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リバース・スラスターズ  作者: マユ・クロフト
Episode4  遠い宇宙《そら》の向こうに (後編)
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▼第十章  『コンタクト』  ♯1


「そうだな……自分がここに着いたのは【ゴリョウカク集団(クラスター)】を出立してから約一年後、今から約4年と半年ほど前だ……」


 まずフォセッタ中佐がゆっくりと語り始めた。

 ビーチでの大騒ぎの翌朝、予告通りにヒューボによって新たな軟式簡易宇宙服(ソフティ・スーツ)と、ケイジ用のツナギや、殺菌消毒処理の終わった私物の個人携帯端末(SPAD)類が届けられ、ユリノ達はようやく水着姿から着替えることができた。

 ユリノ達はケイジのどことなく残念そうな顔を確認し、大いに満足しつつ、〈アクシヲン三世〉が五年前の艦であるにも関わらず、ユリノ達が元々着ていた最新の軟式簡易宇宙服ソフティ・スーツから、微妙にアップデートされた軟式簡易宇宙服ソフティ・スーツが作られてきたことに少し驚いた。

 僅かだが着心地が良くなり、見た目の色合いや、着替えやすさが向上していたのだ。

 フォセッタ中佐いわく、艦のメインコンピュータ内で、常に技術研究とアップデートが心がけられており、ユリノ達が元着ていた軟式簡易宇宙服(ソフティ・スーツ)を元に、改良を加えた上で新たに作ることも出来るのだそうだ。

 これは人類の英知を受け継ぐという使命を持つ〈アクシヲン三世〉内に、ありとあらゆる物を生産するプラント群が搭載されている為でもあった。

 そしてケイジ三曹の用意した朝食のパンケーキを、皆でビーチでとりながら、今後の行動についての話し合いが始められ、まずユリノの質問に対しフォセッタ中佐が話しはじめることになったのであった。


「……グォイドどもに見つからないように、【ゴリョウカク集団(クラスター)】で超長距離・大質量加減速移送艦〈ヴァジュランダ〉に加速してもらった際の慣性速度だけでのんびりと移動して来たからな。

 土星公転軌道にたどり着くだけで結構な時間がかかった。

 そして土星から約6億キロ程離れた位置から土星公転軌道を通過しようとしたところで、こいつに衝突した」

「ロ……6億キロデスとォ!?」


 電測員であり、航法担当でもあるルジーナが思わず素っ頓狂な声をあげたのをはじめ、他のクルーもフォセッタ中佐の告げた予想外の数値に驚いた。


「慣性航行で発見をされないようにしたうえで、それくらい土星圏グォイド本拠地から離れていれば、安全に太陽系外に出られると踏んでいたのだがな……」


 フォセッタ中佐は周りのリアクションなど気にせず続けた。

 どうやらユリノ達が驚いた理由が分かっていないらしい。


「ちょっとまってフォセッタ中佐! じゃ【ザ・ウォール】は全長が少なくとも6億キロ以上はあるってこと?」

「そうだが?」


 フォセッタ中佐に素でそう答えられると、ユリノはそれ以上何も言えなかった・

 【ザ・ウォール】がとんでもなく長大であることは予測していたが、まさかここまでとは……。


「【ザ・ウォール】……ねぇ、ふむ良い名前だな……そのまんまで。

 自分らのここへの着陸がアンタたちそれと違っていたのは、まずアンタ達ほど速度を出していなかったことだ。

 おかげで【ザ・ウォール】への最初の接触でもあまりダメージを受けずに済んだわけだ。

 今、この艦が比較的ダメージが少ない第一の要因がそれだ。

 それから多数の先行偵察プローブを前方二万キロに放った状態で航行していたから、それらが衝突したことで【ザ・ウォール】の存在に割と早く気づくことができ、ある程度回避運動をして、突入角度を浅くできたという理由もある。

 ……それでも【ザ・ウォール】への突入それ自体までは避けられなかったがな……なにしろ……でかいから……。

 ともあれ、角度が浅く、速度が遅かったおかげで、こっち側の壁……アウター(外側)ウォールに落ちるまでに時間的余裕があった。

 だから着陸までに何が起きて、ここがどんな場所なのかを色々と分析し、対策をうつことができたわけだ。

 ……とはいっても、最初の壁を破って壁と壁の間に入った途端、例の……トータス(母艦)・グォイドと、そこから出てくるトゥルーパー(超小型)・グォイドには襲われたが……。

