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リバース・スラスターズ  作者: マユ・クロフト
Episode4  遠い宇宙《そら》の向こうに (後編)
150/277

▼ 終章   『遠い宇宙《そら》の向こうに』 ♯4


 放った実体弾とUV弾頭ミサイルの射線上で、ガス大気表層が半球状に盛り上がったかと思うと、次の瞬間盛大なガス柱となって飛沫と共に破裂した。

 ガス大気の奥底で、獲物を仕留めたことを示すガス雲表層の大爆発であった。

 その爆発規模からいって、最低でも一基の敵艦UVDを破壊したことは間違いない。

 敵への到達時間から考えて、我が方の放った実体弾による戦果と考えられた。

 問題は本命のUV弾頭ミサイルの戦果だ。

 UV弾頭ミサイルは実体弾より遅れて着弾するが、誘導機能がある分、この状況下では実体弾よりも戦果が期待できる。

 数秒後のミサイル敵艦隊到達予想時刻が過ぎ、さらに数秒後、ガス表層の爆発が複数発生した。

 が、それは規模からいってUV弾頭ミサイルが迎撃されたことによる、ミサイル弾頭部のUVキャパシタによる爆発でしかなかった。

 爆発規模が小さすぎた。

 【ダーク・タワー】を統べるグォイド総合意識は、敵艦隊が向かってくると予測される方向に、ただ意識を集中する他なかった。

 残るUV弾頭ミサイルが敵艦に命中し、その大爆発が目の前のガス大気表層に、再び巨大なガス柱をそびえ立たせることを期待して……。

 そして最初のUVD爆発のガス柱が、土星重力と赤道ガス潮流によって霧散しつつ表層に還ろうとしたその瞬間、新たな巨大ガス柱が立ち上がった。

 期待した以上のサイズのガス柱だった。

 UVDの一基による爆発どころか、複数のUVD爆発でなければ考えられないようなガス柱が、【ダーク・タワー】の手前にそびえ立つ。

 一瞬、グォイド総合意識は目標の敵部隊を殲滅した可能性を考えた。

 が、その期待は一瞬で裏切られた。

 今、目の前に立ち上がった最大規模のガス柱は、敵艦を破壊したことによって発生したものではない。

 何故ならば、そのガスの逆さ大瀑布を突き破り、恐ろしく巨大な敵航宙艦を中心に、十数隻からなる敵艦隊が現れたからだ。







 ――その数十秒前、


「うわ~ん! 死ぬかと思ったよぅ!」


 ユリノは思わず口をついて出てきそうになった悲鳴を、代わりにミユミが叫んでくれてほっとした。

 確かに死ぬかと思った。

 UV弾頭ミサイルは、その飛翔速度から宇宙戦闘においては対宙レーザーで迎撃される確率が高い。

 だが、命中した場合はUVシールドを貫徹できる為、一発でも航宙艦を撃沈させることが可能な兵器だ。

 それはたとえオリジナルUVDを主機関とする〈じんりゅう〉のUVシールドであっても変わりはなく、〈じんりゅう〉右舷中央に命中したUV弾頭ミサイルは、そのまま〈じんりゅう〉の船体を真っ二つにしてもおかしくはなかった……はずだった。

 が、今ユリノ達は生きていた。

 UV弾頭ミサイルのサイズによっては、浸透した破壊エネルギーによって、直接バトル・ブリッジが消し飛んでいたかもしれないのにも関わらずにだ。

 まごうことなきミサイル命中時の衝撃がブリッジを襲い、そして過ぎ去ると、ユリノ達は思わず互いに顔を見回し、無事を確認してしまった。


「被害報告~ッ!」

「敵ミサイル、右舷中央船体前部Cブロック第三デッキに着弾! 第六装甲まで貫徹、減圧警報あり! 内部UVキャパシタ破損、各部隔壁閉鎖処理完了、ヒューボによる応急処置済み! 以上!」

「い、い、い……以上!? なんでぇ」


 サヲリの報告が予想よりも短く終わったことに、ユリノは思わずそうこぼした。

 多層装甲を全て貫徹され、その下のUVキャパシタを破壊し、与圧された内部区画にまでダメージが及んでるにも関わらず、被害はそこまでで何故か止まり、今〈じんりゅう〉は大穴こそ開いたものの健在だった。


