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リバース・スラスターズ  作者: マユ・クロフト
Episode2  Good luck jupiter
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▼終章   『Good luck jupiter』 ♯1◆

 最初に異変に気付いたのは、意外にもSSDFではなく、太陽系の人類圏各地のアマチュア天文家達であった。

 VS艦隊のファンでもあった彼らは、ファン同士の独自のネットワークと、民生品とはいえ航行中の航宙艦の推進噴射炎を観測可能な天体観測機器を駆使して、〈斗南〉出航以降の〈じんりゅう〉を追跡観測を続けており、無人艦と共に木星の大赤斑に潜航していったことも、SSDFからの公式発表がなされる前からすでに観測し認識していた。

 さすがに木星雲海に潜航して以降の動向を知る術までは持たなかったが、それでも〈じんりゅう〉が浮上してくる瞬間を捉えようと木星自体の観測は続けていた。

 彼らがその異変に気づけたのは、木星を遠く離れた位置から観測していたが故であった。木星衛星軌道上のSSDFには、近過ぎて逆に分からなかったのだ。

 その異変は、すでに広く認識されている大赤斑の赤道方向への移動とはまた別の異変であり、ごくわずかな差異でしかなかったが、間違いの無い数値として現れていた。

 見なれていた木星の姿が、いつの間にか記憶よりも潰れていた。

 より正確にいうならば、木星極点間の距離が数十キロ単位で縮まり、代わりに赤道部の直径が長くなっていた。

 元々早すぎる自転速度により、僅かに上下に潰れた楕球形だった木星の形状的特徴が、まるで何かに押しつぶされているかのように。より顕著になっていっているのだ。

 そしてその変化は加速度的に強まっていった。

 太陽系人類圏を緩やかに繋いでいるネットワーク内の、VSファン交流サイトは、俄かにこの話題で持ち切りとなった。





「こりゃあ……ひょっとするとひょっとするぞ……」


 ノォバは思わず呟いていた。

 オリジナルUVDが大赤斑の底にある。その事実を知った直後に、彼は〈じんりゅう〉と同じように〈ヘファイストス〉の電算室にて【グォイド行動予測プラグラム】を走らせ、グォイドが木星の恒星化を目論んでいるという可能性に行きついていた。

 そしてその予測が的中していた確証を、VSファンの交流サイトから発見してしまったのだ。


「あのぉ……できれば私にも分かるように、状況を教えて頂けると嬉しいのですが……」


 事態を今一呑みこめていないクロヴチが、忙しなく動き始めたテューラとノォバに乞うように尋ねた。


「木星が上下に潰れているように見えるのは、自転の遠心力が加わらない極点部分が最も重力増大の影響を強く受ける傾向があるからだ。逆に赤道部分はそのしわ寄せでガス層が厚くなる……」

 

 ノォバはクロヴチの顔を見て、それだけの説明では理解できていないことを悟って付け足した。


「……つまりオリジナルUVDによって木星の恒星化が行われているというのは、間違いないってことが分かったってことだ。木星が潰れて見えるのは、木星深部の重力が増大している証拠であり、それが木星恒星化の第一段階だからな」

「……」

「良かったなクロヴチさん、あんたここに来た甲斐があったてことが証明されたよ」


 まだきょとんとしているクロヴチに、ノォバは八つ当たり気味に嫌みを込めて言ってやった。


「……ですが~それでしたらなんで、木星上空にいる我々は、その重力の増大を感じていないんでしょう?」

「一つはこの艦の人工重力が自動で1Gに補正しているからだ。

 もう一つはUVエネルギーが起こす疑似重力ってのは、UVエネルギーがあるところでしか効かないからだ。そしてUVエネルギーはUVDから出るとすぐ消滅しちまうから、木星上空にいる俺らまで影響は及ぼさないんだ」

「なるほど、分かったような気がします……ですがもう一つだけ……良いですか」

「なんだ?」

「オリジナルUVDがあるのは大赤斑の底なんですよねぇ? なのになんでそこを中心にしてじゃなく、木星の中心(・・・・・)から縮んでいるんでしょう?」

「……」


 クロヴチのその問いに、ノォバは即答できなかった。

 確かに彼の言う通りだ。

 オリジナルUVDが木星中心部にあるならばさておき、深度2300キロとはいえ、そこはまだ巨大な木星の極上澄みの部分でしかない。そんな大赤斑のすぐ下にあるオリジナルUVDが、なぜ木星全体を均一に楕球形に縮められてるのか?