 そいつらには少なくないダメージを負ったが、連中が人造UVDとそれから出ているUVエネルギーを狙って来ていることはすぐに分かった。

 我々は、艦内の生命維持と軟着陸に必要な最低限の数を残し、艦に積んであった人造UVDエンジン・コンプレックスの7割を投棄し、自爆させることでなんとかあの忌々しいグォイドから逃れた。

 そしてその戦闘の最中に、先にここに落ちていたSSDF艦隊を発見し、そのそばに軟着陸したというわけさ。

 他に行く当ては何もなかったしな……。

 軟着陸に成功したのは、この艦がこんな図体をしていても、将来的には脱出先の惑星に着陸して、艦自体を巨大なテラフォーミング・マシンにする予定の設計だったからという要因もある。

 だから想定外の場所ではあったが、着陸自体は不可能ではなかったのさ。

 だが軟着陸には成功したが、自力での再離陸は完全に不可能になってしまった。

 今ある人造UVD出力では、ここの疑似重力に対して、このでかい船体が自壊しないように支えているだけで精一杯だったからな」


 フォセッタ中佐はそこまで一気に語ると、何か質問がないかと皆を見回した。

 だがユリノ達はしばし、なにも言葉が出て来なかった。

 言葉にして聞くのは簡単だが、とんでもない経験の果てに今の状態になったことを知り、その状況を想像するだけで精一杯だった。


「さ……先に墜落していたSSDF艦の内部は調査はしたの? 生存者はいなかった?」

「一通り“墓場”じゅうの艦の内部を調べはしたが、少なくとも我々が来た段階では生存者いなかったよ…………後で確認した戦死者名簿を送ろう」


 やっとひねり出したユリノの問いに対し、フォセッタはよどみなく答えた。


「自分みたいな耐宙人でもない限り、生身でここへの墜落を生き延びることはできなかったのだろう。

 当時の土星攻撃艦隊の艦は、図体に比べて艦内の慣性相殺システムが貧弱だからな……ま、こんな場所への墜落なんぞ普通は想定してないだろうし……墜落時の衝撃でほぼ全クルーが即死だったようだ。

 ともかく、ここへの墜落以来、自分は再び〈アクシヲン三世〉を離陸させ、任務を再開するために孤軍奮闘してきたわけだ。

 そこらじゅうのSSDF航宙艦の残骸から、ヒューボに部品を集めさせては〈アクシヲン三世〉の修理をしてな。

 だが……新たな人造UVDに関しては、この艦のはもちろん、墜落した他のSSDF航宙艦のも、墜落の段階で例のトゥルーパー(超小型)・グォイドに破壊されていて、新たに調達することは不可能だった。

 と……そこへアンタらが現れたってわけだ……いや、そっちにとっては災難以外のなんでもないだろうが……。

 ともかく、アンタ達には悪いが、アンタ達の艦に積んであったオリジナルUVDがあれば、この艦は再び離陸し、任務の続行が可能になる」


 フォセッタ中佐はそこで初めて笑顔らしきものを見せた。


「二代目〈じんりゅう〉にオリジナルUVDを積んでいるってことはあらかじめ知っていたの? その……私たちが落ちてくる前から……」

「まぁな。

 こっちから救助を求めることはできなかったが……ここ四年半の内太陽系人類圏内の情勢ってのは、意外とここでも知ることができているぞ。

 グォイドは人類とのコミュニケーションに興味が無いって前提で、民間の通信電波は太陽系外まで垂れ流しにされているからな。

 それが頭上の膜(インナー(内側)ウォール)を通過して、一応は入ってくるのだ。

 かなり劣化してるので、ウチのキャピタンで補正修復しないと何のデータかサッパリだが……そいつで【テルモピュレー集団(クラスター)】や木星でのアンタら活躍のニュースは数か月遅れでだが知ってた。