「艦長! 何故〈じんりゅう〉が沈まなかったのか分かったっぽいです!」


 最初に答にたどり着いたのは、やはりケイジ少年だった。


「あの……ダメージ部分で露出している艦のメインフレームが、恐ろしく無傷です! これってひょっと――」

「艦長、大変なのです!」


 ダメージ部分をビジュアル化して、ビュワーに投影したところで、ケイジの言葉は遮られた。

「主機関室から艦首フィギュアヘッドにかけての船体メインフレームが、オリジナルUVDと同質の物質に置き換わっているのです!」


 言いよどむケイジを遮って続けたシズの説明に、ユリノは他のクルーと共に「はいぃ!?」と訊き返した。








 一瞬で理解した……。

 【ウォール・メイカー】の異星AIは、〈じんりゅう〉の残骸から〈じんりゅう〉を再生させる際に、空っぽになっていた主機関室に、【ウォール・メイカー】の主動力源であったオリジナルUVDを入れておいてくれた。

 気前が良いとユリノは思ったものだが、【ウォール・メイカー】の異星AIのサービスはそれだけではなかったのだ。

 異星AIは【ウォール・メイカー】の超絶的立体造形機機能を用いて〈じんりゅう〉を再生させる際に、ついでに〈じんりゅう〉の主骨格(メイン・フレーム)をオリジナルUVDと同質素材(マテリアル)にして作り直してくれたのだ。

 オリジナルUVDは、人類が発見以来、今もなお謎多き異星遺物であり、判明しているのはUVDとしての機能と、絶対に破壊が不可能であるということだけだ。

 その絶対破壊不可能だという事実が、今、再生〈じんりゅう〉の主骨格(メイン・フレーム)となったことで、艦とクルーの命を救ったのだ。

 〈じんりゅう〉右舷船体中央やや前部に命中したUV弾頭ミサイルは、装甲と内部のUVキャパシタを破壊したが、その奥にあったオリジナルUVD同質素材(マテリアル)製のフレームによって、それ以上の破壊エネルギーの浸透が阻まれ、今、自分達は無事だったのだ。

 ビジュアル化され、ビュワーに映された船体ダメージ部の大穴に、異常に無傷な状態でのぞく主骨格メイン・フレームの一部が、その事実を補足証明していた。


「艦長、艦内各部で素材不明部分を多数発見。

 オリジナルUVD同質素材(マテリアル)は、艦首フィギュアヘッドとメイン・フレームの他、メインスラスターノズル内部、およびダメージバッファ中枢部でも置き換わっている模様なのです!」


 シズがオリジナルUVD同質素材(マテリアル)に置き換わった部分を、ビュワーの一つに〈じんりゅう〉の内部構造図を表示しながら告げた。


「これはこれはぁ……」


 カオルコが内部構造を見ながらあきれたように呟いた。

 墜落し、鉄屑同然の残骸となった挙句、【ウォール・メイカー】に取り込まれ原子レベルにまで分解されたはずの〈じんりゅう〉は、

同じく【ウォール・メイカー】によって再生された。

 ユリノ達はこうして生まれ変わった〈じんりゅう〉が、はたして本当に〈じんりゅう〉なのか? と疑う間もなく乗り込み、本物と変わりないと信じて【ダーク・タワー】破壊作戦に打って出た。

 だが、やはり今乗っている〈じんりゅう〉は、原子レベルで元の〈じんりゅう〉と同質ではあっても、とんでもないところで差異があったのだ。

 だがそれは、恐れていたようなクルーの身に危険を及ぼす類の差異では無かった。

 その差異は、今ユリノ達の救いの女神となっていたのだ。

 ユリノは新たに明かされたこの差異によって、今の〈じんりゅう〉なら何が出来るか? という可能性が猛烈な勢いで開けていくのを感じた。


「フィニィ! カオルコ! 皆……やるわよ」


 ユリノは改めて皆に告げた。


「艦長、もう向かってるよ」

「こちらもいつでも撃てる」


 フィニィがサムズアップした拳を座席越しに掲げ、カオルコはポニーテールを翻しながら答えた。


「俺も頑張ってるからな!」


 さらに補助操舵席のクィンティルラが手を振って主張した。

 〈じんりゅう〉を先頭に、〈アクシヲン三世〉と再生SSDF航宙艦艦隊が急上昇しつつ【ダーク・タワー】に急接近する。

 ガス雲海からの浮上に伴い、メインビュワーの位置情報視覚化(LDV)プログラムによる彩り豊かな前方映像が、凄まじい雲の飛沫が一瞬画面を洗ったかと思うと、じわりと夜間暗視映像へと変化していった。

