれからもだ! ラベスタ帝国軍としての誇りを持て! 誰かが歴史を作るのではない! 諸君らが、我らが歴史を作るのだ! 歴史に名を残すべく、今こそその勇猛を奮て勝利を掴み取るのだ!」
「「「「「おおぉーーーー!!!」」」」」
リリアが行ったように、ロムス将軍も兵たちを鼓舞する。
そして、ついに日が昇り、戦が再び始まる。
〜戦場〜
開戦となり雄叫びを上げながら前線へと兵たちが駆けていく。
ラベスタ帝国側は騎兵部隊、歩兵部隊、、魔法部隊、弓兵部隊とほぼ全軍が駆け出していく。
戦争期間は今日で終わる為出し惜しみすることなく放出したようだ。
そして勇輝が所属するグレイフィア王国軍は
すぐに足を止めていた。
それを見たラベスタ帝国軍の兵たちが「何やってるんだ、あいつら?」と疑問を頭に浮かべる。
そんな感想をよそに、グレイフィア王国軍は黙々と作業していく。
事前に準備していたある程度完成している建材を使い、更にそこを魔法部隊が放つ土魔法で本陣を囲う形で即席の砦を形成する。
本来ならば戦場中央での殲滅戦となるはずであったが、勇輝の自由な発想を聞き柔軟な発想をするようになったグレイフィア王国軍は敢えて進軍の時間を使って守りを固めるという奇策に出た。
しかも砦形成の為に土魔法を使うことで砦の周りに大きな堀が出来るというおまけ付き。
更に魔力で土を生み出すのではなく既にある材料を用いている為消費魔力を抑えることにも成功している。
それでも、砦作成を行った魔法部隊の大半は魔力のほとんどを使うことになったが、そこは魔法世界で便利な魔法薬がある。
流石に連続して服用していけば効果は下がっていくが、それでもたった1日……正確には午後5時まで凌げばいいのだから多少の無茶は問題ないのである。
〜ラベスタ帝国陣営〜
「ぐぬぬぬ。また、訳のわからない作戦をしおって〜。」
総大将を任されているロムス将軍は本日も遠見筒で戦場を覗きながら唸る。
遠見筒の先では突然の出来事に戸惑い、どうすればいいのかと決めかねている兵たちがいる。
彼等はこれまで戦争規定に則った戦いを行ってきており、必然的に砦を用いた攻防戦は経験したことは無かった。
その為、兵対兵の戦いでは武勇を誇ったラベスタ帝国軍が行っているのは、魔法部隊が散発的に魔法を砦にぶつけているだけだった。
「えーい。伝令を今すぐ出せ!」
「内容はどのように?」
「今すぐそこを離れろ! だ。このままではいい的ではないか!」
「は、はっ! 直ちに!」
側近がロムス将軍の指示を受け、伝令を出すべく駆けていった。
〜グレイフィア王国陣営〜
「今だ! 放てぇぇぇぇーー!!」
弓兵部隊の隊長が大きな声で指示を出し、それを聞いた弓兵たちは眼下にいる敵兵に対して砦の上から矢の雨を降らす。
「「「ぐわぁぁぁーー!!」」」
「「ひ、退け、退けぇーー!」」
ラベスタ帝国軍の兵達に矢が突き刺さっていき、それに対して指揮権を持つ騎士や部隊長が撤退の指示を出す。
もっとも、誰も死にたくない為指示を聞くまでもなく既に撤退を開始していたが。
「今です! 魔法部隊は魔法を、騎兵部隊は追撃を!」
砦の上に弓兵部隊と入れ替わるように移動した魔法部隊はそこから各々の得意な魔法を敵兵めがけて放つ。
魔力を大量に消費した為それぞれ単発だが、その間に騎兵部隊が出撃している為に敵兵は魔力不足に気づくことはない。
味方に誤爆するわけにはいかないのだから……と。
魔法が撃たれたタイミングで事前に用意し組み込んでいた跳ね橋形式の門から騎兵部隊が飛び出していくと、逃げ遅れた敵兵を屠っていった。
〜カトレイア領〜
「お兄ちゃん、朝だよー。」
「後5分〜。」
朝となり、シルフィが子供達を代表して勇輝を起こす。
すると勇輝は寝ぼけながら定番の返しをする。
「か、かわ……じゃなくて、ちょ、ちょっとだけだよ。」
シルフィはそう言うと、ベッドの側まで椅子を持ってくるとそこに座り勇輝の寝顔を顔を綻ばせながら眺める。
その時間はリルカが様子を見に来るまで続いた。
ちなみに眺めていた時間は30分程で途中で葵も加わってたりする。
◇
「……全く。あなたって人は。」
「ご、ごめんなさい。」
「まあまあ、ちゃんと起きなかった僕にも責任はあるわけだし、そんなに怒らないであげてよ。」
「ユウキ様がそう言うのでしたら……でも、30分も仕事をしてなかったわけですからその分は後できっちりと仕事してもらいますからね。」
「は〜い。」
「伸ばさない。」
「はい。」
「では、ユウキ様達のお食事を運んでください。他の子達も既に仕事をしていますからね。」
「はい!」
リルカのお小言も終わり、勇輝達の朝食タイムとなる。
それは以前にも言った通り勇輝の希望でみんなで食べるというものであり勇輝と葵はもちろん、リルカや葵のお付きメイド、シルフィ達も一緒である。
そして一通りの準備が終わったら……
「「「「「いただきます。」」」」」
みんなで手を合わせて楽しく美味しく食べていくのであった。