 そのアンタらの〈じんりゅう〉が、まさか土星圏にむかって来ていて、このサティと………ケイジ三曹が乗っていたことを知ったのは、〈じんりゅう〉がここに落ちてからだが…………もちろん驚いたとも」


 フォセッタがユリノの質問に答えると、朝食をかきこんでいた〈じんりゅう〉クルー達が顔を赤らめながら盛大にむせ返ったが、フォセッタは気にせずコーヒーを一口すすった。


「まぁともかく、細かいことはさておいて、アンタらにとってはここへの墜落は災い以外の何ものでもないかもしれんが、自分にとっては降ってわいた幸いだ。

 もう自力での脱出は不可能だと諦めていたところだからな」

「…………ちょっとまて、ではフォセッタ中佐はこの5年間、ずっと一人でここで生きて……起きていたのか?」

 乾いた笑いと共に告げるフォセッタ中佐に、カオルコが皆を代表するかのように、皆が抱いて疑問をぶつけた。

「ああ、4年半だけどな、最初からそう言っているつもりだが?」

「たった一人で? 5年間も!?」

「だからそ答えておろうが。いやスキッパーやキャピタンやヒューボもいたが、生身なのは自分だけだな。

 することは山ほどあったし、他に動ける人間は乗っていなかったからな、仕方がない。

 他に人間は乗ってはいても、まだ胎児か胚の状態だし……」


 あっけらかんとカオルコの問いに答えるフォセッタに、他の一同から微かに息を呑む音が聞こえた。

 元から彼女はそういうことを主任務とするために調整され、クルーに選ばれたのだろうが、かといって『ふ~ん、そうなんだ』というにはあまりにも想像を超えていた。

 少なくとも自分ならば、救助が期待できない時点でさっさと冷凍睡眠に入ってしまうだろう。

 ユリノはもちろん〈じんりゅう〉のクルー達は皆、フォセッタのその発言を聞いた瞬間、泣きそうな顔になってしまった。

 おそらく昨日のビーチでの、フォセッタ中佐のはしゃぎっぷりを思い出してしまったのだろう。

 ユリノは意図的にスルーしていたが、なぜ〈アクシヲン三世〉の生身の司令官たる彼女が、まだ会ったばかりの皆に混じってああも大はしゃぎしていたのか……できたのかの謎が、今解けたような気がした。

 皆も『そらはしゃぐよ……』と思ったに違いない。

 ユリノは思わず鼻の奥がツンとしてしまったが、かといって彼女に何かかけるべき言葉は思いつかなかった。


「ごほん!

 それでだ、今日からはバリバリ皆には動いてもらいたい。なにしろここから脱出する為なのだからな!」


 〈じんりゅう〉クルーの妙な視線と気配を察したフォセッタが、咳払いと共にそう宣言したが、ユリノ達は涙をこらえるのに精いっぱいで、無言でウンウン頷くことしかできなかった。








「ごほん! 脱出作戦は大きく分けて五つのフェイズからなる。


 フェイズ1、まず〈じんりゅう〉の残骸から本艦へのオリジナルUVDの換装作業。


 フェイズ2、次に〈アクシヲン三世〉の離陸準備。


 フェイズ3、離陸後、襲撃が予測されるトータス《母艦》・グォイドとトゥルーパー(超小型)・グォイドグォイドへの対策。


 フェイズ4、最後に土星圏からの脱出だ」


 急に〈じんりゅう〉クルーの自分を見る目が、優しさというか哀れみのようなものをおび始めたことに気づいたフォセッタ中佐は、皆の視線から逃げるように、ブリーフィングの場所をアクシヲン・ビーチから〈びゃくりゅう〉船体内のホロ会議室へと移動させた。

