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リバース・スラスターズ  作者: マユ・クロフト
Episode4  遠い宇宙《そら》の向こうに (後編)
131/277

▼Overture partⅨ


 口から心臓が飛び出るかと思うような恐怖の強制遠隔操作(オーバーライド)が終了すると、〈じんりゅう〉は突如〈ヴァジュランダ〉が構築した回廊内に突入したところで加速を終了した。

 しかし、加速を止めても慣性は生きており、〈じんりゅう〉は回廊内を【ゴリョウカク集団(クラスター)】の外縁、つまり空母級グォイド部隊と、それから発艦した飛宙艦載機級グォイド第二波60機が迫りくる方向へと前進を続けていた。

 次の戦闘がもうすぐ始まるはずであったが、ユリノ達の第一の感想は、ようやく恐怖の強制遠隔操作(オーバーライド)が終わったことへの安堵であった。

 しかし、


「……やれやれ……やっと終わっ――」


 テューラ副長がそうぼやきかけたところで、突如艦をを襲った減速Gに彼女は息を詰まらせた。


「〈じんりゅう〉がリバース・スラストを掛けはじめました! 先の【ANESYS】が残した航行プログラムによる模様!」


 操舵士からの報告。

 減速Gは〈じんりゅう〉が前方に向って減速噴射をかけたかららしい。

 〈ジュラント〉による【ANESYS】は終わったが、統合中に操艦プログラムを構築し残しておくことで、思考統合限界が来てしまった後でも、ある程度なら自動的に〈じんりゅう〉を操ることが可能なのだ。

 この減速噴射により、〈じんりゅう〉と先に会敵する敵飛宙艦載機級グォイド群第二波60機との会敵時間と距離を調節しようと試みているらしかった。

 ビュワーを見れば、親切にもリバース・スラストの噴射終了までの残り時間がカウントダウン表示されていた。

 さらに総合位置情報図(スィロム)にもリバース・スラストによる〈じんりゅう〉の未来予測位置が半透明のラインで反映表示されている。


「【ANESYS】の残したプログラムにより、〈じんりゅう〉はあと20分で完全静止、その約五分後に敵飛宙艦載機群との交戦距離に達する模様。

 その場合、現在位置からの予測される敵艦載機群後方の空母部隊との交戦まで約65分」

「……つまり〈ジュラント〉は我々が艦載機と空母の両方を【ANESYS】で仕留められるように仕組んでくれたってことか?」


 電測席からのユリノの報告に対しテューラ指令が確認してくると、ユリノは「はい」と答えつつも補足した。


「……ですが、空母部隊がこれ以上加速したり、ミサイルを撃ったりすれば、交戦圏が変化し、今の予測は崩壊します」


 【ANESYS】が残した航行プログラムは、あくまで【ANESYS】終了間際の彼我の位置情報を元に構築したものであり、それ以後の事態の変化には一切対応していない。

 だから目前の敵飛宙艦載機群第二波を【ANESYS】で殲滅し、再び【ANESYS】が使える一時間後に丁度空母部隊と交戦できるかは、確実とは言えなかった。


「まぁ……それは仕方が無い……それより――」

「後方より戦況報告! 〈ジュラント〉は、先の【ANESYS】中に、あらかじめ敵予測進路上にしかけておいたトラップを使用し、敵飛宙艦載機群第一波にミサイル攻撃を敢行した模様。

 敵第一波40機中21機の撃破に成功したようです!」


 何か言いかけたテューラ副長の言葉は、通信席からの報告によって遮られた。

 朗報だった。

 〈ジュラント〉と敵飛宙艦載機群第一波が会敵するのは約1時間後だが、残り19機となった敵艦載機など、主砲が無くとも〈ジュラント〉の【ANESYS】で充分殲滅できそうに思えたからだ。

 先ほどの〈ジュラント〉の【ANESYS】は、したたかにも強制遠隔操作(オーバーライド)で〈じんりゅう〉を操る一方で、敵飛宙艦載機群第一波への攻撃も同時に行っていたようだ。


「………………フムン、じゃあとりあえず〈ジュラント〉の心配はいらなそうだなぁ」

「そうね」


 テューラ副長がぼそりと呟くと、姉が短く答えた。

 テューラ副長は言いかけた言葉をひっこめたままだったが、ユリノには、副長が何を言おうとしたのかが、何となく分かるような気がした。

 〈ヴァジュランダ〉が突如、UVアクセラレータで【ゴリョウカク集団(クラスター)】内に設けた回廊についてだ。

 最高機密故にクルーには知らされずとも、艦長である姉はその理由を聞かされているのではないか? 副長はそれを訊こうとしたのではないだろうか?