 ノォバはまだ解きあかせていない謎が数多あることを、改めて確信した。その謎を何とか解かない限り、今の窮状は打開できないとも……。


「チーフ! 〈じんりゅう〉からメッセージと下の状況データが届いたぞ!」


 ノォバの思考は、テューラの声によって一時中断された。


「どうやら通信ラインが途切れた無人艦との間でプローブを飛ばして、無理矢理メッセージ・データを送ってきたらしい」


 テューラは説明するが早いか、届いた音声ファイルを開いた。












『〈じんりゅう〉艦長・秋津島ユリノより【紅き潮流】作戦指揮所(MC)へ報告。

 〈じんりゅう〉は【紅き潮流】開始より3時間20分、木星大赤斑中心部、深度2300キロにてナマコ型潜雲グォイド及び稼働状態のオリジナルUVDを発見、さらにグォイドと交戦している正体不明の生物的アンノウンを観測。

 現状を〈じんりゅう〉メインコンピュータの【グォイド行動予測プラグラム】に掛けた結果、グォイドの目論見が木星の恒星化であると判断。

 緊急対応の要有りと認む。

 〈じんりゅう〉クルーは協議の結果、状況打開策として、〈ヘファイストス〉搭載の大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルを利用した、稼働中のオリジナルUVDの停止および回収作戦を提案します…………』










 ――〈じんりゅう〉バトル・ブリッジ――。


作戦指揮所(MC)にちゃんと届いたでしょうか?」

「データを吹き込んだプローブが、後方の〈ラパナス改〉二号艦から射出されたのは確認されてるのだろう? なら大丈夫ではないのか? ……まぁ、どちらにせよ、10分後には分かることだ」


 不安気なミユミに、カオルコが全く気休めにならない言葉で返した。

 ユリノはそんな二人の会話を聞きながら、ひたすら思考を巡らせ続けた。

 もし、メッセージがちゃんと届いていなければ、彼女達が考え出した作戦はその時点で失敗する。その場合、木星は第二の太陽となり、当然その中にいる彼女達の命は無い。

 もっと時間をかけて、状況を見極め、準備を整え、万全の態勢で、と望んでしまうが、事態がそれを許さなかった。

 オリジナルUVD発見から約30分、さらなる観測と検討を続けた結果、色々と分かって来たことがあった。

 今、木星恒星化を進めている稼働中のオリジナルUVDの周囲で、謎の木星生物状物体スネークイドとナマコ型潜雲グォイドと戦っているのは、状況から見て、グォイドの手にオリジナルUVDを完全に渡ってしまうのを、何故かは分からないがスネークイドが阻止しようとしている為のようであった。

 もし、スネークイドが殲滅されてしまえば、オリジナルUVDは完全にグォイドの手に渡り、恒星化を阻止するチャンスも無くなってしまう……〈じんりゅう〉が何とかしない限りは。

 しかし〈じんりゅう〉と無人艦〈ラパナス改〉D型二隻だけでは、オリジナルUVDを停止させる術は無い。

 オリジナルUVDを停止させるには、木星赤道上空にいる〈ヘファイストス〉に準備されている大型耐圧特殊UV弾頭ミサイル二発を、稼働中のオリジナルUVDに向けて発射してもらい、オリジナルUVDの上下で起爆、周囲の大気を吹き飛ばすと同時に、オリジナルUVDを稼働させている磁場をEMP効果で相殺し、停止に至らせるしかなかった。

 なぜミサイルが一発では無く二発使われるのかというと、ミサイル一発のみの爆発でオリジナルUVDの稼働停止を試みた場合、爆発の瞬間、停止させる前にオリジナルUVDが爆風によって明後日の方向に吹き飛ばされてしまう可能性があるからだ。