 雲海の水平線の奥に、夜の星空を背景にぽつんとそびえる【ダーク・タワー】の姿が、〈じんりゅう〉から直接捉えられる。


「あった!」


 思わずケイジがそう声に出すのを聞きながら、ユリノもまた彼と同じものをそびえる【ダーク・タワー】の麓、雲海の表層やや左方向に目視した。

 小ピラーの先端部だ。

 そこからさらに【ダーク・タワー】メインピラー先端に向け、細いワイヤーが伸びているのが、〈じんりゅう〉の急接近に伴って確認できた。

 ワイヤーは最初髪の毛のように細く見えたが、〈じんりゅう〉の接近にともなってみるみる太くなって見えていく。


「カオルコ! 全艦、撃ち方はじめ~っ!」


 ユリノは一瞬、これまでの土星圏での経験の全てに思いを馳せると、万感の思いを込めて叫んだ。

 この攻撃に、太陽系に住まう全人類の未来がかかっている…………かもしれない。

 ……そのはずなのだが、実際に行うのはただ口を動かし言葉を発することだけなのを、ユリノは今更ながら不思議に思った。


「了解! 撃つ!」


 猛烈な速度でビュワー内の小ピラーが巨大化する中、カオルコが叫びながらピストル状操作桿のトリガーを引く背中が見えた。

 同時に、メインビュワーの上下左右から、〈じんりゅう〉を始めとした艦隊全艦が放つ全火力の光の軌跡が、【ダーク・タワー】小ピラー先端へと殺到するのが見えた。










 その瞬間、【ダーク・タワー】を統べるグォイド総合意識に撃つことが可能だったのは、タワーに備えられた対宙迎撃レーザー砲群だけだった。

 もちろんUVシールド相手には、効果は限りなく皆無に近いことは承知していた。

 だが雲海より浮上した敵艦隊に、ひたすら放ち続けずにはいられなかったのだ。

 しかしUVシールドが展開されている限り、対宙レーザーは敵艦に対し一切のダメージを与えることは叶わなかった。

 土星大気圏で発せられた無数のレーザーは、夜の面の土星に、微かなイルミネーションとなって彩をそえる以上の効果は成しえなかった。

 超巨大航宙艦を中心とした敵艦隊は、その対宙レーザーの無数の光刃をUVシールドで受け止めるがままに無視し、他には目もくれずに【ダーク・タワー】の雲海表層部に接近すると、グォイド総合意識の最も恐れていた位置をピンポイントで攻撃を開始した。

 対宙迎撃レーザーをもってしても撃ち落とすことが間に合わない必中距離で、UV弾頭ミサイルが各艦から無数に放たれる。

 続いてUVキャノンが火を噴き、虹色の光芒が小ピラーの先端に吸い込まれていく。

 グォイド総合意識は、小ピラー先端部のUVシールドを集中させることで、なんとか敵の攻撃に耐えようと試みた。

 巨大なる【ダーク・タワー】を守るUVシールドの防御力を、可能な限り一点に集中すれば、僅かな可能性だが敵攻撃を防ぐことが可能かもしれなかったからだ。








「固いぞコイツ!」


 カオルコが叫んだ。

 ユリノは画面いっぱいに迫る小ピラー先端に、桁外れの出力のUVシールドが展開されるのを、シールド表面に発生した無数の虹色の波紋で確認した。

 それはかつて木星ガス大気深深度の【ザ・トーラス】内で、グォイド・スフィア弾と交戦した時にも確認した集中型UVシールドに違いなかった。

 あの時、敵グォイド・スフィア弾の集中型UVシールドは、オリジナルUVD出力のUVキャノンの一斉射撃でも貫徹できなかった。

 再生〈じんりゅう〉に当然のように積まれていたUV弾頭ミサイルをはじめ、本来ならUVシールドを無効化するはずのUV弾頭ミサイルが多数打ち込まれたにも関わらず、まだ小ピラー先端の破壊が成しえていない。

 それはシードピラー数十隻相当のUVDが結集され作られた【ダーク・タワー】が、グォイド・スフィア弾を上回る桁外れのUV出力で、集中型UVシールドを展開させているからとしか考えられなかった。