 だがテューラ副長は、言いかけはしてももう訊くつもりは無さそうだった。

 それは姉が言わないのは、言えない(・・・・)からだと分かっているからかもしれない。

 この状況下での〈ヴァジュランダ〉の行いが説明されないのはありえないが、それでも規律は規律であり、副長が艦長に対してそれを破れとは言えないのかもしれない。

 それに、まもなく自分(・・)達の【ANESYS】による戦闘が始まるのだ。

 今下手にクルーの前で話して、戦闘に悪影響があったら大変だ。

 ユリノは沈黙する姉をチラリと振り返りながらそう思った。

 が、しかし……


「艦長より全クルーへ、みんなちょっと聞いて…………わかっていることとは思うけれど、間もなく〈じんりゅう〉は、迫る敵飛宙艦載機群第二波に対し【ANESYS】を用いて殲滅を試みます。

 けれどその前に、話しておきたいことがあるの」


 姉は勝手に納得しようとしていたユリノの思いを余所に、自ら声を上げた。


「〈ヴァジュランダ〉がいきなり作った回廊について、みんなも驚き、疑問に思っていることでしょう……。

 これについてSSDF最高司令部からは口止めがされているけれど、私が知っている範囲で、戦闘に際して話す必要がある部分だけだけれど……今艦長権限で話すわ」


 姉は淡々と、だが言いよどむことなく告げた。

 姉の言葉に、当然ブリッジは騒然となった。

 言わば姉はSSDFの最高司令部が最高機密と指定したことを、最も遵守すべき艦長が自らの判断で勝手に開陳すると宣言したのだから。


「……やっぱ知ってたんだな」とテューラ副長が若干すねたように呟くのが聞こえた。


「手短に言うと、〈ヴァジュランダ〉が回廊を突然この方向に設けたのは、回廊を使って射出したい物体があるからよ」


 姉はクルー達のリアクションにかまうことなく続けた。

 ユリノはこの時、長年のつきあいから、普段は泰然自若としている姉の声色が、今度ばかりは本気であると感じていた。

 いや、ひょっとしたらもっと前から姉は、ある種の覚悟の上でこの〈じんりゅう〉に再び乗ったのかもしれない……と、今さらながらふと思った。

 確かに何の説明もなく、危険な任務を担わせたとして、全てのクルーがポテンシャルの全てを発揮できるはずが無い、だから有る程度の説明は必要なはずであった。

 だがユリノは姉の声色に、それだけでは無い何かを感じたのだ。

 いわく言い難い何かを……。

 姉レイカはユリノ達の思いを余所に話を続けた。


「その物体が何かは言えないけれど、間も無く……恐らく約1時間後には〈ヴァジュランダ〉のUVアクセラレータを用いて太陽系外方向に向かって加速投射されるはず。

 我々がここにかりだされた真の目的は、その物体の射出が無事達成されるまで、〈ヴァジュランダ〉とその射出物体をグォイドから守る為にだったの……。

 恐らく、その物体の射出時刻が迫った頃に、SSDF最高司令部から、その物体を何としても守れと言う命令がくるはずよ。

 この説明ではとても納得なんて出来はしないかもしれないけれど…………それでも……私はこの任務が行うに値すると思っているわ……だから……みんな、力を貸してちょうだい!」


 そう言うと、姉は艦長席から立ち上がって、全クルーに見えるわけでもないのに頭を下げた。

 ユリノは姉の言葉に、伴侶となる人間を見つけ、子を産み、いわゆる人並みの幸せを手にしたにも関わらず、それでもなお姉が〈じんりゅう〉の艦長席に戻って来たことには、何か姉なりの信念のようなものが働いたからなのでは? と思っていたのだが、ひょっとしたら、それは今のこの時の為だったのではないか? とふと思った。