 オリジナルUVDの停止は、ミサイル二発の上下からの同時爆発による爆風で、オリジナルUVDがどこへも飛ばされないよう押さえつけるようにした状態で停止させねばならない。

 そしてその際は微細かつ機敏なコントロールが求められる為、無人艦を介したレスポンスに劣る遠隔操作ではなく、【ANESYS】を用いた〈じんりゅう〉によって直接コントロールする必要があった。

 プローブを使って送ったメッセージでは、丁度今から10分後にミサイルを発射するよう要請している。

 〈じんりゅう〉は今、特殊UV弾頭ミサイル誘導に備え、無人艦〈ラパナス改〉一号二号艦をオリジナルUVDの周辺観測に残し、ゆっくりと上昇を開始したところであった。

 【オリジナルUVD停止・回収作戦】は、およそ以下のような手順で行われる予定であった。




▼フェイズ1

 〈じんりゅう〉は、そのままリレー通信による遠隔操作で、下方に残してきた無人艦〈ラパナス改〉一・二号艦によるオリジナルUVDの観測が可能なギリギリの距離まで上昇し、待機。


▼フェイズ2

 上空より大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルの降下が確認でき次第、〈じんりゅう〉は【ANESYS】を起動し、ミサイルをコントロールしつつ垂直降下を開始。


▼フェイズ3

 艦尾にミサイルを従えつつ、〈じんりゅう〉はオリジナルUVDの脇を高速で通過、そのまま限界深度までガス雲を潜航し、艦尾方向で起きるミサイルの爆発から難を逃れつつ、【ANESYS】の能力で正確にミサイルを起爆、オリジナルUVDを停止させる。


▼フェイス4

 停止状態となり、木星重力に従い落下してくるはずのオリジナルUVDを〈じんりゅう〉はその直下で待ちかまえる形で回収。


▼フェイズ5

 〈じんりゅう〉、オリジナルUVDと共に木星ガス雲より浮上、上空待機中の僚艦と合流し作戦終了。




 自分達に許された時間内で考えた作戦要項は、これが精一杯であった。

 正直言って、まだまだ実行に際して不透明な点が多々ある。

 そもそも作戦の立案以前に、今の状況には謎が多過ぎるのだ。

 なぜここにオリジナルUVDがあるのか?

 そのオリジナルUVDは何故稼働し始めていたのか?

 大赤斑は何故移動しているのか?

 あのスネークイドは何者なのか?

 この謎が解き明かせていない中でたてた作戦が、完璧であろうはずが無かった。

 今もなお、電算室のシズ、エクスプリカ、キルスティが作戦の詳細を時間が許す限り詰めているが、それが可能なのはミサイルが降下してくる直前までだ。

 時間にして猶予はあと30分程しか無い。

 時間の期限がなければ、ユリノとてこんな性急な作戦を実行しようなどと思わなかった。

 何かとても大事な事を欠いている気がする。分かっている数々の謎だけでなく、とてもとても大切で重大な何かが……今〈じんりゅう〉には必要な気がする。

 ユリノはその感覚を打ち消すことが出来なかった。

 しかし、うじうじと現状を悩んでいても仕方が無い。

 ユリノは今自分達に出来うることを一つでも行っておくことにした。


「それでケイジ君、〈じんりゅう〉でオリジナルUVDを持って帰る手段は考えついたの?」

「……」


 機関長からの返事は無かった。ただ眼を見開いて、ぽかんとした顔でこちらを見ているだけだった。

 ユリノは最初、なぜ機関長が答えてくれないのか分からなかった。

 ふとブリッジ内を見まわすと、機関長だけでなく、他のクルーまでもが目を見開いて自分を見つめていた。


「あ~げっほん! げっほん!(……艦長~……キ・ル・ス・ティ・イ)」


 艦長席の前に座っていたカオルコが、見かねて咳払いの後に息声で教えてくれた。クルーに丸聞えの音量だったが……。


「ァ~ッ!! ◇★●♯π~!…………」


 自分のしでかした重大なミスをさらに数秒程かけて認識すると、思わず可聴域を超えた悲鳴が漏れてしまった。

 よりにもよってこのタイミングで彼と間違えてしまうとは!