 そして室内の床に全長2mサイズの〈アクシヲン三世〉をでホログラム投影させ、それを見下ろしながら改めて説明を続けることにした。


「〈じんりゅう〉残骸から本艦へのオリジナルUVDの回収および移送作業自体は、すでに本艦から重ヒューボ隊を向かわせており、作業は順調に進行中だ。

 連中に任せておけばいい。

 自分たちが直接動いてやることはほとんど無い。

 ただ換装作業については多少手間取るかもしれん」


 フォセッタはそこまで言うと、ホログラム〈アクシヲン三世〉を拡大し、船体を半透明にさせ、内部構造が分かるようにした。


「オリジナルUVDなんぞ降って来るとは思ってなかったから、この艦にはオリジナルUVDを納める準備ができてないのだ」


 〈アクシヲン三世〉の円錐状となった艦尾には、先端のメインスラスターコンプレックスの手前に、周囲をぐるりと囲むように〈じんりゅう〉でいう補助エンジン・ナセルサイズの前後に長い涙滴型の出っ張りが無数にあった。

 元はその内部に50基近い人造UVDが内蔵されており、主動力としていたのだが、今それは6基を残して他全て無くなっていた。

 【ザ・ウォール】突入時のトータス(母艦)・グォイドとトゥルーパー(超小型)・グォイドとの戦闘で、分離、囮にしたうえで自爆させ、失われてしまったのだという。

 当然、今オリジナルUVDだけ手に入っても、サイズが違う為、この部分には取り付けようがない。


「〈アクシヲン三世〉にはオリジナルUVDと同サイズのUVDを接続するソケット設備が無いからな。

 納められるとしたら〈びゃくりゅう〉の主機関室だが、そこだとオリジナルUVDに対して広すぎて、固定用のステーの類を設けねばならなくなるだろう」


 〈びゃくりゅう〉ユニットの艦尾を拡大しながらフォセッタ中佐が告げた。

 元々〈びゃくりゅう〉主機関室にあった人造UVDも、トゥルーパー(超小型)・グォイドとの戦闘で投棄され、今はただの円筒状の空間になっていた。

 防衛用ユニットとして接続された〈びゃくりゅう〉は、まだ人造UVDの小型化が成功していない時代の航宙艦であるため、艦尾主機関室も、オリジナルUVDに比べてはるかに巨大な人造UVDに合わせて広大なのだ。

 当然、ここのオリジナルUVDを納めたとしてもブカブカであり、そのまま艦を動かせば危険極まりない。


「ステー(支持架)を作る材料は、そこいらのSSDF航宙艦から頂けば良いが、そこそこに巨大で頑丈なものでなければならないから、少し時間がかかるかもしれん」


 フォセッタ中佐はそう告げながら、拡大されたホロ〈びゃくりゅう〉主機関室に、オリジナルUVDが収容され、それをトラス構造の新造ステーが固定しているシミュレーション画像に変化させた。

 これで無事〈アクシヲン三世〉へのオリジナルUVDの接続が完了すれば、理屈の上ではその無尽蔵のUVエネルギー出力が使い放題になるはずであった。


「ふむん、それでフェイズ2の離陸の準備ってのは?」

「そっちもここでの4年間ですでにほとんど準備が終わっている」


 カオルコの問いに、フォセッタ中佐が拡大されていたホログラム〈アクシヲン三世〉を縮小させ、全体像を映しながら答えた。


「多少乱暴な手段だが背に腹は変えられない。

 〈アクシヲン三世〉の船体側面を見てくれ、ここに自分たちは4年かけて、周囲のSSDF航宙艦から集めた資材を元に、化学燃焼式ロケットを200基ほど取り付けた」

「ロケット……って……」


 ケイジ三曹が、フォセッタ中佐の説明に合わせホログラム〈アクシヲン三世〉の両舷に、艦首方向斜め上方を向いた円柱状の物体が無数に点滅して示されたのを見ながら呟くと、思わず訪ねた。


「あのフォセッタ中佐、化学燃焼式って言いました? あの……その燃料は……どこから?」

「ふむ、良い質問だな三曹。

 答えは、ここいらの航宙艦を覆っている霜からだ」


 ケイジ三曹の質問に、フォセッタ中佐は快く答えた。


「霜?」

「ああ、〈アクシヲン三世〉をはじめ、ここいら航宙艦を覆っているあの霜だ。

 これらは基本氷でありH20なので、燃料に使えるのだな。

 この霜は、どうやらこの【ザ・ウォール】が形成された際の副産物らしい」


 ホログラム〈アクシヲン三世〉の真上に、縮小投影された土星と細い糸のような【ザ・ウォール】が新たに投影されると、土星方向から何か粉のようなものが、やや誇張されて光輝きながら、無数に【ザ・ウォール】へと飛んでいくのが見えた。


