戦争中(2)
〜戦場〜
最初に両軍が激突してから一時間が経過していた。
しかし、最初に出来ていた千の戦力差は徐々にだが減ってきており、現在の各軍の損傷はラベスタ帝国軍千三百、グレイフィア王国軍四百となっていた。
その原因は各軍の兵の実力によるものでこのまま時間が経てばその戦力差が逆転しかねなかった。
だから、その差を詰められないようにグレイフィア軍は様々な策を講じなければならない。
しかしラベスタ帝国軍は初っ端から特大落し穴に落ちた為に策略に少々敏感になっている。
果たしてどうなることやら。
〜戦場(ラベスタ帝国側)〜
「部隊編成は整ったか?」
「はっ! 準備できております。」
「そうか。では奴らが動くまで待機、そして動いたら即座に突撃せよ。」
「了解!」
〜戦場〜
両軍が激突し、各国の兵が命を燃やして戦っているとグレイフィア陣営より一発の花火が上がる。
それを見、聞いたグレイフィア王国軍は即座に転身し撤退していく。
そしてグレイフィア王国軍は三つある落し穴の間を通るようにして退いていき台形のような陣形を敷く。
その際に王国陣営に控えていた兵で損害した兵を補充する。
これに対してラベスタ帝国軍は追撃し、それに合わせて編成していた急襲部隊を放つ。
急襲部隊は横から挟撃を行い敵軍をある程度減らすと同時に敵兵を動揺させる予定であった。
落し穴を避ける為に大回りをし、敵の伏兵や罠を警戒をしている為に遅くなっていたが、それ以外には問題なく進んでいる。
そう、進んでいるのだ。
罠もなければ伏兵もない。
それ故に問題なく進んでいるのだ。
〜ラベスタ帝国陣営〜
「何もないのかよ!?」
ラベスタ帝国軍本陣にてその光景を遠見筒で見ていたロムス将軍はつい叫んでいた。
と、そこで突如としてラベスタ帝国軍本隊に大きな火の玉が複数降り注ぐ。
「なっ! いったい何が起きたのだ!?」
〜グレイフィア王国陣営〜
「伝令! 勇者様の立案した羊の皮を被った狼作戦が見事に成功しました。」
羊の皮を被った狼作戦とは一般兵のふりをした魔法部隊を兵の補充をした際に紛れ込ませて魔法を放つもので、一般兵の扮装を羊の皮と表現したものだ。
勿論、これも勇輝の作戦である。
「本当ですか!?」
「はい。これにより敵兵は五百程減り、更に動揺した隙をつき敵急襲部隊を壊滅に追いやりました。」
「では、更に控えの兵の半分を動員し攻勢に移ってください。それに合わせて魔法部隊を撤退させてください。それと、あくまでも目的は二日間を生き延びることですのであまり無理をしないように伝えてください。」
「はっ!」
最初の落し穴もダミーの落し穴も、そして今回の作戦も全て一つの考えのもと立案されている。
それはただひたすらに敵軍を搔き回し、動揺させ、本来の実力を発揮させないということ。
敵軍はこれまでも侵略によって国を拡げてきた大国。
なので、実力も経験も劣っているのは明白でありまともに戦っては勝つことはできない。
この世界の戦争は明確な規定がある為、併呑してきた国の兵力を投入されることがないというのも幸いだった。
そんなことになれば多勢に無勢で勝つことはおろか、まともな戦争にすらならなかっただろう。
しかし戦争規定によって用いられる兵の数が決まっているので序盤にある程度差を作っておけば二日間を持ち堪える事は可能だと判断し、ひたすらに搔き回そうと勇輝は考えたのだ。
そして序盤に出来た差を守りきり、優勢のまま初日を終えたのだった。
〜カトレイア領〜
ガッ、ゴッ、ガコン と木と木がぶつかる音が鳴る。
シルフィ達と別れた勇輝と葵はカトレイア邸近くにある私設軍の詰所に併設されている修練場に向かった。
そして途中でお昼休憩を挟み、現在は木剣を使って模擬戦を行っていた。
「勇輝様、もっと左手を意識してください。葵様は刃を立ててください。それでは斬ることが出来ませんよ。」
「「はい!」」
教官は霞月が勤めている。
戦争を行っている現在は私設軍の大半はドレアスと共に戦場におり、残りの者達もカトレイア邸の警護や街の警邏などの仕事の為二人を教えることができないので霞月が指導している。
霞月は妖刀として多くの戦いを経験しており、その知識を活用し、時に刀として武器としての考えを伝えていく。
「そこまで! 10分休憩したら次は私と模擬戦してもらいます。」
「「はい!」」
「ふわぁ〜。」
「ゆー君大丈夫?」
「うん。ずっと入院してたからね。多少は体力ついたけど、まだちょっとキツイね。」
「でも、なんだかんだで2時間は動けているし、この調子で頑張ろうね。」
「うん。」
模擬戦を一旦終えると勇輝はその場に座り込んだ。
それを見た葵は心配するが勇輝は大丈夫だと伝える。
そして話がひと段落ついたところで雪羅がタオルを二人に手渡す。
「お疲れ様です。勇輝様、葵様。」
「ありがとう。」
「ありがとうございます、雪羅さん。」
「そろそろ模擬戦を行いましょう。今日の稽古はこれでおしまいなので全力で来てください。」
「「はいっ!」」
この日の稽古を終えた時には勇輝の刀術スキルと葵の剣術スキルはそれぞれLV3になっていた。
「本日はここまで。」
「「ありがとうございました。」」
「お兄ちゃん、おつかれさま〜!」
「シルフィちゃん。それにみんなも。どうしたの?」
「夕食の準備ができたから呼びに来たの。あとこれ、私達が作ったレモネードです。」
「ありがとう。うん。冷たくて美味しいよ。」
ボトルを両手で持ってコクコクと飲む勇輝の姿を見てシルフィと葵は顔を赤くしている。
入院ばかりで華奢な身体に160センチに僅かに満たない上に、中性的な可愛らしい容姿でそんなことをするのだから、惚れている葵と好きになりかけているシルフィにはどストライクだったようだ。
ちなみに、表情には出していないが霞月と雪羅は全力で脳内メモリに保存していた。
その後はカトレイア邸にみんなで帰り、楽しい夕食と徹底洗浄を終えて勇輝は眠りについた。