 ――これじゃ……これではまるで……自分が今一番必要としてるのが……。


 ユリノはそれ以上考えてしまいそうになるのを、顔を振って無理苦理止めた。

 頬がかっと熱くなるのを感じて、ユリノは艦長帽を一度脱ぎ、髪かき上げるついでに拳で額の汗を拭うと、改めて艦長帽を深く被り直し、覚悟を決めた。


「こほん。でキルスティちゃん、〈じんりゅう〉でオリジナルUVDを持って帰る手段は考えついたの?」


 ユリノは先ほどの発言を無かったことにする覚悟を決め、キルスティに尋ねた。

 とりあえず、腕がついてる訳でも無い〈じんりゅう〉で、如何にして停止させたオリジナルUVDをキャッチして運ぶかを決めなくては!


「あ~……え~……と」


 キルスティはユリノの潤んだ瞳を見て、先ほどの発言には触れないでおこうと決めたようであった。


「え~オリジナルUVDを〈じんりゅう〉で運ぶ手段ですが、条件付きになりますが一応見つけることができました」


 キルスティはそう言うと、ビュワーの一つに〈じんりゅう〉の側面図を呼び出した。


「先の大規模改修で、〈じんりゅう〉のメイン・スラスターノズル中心部のノズルコーンの先端部には、緊急時にオリジナルUVDを外部からキックスタートさせる為のソケット機能が増設されました」


 そう言いながらキルスティは〈じんりゅう〉艦尾のメイン・スラスターノズルの中心部にある円錐状の物体の先端をカーソルの矢印で示した。


「これは……そんな緊急事態が二度も起きるとは思えないのですが……先の第五次大規模侵攻迎撃戦で〈じんりゅう〉が戦闘によって補助エンジンを二基以上失い、なおかつオリジナルUVDの起動の必要性に迫られた時に、ケレス近傍の小惑星内にて、元々〈じんりゅう〉に搭載されていたメインの人造UVDをノズル・コーン先端に無理矢理接続して、キックスターターとして起動させた件からの教訓として、新たに装備された機能なのですが……」


 ビュワー内の〈じんりゅう〉側面図の後方から、同スケールのオリジナルUVDが現れると、〈じんりゅう〉艦尾メインスラスターの中心部にあるノズルコーンの先端が開口、そこに円柱状のオリジナルUVDの先端部がめり込むようにして突入した。


「このように、このノズルコーン先端のソケット機能は、人造UVDとオリジナルUVDとでは規格が同一である為に、〈じんりゅう〉艦尾に停止状態のオリジナルUVDをそのまま接続・固定する事が、一応は可能になります」


 オリジナルUVDはその全長の九割がまだ〈じんりゅう〉からはみ出た状態ではあるが、これで一応は〈じんりゅう〉でオリジナルUVDを運ぶことができそうであった。


「しかし見ての通り、接続されているとは言え、盛大に艦尾からはみ出ている状態ですので、荒っぽい操艦を行うことは禁物です……すみません艦長、私に思いつくのはこれが精一杯です」

「気にしないでキルスティちゃん、この状況から言ったら充分に上出来よ」


 すまなそうにそう告げるキルスティに、ユリノは答えた。

 半年前、ケレス沖会戦直前のあの時、ケイジ少年はノズルコーンの先端に、廃材ででっちあげたトラス構造の短いパイプ状の治具をはめ込むことで、無理矢理人造UVDを固定し、オリジナルUVDの現地起動を成し遂げたわけだが、結果ケイジはその治具に脚を挟まれて、右脚を失ってしまった。

 ノォバ・チーフのノズル・コーンの改修はこの教訓への対処なわけだが、いかに一度直面した問題には、二度も困ることが無いようにするのが技術科の信条とはいえ、こんなことにまで対処していたのか……とユリノは己が義兄に呆れる他無かった。