「キャピタンの予想では、この【ザ・ウォール】は、グォイドが土星の環の外周部に建造した無数の実体弾投射砲によって、ここに打ち込まれた土星リングを形成してる氷を材料にして、形成されているらしい」


 彼女の説明に合わせ、土星の環のそばにウィンドウが開き、土星の環の外周部の実体弾投射砲群が光って示された。


「【ザ・ウォール】はその撃ち込まれてきた氷から、微量に混ざってるH20以外の物質で形作られているようだ。

 そして余ったH2Oが、微小な雪のようにここに降り積もり、ここの航宙艦群を覆っているというわけなのだな」


 フォセッタ中佐のホロ映像を交えた説明に、〈じんりゅう〉クルー一同は、感心と納得の入り混じったほえぁ~というため息を漏らすしかなかった。

 この巨大極まるリボン状天体が、いかにして創造されたかの謎の一端が解けたからだ。

 確かに、土星の環から無尽蔵に材料が届けられるならば、一応は【ザ・ウォール】のような巨大なものが生み出せるのもうなずける。


「……まぁともかく、ロケットの燃料に困らないのは分かったわ。

 話を続けてフォセッタ中佐、それで離陸は可能なのよね?」

「オリジナルUVDの換装が上手くいき、その大出力が使えたらだがな」


 話の続きを促すユリノに、フォセッタ中佐は答えた。


「ここからの脱出は、オリジナルUVDの出力で本艦のGキャンセラーを最大稼動させた上で、離陸用ロケットが問題なく点火し、初めて可能となる」


 頭上の土星圏のホログラムが消えると、下方にあった〈アクシヲン三世〉が透明化し、内部にあるGキャンセラーモジュールがオリジナルUVDの出力で動き始めた。

 Gキャンセラーとは、UVエネルギーの重力を操る特性を用い、艦にかかる重力を相殺することで、航宙艦が惑星重力圏内でも活動するためのシステムだ。

 サティと出会った木星内での、惑星間実体弾投射砲を巡る戦いの時に〈じんりゅう〉も使用している。

 基本的に重力に抗いたいならば、素直にスラスター噴射を行った方が効率が良いのだが、グォイドとの戦闘時にそうもできない時のために装備されている機能である。

 当然、将来的にいずこかの惑星に着陸し、艦自体をテラフォーミングにする予定の〈アクシヲン三世〉にもある機能であった。


「OK、じゃフェイズ3の、離陸後に襲撃が予測されるトータス(母艦)・グォイドとトゥルーパー(超小型)・グォイドグォイドへの対策は?」


 ユリノは期待を込めて尋ねた。

 ここまで至れり尽くせりで準備ができているならば、〈じんりゅう〉を沈めた厄介極まるグォイドの対策も考えてありそうだったからだ。

 が……。


「…………」

「あのフォセッタ中佐?」


 ユリノはフリーズした彼女に再度尋ねた。


「あ~それについては、考えが無いことも無いが……正直、ここまでのフェイズ程自信は無い。

 とりあえず、ここに墜落したSSDF航宙艦の中から、UV弾頭ミサイルを数百発ほど発見し、本艦に積み込んだので、それでなんとかしようという方針だ。

 というか、それがアンタ達に頼みたかったことだ」

「はい?」

「昨日も言っただろう? 戦闘経験豊富な〈じんりゅう〉クルーであるアンタ達の【ANESYS】で、〈アクシヲン三世〉離陸後の例のグォイドどもを蹴散らして、ついでにグォイド本拠地たる土星圏からうまいこと脱出できるように、何か策を考えて欲しかったのさ」