 が、本人にそれを口に出して直接尋ねるには、状況があまりにも逼迫しすぎていた。

 姉の説明に不平や異論を唱えるクルーなど現れず、姉が予言した通り、それからすぐに後方の〈ヴァジュランダ〉と〈ジュラント〉を介し『〈ヴァジュランダ〉が加速投射予定のオブジェクトαを護衛し、同物体の射出までの間、グォイドを足止め、あるいは殲滅せよ』という新たなSSDF最高司令部からの指示が届いた。






 姉に言われずとも、ある程度は予測して然るべきことであったかもしれない。

 〈ヴァジュランダ〉が回廊を構築したのは、〈ヴァジュランダ〉の大質量加速能力をもってしてそこに何かを通過させ、太陽系の外に向かって射出する為である以外に考えられなかった。

 小惑星密集エリアたるここに、回廊を設けねばならない理由など他に思いつかない。

 ……とユリノはこの状況になってから思ったが、それでも謎は残る。

 その加速投射したいという対象の“オブジェクトα”とは何だ?

 回廊は方角的にいってやや土星に近いが、土星圏自体に向けられてはいない。

 故に、グォイド本拠地を狙う攻撃目的の砲弾の類いとは考えづらい。

 第一にその説ならばSSDFが最高機密にする意味がない。

 グォイドへの攻撃なら大手を振って人類に喧伝しながら行えば良いのだ。

 グォイドとの戦いは、人間同士の戦いのような情報戦は無いのだから、人間同士で秘密にする意味が無かった。

 まるで……、他の人類に何か後ろめたいことでもあるみたい……。

 そうユリノが考えてる間に、護衛対象としてのオブジェクトαの画像が〈じんりゅう〉へと届いた。

 さすがにSSDF最高司令部も、護衛対象のビジュアル情報くらいはよこす気があるらしい。


「なんというか……ただの岩だな」


 クルーに代わってテューラ副長が感想を述べた。

 確かにまごうことなき岩だった。

 正確に言えば、付近に漂っている中でも比較的大サイズの小惑星の一つであり、やたら細長い形状をしていた。

 全長は約6キロ、直径は1キロ弱、先端が細くなっており、その為ミサイルや砲弾の類に見えないこともない。

 そういう形状の小惑星が、自然に誕生するとはユリノには思えなかった。

 それに……なんとなくだが見覚えがある形状な気がする。

 過去に何度か、あの物体に似たものと、自分達は遭遇したことがある気がする。

 だがそれが何かは、あと少しというところでどうしても明確になりきらなかった。

 そうあの形はまるでシー――……。


「どんなに理不尽に思えても、命令には従うさ」


 ユリノが出しかけた結論は、テューラ副長の言葉によって遮られた。

 ユリノに異論などなかった。

 仮に異論があってもあらがう権限も術も無いのだから。

 それに、余計なことを考えている暇はなかった。

 特にユリノの席では……。


「まもなく敵飛宙艦載機群第二波、〈じんりゅう〉の【ANESYS】交戦圏に入ります! 事前計画したマニューバ開始タイミングまであと30秒!」


 ユリノは済んでのところで雑念をはらい、己の職責たる電測席の総合位置情報図(スィロム)で得たことを報告した


「よし! 艦首ベクタードを前方へ、スラスト・リバーサー展開! 全速後進用意!」

「ああ……さっきやったばっかなのに……」


 テューラ副長が憂鬱気にぼやいたが、今度は前回の【ANESYS】時のような心配は無用だった。

 少なくともブリッジクルーたる自分たちは【ANESYS】中は意識が統合されているので、どんな絶叫マシンじみた機動を行っても、恐怖を味わうことはない。

 正確には恐怖を味わったことを実感することが、ほぼできないだけだが。

 ユリノは総合位置情報図(スィロム)をにらみながら、つい数分前に姉が決断したこの後の作戦プランを反芻した。

 現在〈じんりゅう〉は〈ヴァジュランダ〉作成の回廊のほぼ中間地点で静止中である。

 前方より来たる敵飛宙艦載機群第二波に対し、〈じんりゅう〉はこれをスラストリバーサーによる全速後進状態で【ANESYS】を起動し、迎撃にあたる。

 これは敵集団に対する交戦可能時間を少しでも伸ばす為だ。

 前進などすればもちろんのこと、仮に〈じんりゅう〉が静止した状態であっても、回廊内を高速で接近してくる敵集団との交戦時間は、ほんの一瞬で過ぎ去り、〈じんりゅう〉の後方へと敵はすれ違い遠ざかっていってしまう。