 しかし、ノォバ・チーフのこの改修が、今、〈じんりゅう〉の助けとなっているのだから運命とは分からないものだ……とユリノは思い、そして義兄に感謝しておいた。

「艦長、ですがまだこのオリジナルUVDの回収方法には問題点が幾つかあります。一つは、オリジナルUVDを〈じんりゅう〉に固定する為のポケット(・・・・)は確保できましたが、キャッチ(・・・・)する為の腕が無いということです」


「何か策はあるんでしょ?」

「え~と策とは言えないかもしれないですが、そこはぶっちゃけ【ANESYS】による操艦でなんとかしてもらう他ありません」

「ああ、やっぱり……」


 ユリノは上手く想像できなかったが、重力に引かれて落下してくるオリジナルUVDを、艦尾を上に向けた〈じんりゅう〉が上手くノズルコーンに収まるようにキャッチするのは、【ANESYS】中ならば可能だろう……というか【ANESYS】を使う以外無さそうだ。


「まるでけん玉ね……」

「はい?」

「なんでもないわ、続けて」

「はい、二つめの問題は、オリジナルUVDがノズル・コーン先端にくっついている為に、メインスラスターが最大推力で吹かせなくなることです。もう一つは……」

「まだあるんだ……」

「はい……まぁ当たり前といえば当たり前と言いますか……問題と言うより覚悟の話なのですが、【ANESYS】終了後の、オリジナルUVDを艦尾にくっ付けた状態の〈じんりゅう〉は、当然ながらフィニィ少佐に操舵してもらわなければなりません」

「まぁ当然そうなるわよね……だってさフィニィ? 今の話聞いてた?」


 ユリノはバトル・ブリッジ最前列の操舵席に尋ねた。

 〈じんりゅう〉操舵士は座席の影から腕を出しサムズアップすると答えた。


「ボク……どうせそんなことだろうって思ってた」


 フィニィはどこか寂しげにそう言った。

 艦尾に大荷物を付けた〈じんりゅう〉を、この木星雲海の大気圧の中で操るのはさぞかし緊張を強いる行いだろうが、彼女以上の適任者がいない以上仕方無い。


「頼むわフィニィ」


 ユリノはそう言う他無かった。


「よし、おシズちゃんそっちの分析状況は?」

『艦長、正直に言ってあまり良いニュースは無いのです』

「かまわないわ、新しい情報があるなら教えて」


 ユリノは引き続き電算室にて、オリジナルUVDの周辺状況を調べているシズに尋ねた。


『分かりましたのです。稼働中のオリジナルUVDについてさらに調べた結果、不可解な点が見つかったのです』

「これ以上まだ不可解なことがあるっていうのぉ?」


 ユリノは思わず上ずった声で訊き返した。

 木星大赤斑の底に、オリジナルUVDが謎の生物と共に稼働状態で存在する……すでに不可解さについては在庫切れをおこしていると思っていたが、それは願望であって現実では無かったようだ。


『はい艦長、オリジナルUVDから噴出しているUVエネルギーの総量を観察した結果、噴出したUVエネルギーの多くが、木星大赤斑中心部の、さらに奥底へと吸い込まれているらしいことが分かったのです』

「んんん?」

『つまり、オリジナルUVDから出たUVエネルギーは、ただ四散しているわけではなく、明確になんらかの力によって、木星中心部に向かって吸い込まれているのです』

「何かって何が?」

『分からないのです。しかしその何かが、木星を恒星化させるのかもしれないとシズは考えているのです』

「……」


 ユリノは言葉が出てこなかった。シズの言う通り、確かに出来うるものなら知りたくは無かった事実だった。


「つまり、ますますもって、あのオリジナルUVDを何とかせにゃならないってことよね……」


 ユリノはそう結論づけた。

 〈斗南〉を出発した時は、〈じんりゅう〉が大幅に改修されたこともあり、この先グォイドとの戦いで、ケレス沖会戦のような苦戦をすることなどもう二度と無いと思っていた。

 が、現実はユリノの想像を遥かに超える試練ばかりを与えて来る。

 ユリノは運命の神様を恨めしく思いながら、ブリッジの天面ビュワーを見上げた。

 どんな謎や問題があっても、今の自分達には、位置情報視覚化《LDV》プログラムによって映像化されたガス雲の彼方から、大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルが降下してくるのを待つことしか出来ないのだ。


