王城前
「どこに行ってたんですか、ユウキ様?」
「あ、リルカさん。洗濯物を取りに行こうと思って。あと、お礼を言おうと思ってたんだけど迷っちゃって。」
「そうですか。私が担当の者に伝えておきますから、早く中庭に向かいましょう。既に当主様がお待ちですが、また迷子になられても困りますし私が案内しますね。」
「えっ? 中庭?」
「はい。それから荷物に関してですが、餞別も含めて全て雪羅さんに渡してありますので。」
「餞別?」
「はい。中身は向こうに着いてからのお楽しみという事で。それよりも早く行きましょう。」
「あ、うん。」
リルカに促されて慌てて後を着いて行く。
そうして中庭まで行くとこの世界に来て知り合った人のほぼ全ての人がいる。
ほぼ全てというのは衛兵などがいないからだ。
仕事もあり、そもそもそれほど仲良くなっているわけではないのだから当然といえば当然なのだが。
そうして皆の場所に近づいていくとドレアスが口を開く。
「ではユウキ君。達者でな。(無論、私も後から兵を連れていくので、それまでの間娘を頼んだぞ。くれぐれも、くれぐれも! 怪我はさせるなよ!)」
最初の挨拶以外は勇輝に近づいたドレアスが勇輝にだけ聞こえるように言っている。
その後はリルカなどのメイドさん達と一言二言挨拶を交わした後、シルフィ達に向き合う。
「お兄ちゃんが帰ってくるのを、みんなで、待ってるからね……。」
シルフィが代表で喋るがみんな同じ気持ちのようでしきりに首を振っている。
「みんなも元気でね。」
「「「「「………うん!」」」」」
一通り別れの挨拶を終えたのでアリスとレディックの元へと歩み寄る。
「それじゃ、行きましょうか。」
「はい!」
「………はい。」
二人のテンションに差がありすぎるが、それでもきっちりと仕事をする。
転移を行う際に他の人を連れていくには身体の何処かに触れている必要がある。
なので、勇輝とアリスはレディックの肩に手を乗せる。
ちなみに雪羅は転移させるにはレディックの魔力が足りないので既に送還済みである。
そして、勇輝達の足下に魔法陣が出現しそれが光り輝き、光が収まった頃には三人の姿はそこに無かった。
◇
ドサッ!
「うわっ!」
「きゃっ!」
王都城前に無事に転移した勇輝達だったが、やはり限界ギリギリだったレディックが転移直後に崩れ落ちる。
それを見た勇輝とアリスは驚きの声を上げる。
転移に失敗して中空に出現したからつい声を出してしまったわけではない。
人が突然現れて尚且つそのうちの一人が倒れたものだから衛兵はかなり驚いた。
倒れた人物を心配&突然現れた三人を警戒しながら近づいてくる。
様子と容態を伺うために声を掛けようと口を開く。
しかし、そこから先の言葉は紡がれることは無かった。
何故ならその前にアリスが声を出したからだ。
「私はドレアス・カトレイアが娘。アリス・カトレイアです。姫王様に伝えなければならない事があり、馳せ参じました。
至急姫王様への謁見をお願いします。」
アリスは家紋のついた短剣を衛兵に見せる。
その家紋を見た衛兵は急いで城の中に向かおうとするが、その前にアリスが引き止め、言伝を頼む。異世界からの来訪者について話があります……と。
ここで勇者について言わなかったのは末端である衛兵に言ったところでなんの意味もないからと、ここで勇者と口走った結果騒ぎになる事を避けるためである。
それを聞いた衛兵は城に向かって駆け出していく。
残った方の衛兵は倒れているおっさ……ゲフン。レディックを心配し駆け寄る。
流石に貴族であるアリスに運ばせるわけにはいかないし、お付きっぽい勇輝も病院での入院生活の関係で色白でひょろっとしている勇輝では無理だと判断したので、レディックを担ぐと詰所の方へと向かう。
その後を追うアリスとそれについていく勇輝。
こうして勇輝は城の敷地内へと足を踏み入れるのだった。………アリスのおまけとして。
◇
流石に門番無しにするわけにはいかなかったので、衛兵はレディックとアリスと勇輝を詰所へと連れて行くと、中でしばらく待って下さいと告げて再び門番の仕事に戻る。
「そういえばユウキさん。セツラさんを連れてこれなくて申し訳ありません。」
「へっ? ここにいますけど?」
「はい?」
(そういえば一度も送還した所を見せてなかったね。)
勇輝は雪羅と契約してからは常に召喚したままだった。
それ故にアリスは雪羅の事を勇輝と一緒に召喚された人なのだと思っていたのだ。
その事に気付いた勇輝は論より証拠とばかりに雪羅を召喚する。
「式神召喚。雪羅!」
「セツラさんも式神? だっんですね。」
「そうなんですよ。」
そんなことを話しているとドアの方からドタドタと二つの足音が聞こえてくる。
勇輝と雪羅、アリスはその音の方へと顔を向ける。
「私は衛士隊長ランドルといいます。話は聞きました。今からお連れしますので、こちらへ。お連れの方はここでお待ちください。」
「あの、こちらの方が件の来訪者なのですが……。」
「そ、それは失礼しました。それでは姫王様の元へお連れします。」
やはり付き人のように思われていた勇輝。
アリスの申告でようやく勘違いを正すことが出来、ホッとする勇輝。
勇輝はやっと、アリスのおまけではなく客人として姫様の元に行く許可を得たのだった。