 が、しかし――、


「構うな! 突っ込め!」


 ユリノは即断していた。


「! ……やっぱりね……」


 フィニィはそうぼやきながら、それだけでユリノの意向を理解し、〈じんりゅう〉を集中型UVシールドが守る小ピラー先端へと加速し突っ込ませた。

 メインビュワー内で巨大化し続ける小ピラー先端部が、すでに画面からはみ出す勢いで迫る。

 小ピラーは先端部であっても太さが数百メートルはあるのだ。

 そしてその先端部には同じく直径数百メートルはある滑車と、そこから伸びる太さ百メートル以上はあるワイヤーが伸び、メインピラー【ダーク・タワー】先端へと続いている。

 小ピラー先端部は、UV弾頭ミサイルに加え、〈じんりゅう〉の急接近により破壊力の増したUVキャノンが連続して命中したことにより、集中型UVシールドがついに破られ、命中し始めた弾により爆炎に包まれ始めた。

 だが、小ピラー先端部もまた、他の部位のように巨大過ぎるが故に、完全破壊を困難にしていた。

 連続する命中弾により、かじられたリンゴのように歪なな形へと変貌してくが、今一歩のところで、完全破壊の達成には至らないでいた。

 しかし、ユリノも〈じんりゅう〉も、今更ここで止まるつもりはなかった。


『おい〈じんりゅう〉!? なにするつもりだ!? 〈じんりゅう〉!……〈じんりゅう〉!』


 〈アクシヲン三世〉からフォセッタの通信音声が響く。

 が、それに答える時間的余裕はなかった。


「いけぇ~! オラァ~!」


 フィニィが普段の彼女からは想像できない程に雄々しく叫ぶ。


「艦首UVシールド、出力最大!!」


 サヲリがユリノの指示を受けるまでも無く、〈じんりゅう〉を包むUVシールドを鋭いノミのような形状に変化させ、先端のシールド強度を最大にした。

 そして〈じんりゅう〉はなんの種も仕掛けもなく、艦首から小ピラー先端部へと突っ込んでいった。











「おい! 〈じんりゅ――」


 フォセッタが見守る中、〈アクシヲン三世〉斜め前方を進んでいた〈じんりゅう〉は、目標たる小ピラー先端部を直近を通過するのではなく、真正面からぶち当たっていった。

 フォセッタは思わずそれ以上声にならない悲鳴を上げながら、爆炎と共に後方へと遠ざかる小ピラー先端部を目で追いかけた。


 ――〈アクシヲン三世〉・〈びゃくりゅう〉ユニット・バトル・ブリッジ艦長席――。


「バカヤロ~!!」


 やっと声を出すには、まず息を吸わねばならないことを思い出したフォセッタは、そう声の限りに叫んだ。

 ついさっきUV弾頭ミサイルの盾になったばかりなのに……。

 〈じんりゅう〉の体当たりにより、小ピラー先端部は濛々たる爆炎と共に完全に破壊され、切断された極太のワイヤーは、解放された張力によって【ダーク・タワー】先端に引っ張られ、遥か上方へと猛スピードで消え去っていった。

 自分たちの目的は達成されたのだ。

 だがフォセッタの心には、達成感の欠片も生まれなかった。

 フォセッタは遠ざかっていくその光景を確認する一方で、見えなくなった〈じんりゅう〉の姿を必死で探した。

 フォセッタは今起きたことが一瞬信じられなかった。

 信じたくなかった。

 だが信じる必要もなかった。


『ごめ~ん! こっちは無事よフォセッタ~』


 フォセッタが思わずまた泣きそうになる半歩手前で、やや緊張感に欠ける彼女の声が届いてきたからだ。

 フォセッタが大慌てで視線を泳がすと、通信は〈アクシヲン三世〉の斜め前方から届いていた。

 フォセッタの視線の彼方で、煙の塊を突き破って〈じんりゅう〉が姿を現していた。

 小ピラー先端部の爆炎に気を取られて、その周辺から探してしまっていたが、〈じんりゅう〉は体当たりをする前と同様に、〈アクシヲン三世〉の斜め前方を飛んでいたのだ。

 小ピラー先端部への体当たりによって、その速度を損ずることもなく……。

 ただし、その姿は少々傷ついていた。

 艦首と補助エンジンナセルの前部装甲が、グシャグシャになっている、あるいは脱落し、脱落しかけ、土星大気の風をうけてカタカタ震えて、内部フレームがむき出しになっていた。


「ばかも~ん! 無茶も大概にしろ~ぃ!!」


 フォセッタは喉を枯れるのも構わず怒鳴った。

 〈じんりゅう〉の通信解放されていたブリッジの会話から、〈じんりゅう〉のメインフレームその他がオリジナルUVD同質素材(マテリアル)に置換されていた云々の話はフォセッタも聞いていた。