「艦長! 大変だぞ!」

「艦長! これを見て下さいデス!」


 クィンティルラとルジーナに同時に呼ばれ、ユリノの思考は中断された。


「今度は何!?」

「例のスネークイドが残り二匹になっちまった。もうすぐ全滅しちまうぞ!」

「ワタシの報告も同じデス。グォイドはまだ五隻もいますデス。このままいくと、オリジナルUVDがナマコ・グォイドに確保されてしまいます!」


 電算室に行ったシズに代わり無人艦〈ラパナス改〉一号艦を操っていたクィンティルラと、索敵担当のルジーナの言葉に、ユリノは一瞬返す言葉が出てこなかった。










 ――【オリジナルUVD停止・回収作戦】――。

 ▼フェイズ1進行中▲











「で、チーフ、例のミサイルの発射準備は間に合うんだろうな?」

「簡単に言ってくれるなテューラ、ユリノ達の要請は、大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルの本来の使い道とは全然違うんだぞ」


 〈ヘファイストス〉作戦指揮所(MC)では、〈じんりゅう〉からの突然の要請に、大わらわで準備の真っ最中であった。

 〈ヘファイストス〉他の木星上空で待機していたSSDF艦は、一度大赤斑真上の静止衛星軌道まで上昇した後に、艦尾を真下の大赤斑に向け、盛大に艦尾メインスラスターを吹かしながら降下を開始し、ミサイル発射位置へと向かう最中であった。

 もともと大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルの発射は予定されていたことであり、艦の移動それ自体には問題は無かった。

 問題があったのは大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルの調整の方であった。

 グォイドを沈めるのとオリジナルUVDを止めるのでは、使用目的に大きな差がある。ノォバは発射タイムリミットぎりぎりまでミサイルの調整をすると主張し、譲らなかった。

 この【紅き潮流】作戦の為に用意されていた大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルは、本来はSSDF第五艦隊・大質量高速実体弾砲艦艦隊〈トレビシュタット〉が使う大質量実体砲弾用であったものを改造したものであった。

 小型UVDを搭載することで強力なUVシールドを展開し、対宙レーザー等で迎撃されることなくシードピラー等の撃破を可能とする試作砲弾を、ノォバは大型ミサイルの弾頭にすることで、本作戦に使おうとしたのであった。

 強力なUVシールドが展開可能となることで、木星深部の高ガス圧大気内を物ともせずに進入可能となり、グォイドを確実に撃破できるミサイルとなったはずだったのだが、ノォバにとって目的の変更は計算違いであった。


「このミサイルは基本的に破壊が目的のブツなんだ。オリジナルUVDの停止に使いたいならちゃんといじっておかないと、爆発で〈じんりゅう〉までお陀仏になっちまうぞ」


 ノォバは〈ヘファイストス〉の部下たちに指示を下しながらテューラに説いた。


「ガス雲内での【ANESYS】によるコントロールに備え、通信機能と起爆レベルの調整機能を可能な限り上げておく!」

「分かったチーフ、でも時間には間に合わせておくれよ」


 テューラの言葉に、ノォバはただ頷くと、ミサイル格納庫に自ら調整の為に駆けだした。


「こっちはミサイル到達前に〈じんりゅう〉へ我々が得た新情報を伝える。クロヴチ中佐」

「はい?」


 突然テューラに呼ばれ、所在無さ気だったクロヴチは驚いた声を上げた。


「あなたが持ってきたそのドクター・スィンに関する資料、全部〈じんりゅう〉に送らせてもらうからな!」

「……」

 