 そしてそうなってから追撃したところで、敵集団の〈ヴァジュランダ〉到達までに追いつくことはもう不可能だ。

 ならば選択肢は一つしかなかった。


「艦首ベクタードおよびリバース・スラスト全力噴射開始! 後進いっぱ~い!」


 姉が叫ぶと同時に、メインビュワーの画面下方から、艦首ベクタードが盛大に火を噴くのが見えた。

 同時に艦尾の補助エンジンナセルの基部と後端の四×二か所のスラストリバーサーからも偏向されたUVエネルギー噴射が開始され、

〈じんりゅう〉はまたしても〈ヴァジュランダ〉がいる方向へと後進を開始した。

 ブリッジ内では、クルーが一人残らず前につんのめりそうになりながら、シートベルトによって辛うじてコンソールに頭をぶつけることを免れていた。

 今から後進を始めたところで前方の敵集団との速度差をゼロにすることは、それまでの加速時間の関係上不可能だが、少なくとも敵集団と同じ方向(後方の〈ヴァジュランダ〉)に向け加速することで、〈じんりゅう〉との交戦可能時間を延ばすことはできる。

 姉はそう判断したのだ。

 つまり〈じんりゅう〉はこれからバックしたままで戦闘を行う。

 問題は、相手を攻撃できる分だけ、相手に攻撃される機会も増えるということなのだが……。

 ユリノは不安を覚えずにはいられなかったが、何か他のアイディアがあるわけでもなく、自分の権限でどうにかできる問題でもなかった。


「全艦全クルー【ANESYS】スタンバイ!」


 姉の声が響く。

 数々の疑問や不安があったが、否応もなくその時はやってきた。


「アネシス・エンゲージ!」

 







 眠りにつくと同時に目覚める……そんな不可思議な感覚と共に【ANESYS】統合思考体は目覚めたが、それすらも自覚することなくすぐさま目前の敵との戦闘が始まった。

 瞬時に現状を理解し、最善の策を構築実行に移す。

 敵飛宙艦載機級グォイドは60機と数は多かったが、対処不可能な程強敵というわけではなかった。

 少なくとも飛宙艦載機群だけ(・・)ならばそうだ。

 幸いにも統合される前の自分()が、事前に最適な選択をしておいてくれたため、【ANESYS】統合思考体は、彼女達のプランにそって操艦すれば良いだけだった。

 敵集団は回廊という障害物の無い通路ができてしまったがゆえに、軽率にそこへ突入し、短時間で〈ヴァジュランダ〉へ到達しようとしすぎた。

 最大直径が12キロもあるとはいえ、宇宙戦闘の尺度から言えば、それは狭すぎる空間であった。

 敵集団は〈じんりゅう〉の猛烈なリバース・スラストの光に気づくなり、大慌てで散開、回廊の外にまで広がってまとめて撃破されることを逃れようとしたが、時すでに遅かった。



 まず最初に放ったのは対宙レーザー砲群であった。

 このシチュエーション下で撃つには、ミサイルは遅すぎるし、もったいない。

 UVキャノンは射程内にまだ敵集団が来ていなかった。

 レーザー砲は光速で目標に達し、射程も条件次第で1万キロ以上に達することもある。

 UVシールドを貫く力は全くないため、UVD搭載の艦艇に対しては無力だが、UVキャパシタしか持たない飛宙機に対してであれば有効な兵装であった。

 対宙レーザー砲こそが〈じんりゅう〉搭載兵装の中でも、敵飛宙艦載機に対して最も有効なのだ。

 【ANESYS】の超高速情報処理能力によってロックオンされた敵飛宙艦載機級グォイドは、ロックオンからのタイムラグ無しに〈じんりゅう〉船体各部より照射されたレーザー砲を即受け止めることとなった。