 〈じんりゅう〉は多少傷はつけども無事だった。

 それは艦のメインフレームが、絶対破壊不可能なオリジナルUVD同質素材(マテリアル)に置換されていたからだ。

 ユリノ艦長はそのことを利用し、最初から生き延びる勝算があって体当たりを慣行し、そして成功させたのだ。

 〈じんりゅう〉艦首はグシャグシャだったが、フィギュア・メインフレームその他のオリジナルUVD同質素材(マテリアル)部分それ自体が巨大な実体弾、あるは刃物となって小ピラー先端部を破壊し、【ダーク・タワー】先端部へと続くワイヤーを断ち切ったのだ。


『ああごめんねフォセッタ中佐……心配かけて……、こっちは大丈夫だから……』


 改めてユリノ艦長からの通信が映像と共に届いた。

 が、艦長帽をかぶり直しながらバストアップで通信画面に映る彼女の顔からは、つーっと鼻血がたれており、フォセッタは真っ青になった。

 画面下部に、コンソールから展張したらしい萎みかけのエアバックが見えたので、おそらくユリノ艦長は体当たりの瞬間、思い切りそのエアバックに頭から突っ込んだのだろう。


「…………まったく……まったくもぉ……………大概にしろ!」


 フォセッタは返す言葉に詰まった挙句、結局そう怒鳴ることしかできなかった。









 フォセッタ中佐に怒鳴られるのも無理ない……ユリノは鼻血を拳で拭いながら、彼女に申し訳なく思った。

 とはいえ、なんとか目論見通りに小ピラー先端部を破壊できたことに安堵もしていた。

 我ながら無茶な行いだとは思ったが……。

 幸いクルーにも、鼻血を出した自分以上の怪我人はいない。

 艦のダメージも、想定の範囲内であった。

 ……問題は、この後だ。


「全艦、予定通りこのまま急上昇し、土星リング()外縁部、敵実体弾投射砲群手前まで移動する!」

「敵の喉元へかぁ!?」

「そうよクィンティルラ、今はそこが一番安全なはず!」


 ユリノは総合位置情報図(スィロム)に想定進路を描き込みながら、操舵席に説明した。

 今、土星リング()の半分は、〈じんりゅう〉の土星降下と共に降り注いだ【ザ・ウォール】の破片によって、未曽有の大混乱に陥っているはずだ。

 ダメージを受けていないのは、破片群に対し、土星の影にあたる部分のリングだけであり、それはリング全体の3割にも満たないはずだ。

 もちろん無事な部分のリングに存在するグォイド実体弾投射砲群は健在なはずだが、今選べる安全地帯の中ではもっともマシだろう。

 そして混乱中の夜の面のリング外縁部からやや内側、敵実体弾投射砲群の目の前を通過する分には、近すぎることと同士討ちの危険から、敵も容易には撃てないはずだ。

 そこから逃げ出すのは面倒かもしれないが……。


「ルジーナ、グォイドの追撃は!?」

「……今のところ確認できませんデス! バラまいたプローブから来る情報を見る限り……土星圏グォイドに動きなしデス……ハイ」


 ルジーナは言っている彼女自身が、何か不審に思っているような声音でユリノの問いに答えた。

 確かに、【ダーク・タワー】に近づく時は雨あられのごとく迎撃してきたのに、小ピラー先端部を破壊後は静か過ぎた。

 ユリノはその原因に心当たりがあった。


「シズ、【ダーク・タワー】と【グォイド増援光点群】の様子は!?」

「それが……」


 彼女からの答えは、そこで途切れた。








 【ダーク・タワー】はそれ自体が破壊こそされたわけでは無かったが、それでも考えうる限り最悪の形で機能を停止させられた。

 長大な【ダーク・タワー】を、土星の重力に抗いながら、同胞【グォイド増援光点群】へと減速用レーザーを照準することが不可能になったのだから……。

 その事実は破壊されたこととほぼ同義であった。

 時間さえあれば、敵艦隊によって破壊された小ピラー先端部の補修はもちろん可能だった。

 が、それで機能を取り戻したとしても、もう手遅れであった。

 光速の2割にまで減速し、太陽系外縁部ヘリオポーズまで来ていた【グォイド増援光点群】は、その眩い減速噴射の光を消した。

 【ダーク・タワー】からの減速用レーザーが、突然明後日の方向を向き、レーザーを受け止めることが出来なくなったからだ。

 土星と【グォイド増援光点群】との長大極まる距離は、土星側でおきたわずかな【ダーク・タワー】の傾きであっても、受け止める側には何千倍の距離となって影響する。