 クロヴチはテューラの言葉にあからさまに嫌な顔をした。










――ミサイル降下予定時刻五分前――。


「それってマジか艦長? 本気の本気で?」


 クィンティルラが珍しく困惑したような顔で、再度問い返した。


「下に残してきた〈ラパナス改〉一号艦でスネークイドを援護してクィンティルラ、私は本気よ」

「Oh……」


 ユリノの下した結論に、クィンティルラは絶句した。

 合位置情報図(スィロム)内では、とうとう最後の一匹となったスネークイドが、迫るナマコ・グォイドに対し孤軍奮闘していた。


「確かにスネークイドが何者なのかは分かっていないけれど、現状得られた情報から言って、オリジナルUVDがグォイドの手に渡ることだけは阻止しなくちゃいけないわ・クィンティルラ、手遅れになる前に〈ラパナス改〉で暴れなさい!」

「……暴れても良いんだ……」


 スネークイドの援護云々はさておき、クィンティルラはユリノの指示をリミッター解除の許可と解釈したようであった。


「ヒィヤッホォオゥ~イッ!」


 クィンティルラの雄叫びと共に、総合位置情報図(スィロム)内でオリジナルUVDの周りを潮流にのって周回していた〈ラパナス改〉一号艦が、それまでの動きが嘘のように加速を開始すると、まるで獲物の狙う猛禽の如くグォイドに向かって襲いかかった。


「分かってるとは思うけれど、下手にミサイルでグォイドを仕留めると……」


 ユリノが「……敵の爆発に巻き込まれるわよ」と注意する間も無く、〈ラパナス改〉が一隻のナマコ・グォイドのすぐ脇を通過し、そのすれ違った直後に艦尾からミサイルを放った。

 突然現れた敵に、対処する間もなくミサイルを土手っ腹に食らうナマコ・グォイド。

 たちまち微妙に歪んだ衝撃破を放ちながら、グォイドは爆散していったが、その頃には〈ラパナス改〉はすでに衝撃破の危険ゾーンの下方へと抜けていた。

 クィンティルラは充分に木星高圧大気内での戦闘の仕方を分かっているようだった。


「艦長! 来ましたデス!」


 ルジーナの切迫した報告。

 ユリノは反射的に天面ビュワーを見上げた。


「直上より大型耐圧特殊UV弾頭ミサイルの降下を確認デス!」


 ルジーナの報告と同時に、ユリノが見上げるビュワー画面に、ミサイルを示すアイコンが、ごく小さくだがピョコンと現れた。

 待ちわびたミサイルがとうとう来たのだ。どうやら木星上空の作戦指揮所(MC)へ、〈じんりゅう〉の送ったプローブは無事届いたようだ。


「かかか、艦長! 作戦指揮所(MC)からのメッセージもプローブで来ました。何か色々データも含まれています!」

 さらにミユミの報告。


「……」


 ユリノはミユミの報告の意味をしばし考えた。

 テューラ司令とノォバ・チーフはミサイルを発射しただけでなく、一体何か伝えたいことがあってメッセージを送ってきたとうのか?

 しかし、いよいよ持って、時間が無かった。


「総員【ANESYS】起動準備! ミユミちゃん、上からのメッセージは【ANESYS】の最中に処理する!」


 ユリノは決断を下した。

 小気味良く返って来るクルーの了解という返事の数々。

 シズはそのままバトル・ブリッジ直下の電算室で、パイロット二人は本来シズが座る無人艦指揮席で展開した簡易座席上で【ANESYS】の態勢に入った。


「皆、行くわよ!【ANESYS】エンゲージ!」


 〈じんりゅう〉は艦首を真下のオリジナルUVDに向けると、しばらくぶりに艦尾スラスター群に点火、猛烈に加速しながら降下を開始した。







 ――【オリジナルUVD停止・回収作戦】――


 ▼フェイズ1からフェイズ2『上空より大型耐圧特殊UV弾道ミサイルの降下が確認でき次第、〈じんりゅう〉は【ANESYS】を起動し、ミサイルをコントロールしつつ垂直降下を開始』へと移行▲



挿絵(By みてみん)


新章にしてEp2終章開幕です!

はたして無事に物語は着地できるのか!?


ご意見、感想、アイデア、ご指摘お待ちしております

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