 肩をすくめてそう告げるフォセッタ中佐に、ユリノ達は思わず『オウッフ』と呻いたのであった。








『でも皆さ~ん、一つ……いえ二つお話……というかお訊きしたいことが……』


 一瞬、止まりかけたユリノ達の思考は、遠慮がちなサティの言葉によって呼び戻された。

 彼女はそのサイズの問題から今もアクシヲン・ビーチにいるが、所持している通信機で今のブリーフィングも聞いており、艦内通信で発言してきたのだ。


『あの~、オリジナルUVDについてなんですけどぉ~……』

「な、ななな、なんだよ? 何か意見があるなら構わんから言え」


 昨日散々サティ・スライダーで一緒に遊んだのに、またリセットされてしまったのか、フォセッタ中佐が微妙におびえながら訊き返した。


『あのぉ~……〈じんりゅう〉の残骸からのオリジナルUVDって、ホントに回収できたんですかぁ?』

「…………? 問題なく回収されて、今こちらに向かっての移送が始められるところだが……それがどうかしたのか?」

『おかしいなぁ……ワタクシが墜落直前の〈じんりゅう〉で、最後にオリジナルUVDを見た時は、オリジナルUVDが〈じんりゅう〉のメインフレームと同化していて、エクスプリカさんが投棄の為に分離させようとしても、くっ付いていて離れなかったんですよ?』

「…………なんだって?」

『だからΩプロトコルが失敗したんですよ~』


 思わず訊き返すフォセッタ中佐に、サティは続けた。


「あ……そういえば……」

「ああ~!!」


 ユリノは正にその瞬間、自分がΩプロトコルが失敗した理由に思い至った一方で、そばにいたフィニィが叫んだ。


「思い出した! そういえばエクスプリカがそんなこと言ってた!」


 最後まで〈じんりゅう〉に残り、舵をとっていたフィニィには心あたりがあるようだった。


「あ~もう! どうしてそんな大事なこと思い出せなかったんだろぉぉぉ!」

「フィニィ少佐は〈じんりゅう〉墜落時に重症を負っていたので、その前後の記憶が混濁しているのも仕方ありません」


 頭をかきむしるフィニィに、サヲリが慰めるように言った。

 確かに〈じんりゅう〉墜落間際のあの時、グォイドにオリジナルUVDを渡さないためにユリノが発したΩプロトコルは、何故か失敗した。

 その原因がサティの言う通りならば、絶対に破壊不可能だというオリジナルUVDが、〈じんりゅう〉のフレームと同化したために分離が不可能となり、失敗したということになる。

 今にして思えば、そのおかげで〈アクシヲン三世〉へ使う為の換装用UVDが手に入るわけだが、だからといって、ただ良かったと安心するには、異常な出来事すぎる。

 オリジナルUVDが、接してる〈じんりゅう〉のフレームと勝手に同化し、結果、我々の意図を阻止してしまったのだから。


「記録は残ってないの?」

「〈じんりゅう〉の残骸を調べたが、メインコンピュータが破壊されていたし、分散されたサブコンピュータで無事だったものには、他はさておき墜落間際のレコードは残されて無かったぞ」


 ユリノの問いにフォセッタ中佐が腕組みしながら答えた。


「…………疑うわけではないが、当面の問題としてオリジナルUVDがちゃんと使えるのだから問題ない。

 換装さえ無事すめば、残った本艦の人造UVDでキックスタートも可能だしな。

 それよりも……そのサティよ……」

『はい~なんでしょう~?』

「……もう一つの話したいこととはなんだ?」


 フォセッタ中佐はオリジナルUVDに関する話を強引に切り上げ、サティへの緊張を押し殺しながら尋ねた。

『あ~それでしたら簡単ですよ~。フォセッタさんはこの部屋へいらして最初に五つのフェイズがあるとおっしゃってましたが、まだ四つまでしかお話していません。

 五つ目のフェイズってなんですかぁ?』

「ああそれか……それは……」


 サティの問いに、フォセッタ中佐はそれまでの流暢な説明が嘘のように言いよどむと、とても気が進まなそうに答えはじめた。

 ユリノ達は猛烈に嫌な予感がした。

 というわけでひと時のバケーションは終了しまして、新章のはじまりです。

 エクスプリカを除く〈じんりゅう〉クルーは辛くも無事再会を果たしましたが、【ザ・ウォール】を用いたグォイドの企みを阻止し、〈アクシヲン三世〉の脱出は無事叶うのでしょうか!?

 次回をお楽しみに!


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