 そして【グォイド増援光点群】には、途絶えた減速用レーザーがいつ再開するか、再開されるのかを知る術は無かった。

 正確に言えば、太陽系で止まるか否かの判断期限までに、土星圏の同胞から知る術は無かった。

 それほどまでに【グォイド増援光点群】の現行速度が高速であり、また実際問題、【ダーク・タワー】からの減速用レーザーの再開は、間に合わないことが決定していた。

 だから【グォイド増援光点群】は、即座に判断した。

 【グォイド増援光点群】は独力を上回る減速能力を、先に到着した同胞よりの減速用レーザーを受け止めることで手にしていた。

 しかし、その減速用レーザーが途絶えた状態で、独力でのみ減速を試みた場合、【グォイド増援光点群】に残された選択肢は二つ。


 一つは独力で減速し続け、太陽系到着を目指した場合。

 だがこの選択肢は即却下された。

 独力の減速噴射のみで太陽系内での停止自体が難しく、またその過程で太陽系第四第五惑星の間にある小惑星帯の濃密な空間を、かなり危険な速度で通過せねばならないことが不可避と分かったからだ。

 その場合、許容できないレベルで艦を失うことになる。


 ゆえに、【グォイド増援光点群】は自動的に二つ目の選択肢をとることにした…………。

 太陽系第四第五惑星の間にある小惑星帯の隙間を、安全に通過する為には他に手段がなく、その場合、危険なレベルで太陽の近傍を通過することになるが、それでも…………。









「【グォイド増援光点群】の噴射光に変化あり……なのです!」

「変化ってどんな?」


 ユリノはプローブから受け取った映像データを分析し、青ざめた顔で艦長席を向いたシズに、即尋ねた。


「正確には観測していた【グォイド増援光点群】の減速噴射光が一時消えた後に、たった今再開されたのです。

 …………のです……が、これまで観測していた噴射光と比べてみた場合、光の放射範囲が増しているにも関わらず、光量自体が微妙に減っているのです…………」


 シズはビュワーに分析画像を映しながら告げた。


「つまり! サイズが増しているのに光量が減っているのは、この画像の中心部を見ればわかる通り、【グォイド増援光点群】を形成しているグォイド艦の数々が、向きを変えて加速してるということなのです!」

「…………」

「つまり艦が艦首をこちらに向け、艦尾の噴射光が船体の影になったので、光量が減ったわけなのです!

 【グォイド増援光点群】は、減速して太陽系で止まることではなく、加速して太陽系を突っ切ることを選んだのです!」

「ああ!」


 クルーのリアクションの薄さに憤ったのか、早口で語るシズの説明に、ユリノはようやく理解が追いついた。


「それは我々の【ダーク・タワー】破壊作戦の狙い通りで、朗報ではないのか?」

「それが……」


 カオルコの冷静な質問に、シズは答えようとして、また言いよどんだ。


「この予測コースを見て欲しいのです。

 【グォイド増援光点群】は加速する道を選びました。

 当たり前といえば当たり前ですが、本来であれば土星より放たれる減速用レーザーを受け止めるコースを通って……」

「…………あ」


 今度はシズが最後まで言う前に、ユリノ達は理解できた。

 シズが導き出し、ビュワー内の太陽系内総合位置情報図(スィロム)に描かれた【グォイド増援光点群】の予測ルートのラインは、土星を掠めるようにして太陽系を通過していた。

 さらにいえば、その予測ルートのラインは土星よりも太かった。


「恐らく、【グォイド増援光点群】にとってはこれが最も被害の少ないルートなのでしょう……。

 ですが、この予測通りならば、決して少なくない数のグォイド増援艦隊の艦が、この土星圏に光速の数%の速度で降り注ぐのです!」


 シズは震える声で告げた。





 というわけで最新話更新いたします!

 一難去ってまた一難!

 次回、終章最終話!

 ……だと良いなぁ…………


 ここで突然ボツネタ・コーナー!

 当初はサティのう〇こ(排泄物)がオリジナルUVD同質物質になる設定で考えてました~!


 皆さまのご感想リクエストご指摘アイディアご質問などなどお待ちしております!

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