 敵飛宙艦載機にもUVシールドが搭載されており、ほんの一瞬だけはレーザー砲の照射に耐えることができた。

 が、UVキャパシタに蓄えられたUVエネルギーが、レーザーに耐えたことによる過負荷で消費されシールドが消滅、無防備となった機体をレーザーの光刃が切り裂いた。

 たちまち後進する〈じんりゅう〉の艦首方向に、無数の光球がはじけては消える。

 しかし、敵もただレーザー砲に貫かれるままにはなってはいなかった。

 〈じんりゅう〉に迫る敵集団は〈ヴァジュランダ〉攻撃用に温存していたと思しき対艦ミサイルを放ち反撃を試みてきた。

 40発以上のミサイルが〈じんりゅう〉に殺到する。

 これに対し〈じんりゅう〉にできることは、これをひたすら回避しながら、UVキャノンの射程内に入ったミサイルはショットガンモードの主砲を放って迎撃し、さらに攻撃に使っていた対宙レーザーをミサイル迎撃に回し、、ひたすら耐えることだけだった。

 〈じんりゅう〉に命中する寸前で、迎撃に成功した敵ミサイルが次々と爆発し、閃光が〈じんりゅう〉の船体を照らす。

 〈じんりゅう〉が放っていたレーザーはミサイル迎撃に回された分、敵飛宙艦載機の攻撃が遅れる。

 回避したミサイルも、そのまま放置はできず艦尾のレーザー砲で撃ち落とした。

 放置すればそのまま回廊を直進し、〈ヴァジュランダ〉に襲い掛かるかもしれないからだ。

 〈じんりゅう〉と敵飛宙艦載機群との戦闘は、簡単には決着はつきそうになかった。

 それでもこの時、【ANESYS】の統合思考体は対飛宙艦載機戦闘での勝利を疑ってはいなかった。

 危ういところではあったが、【ANESYS】が終わる前に眼前の敵集団の殲滅は成功するだろう。

 すでにかなりの数を減らしたし、敵集団が有効射程圏に入ったところでショットガンモードのUVキャノンを放てば殲滅は可能だ。

 ひょっとしたら【ANESYS】の統合限界時間の数分前に決着をつけられるかもしれないくらいであった。

 だが、それとは別の問題が、眼前の敵の奥で発生していたことを、彼女(・・)は気づいてしまったのである。




 空母級までの通信ラインを中継しつつ偵察中の昇電のパイロット、クィンティルラやフォムフォムもまた、【ANESYS】の適正者であり、〈じんりゅう〉のクルーらと共に彼女(・・)の一部となっていた。

 これにより〈じんりゅう〉の【ANESYS】統合思考体は昇電による遠隔地状況把握能力も有していた。

 そして彼女はその昇電の()により、追跡監視中だった空母級グォイド二隻とその護衛の駆逐艦五隻が予想外の加速を開始し、間もなく小惑星密集空間から回廊へと突入することを知ってしまったのである。

 小惑星密集エリア内での予想外の加速は、駆逐艦級グォイドが、空母級の盾となって衝突の恐れのある小惑星から、身を挺して守ったことによってなしえたようであった。

 その結果、護衛の駆逐艦は二隻にまで減っていたが、それにより【ANESYS】前に彼女達(・・・)が考えた予測とプランが崩れてしまった。

 元々のプランでは、飛宙艦載機群を殲滅したあと、一時間以上たってから空母級との交戦圏に入るはずであり、〈じんりゅう〉は再び【ANESYS】を用いてこれを殲滅するつもりであった。

 が、このままでは空母級が加速した分、目の前の敵集団殲滅後、空母級が交戦圏に入るまで一時間を切ってしまう。

 その場合は彼女達(・・・)は再び【ANESYS】が使えない。

 だがこの問題は〈じんりゅう〉が後進速度をあげ、空母級との距離を開けることで一応は対処が可能であった。

 その代償として、戦闘エリアが〈ヴァジュランダ〉目前にまで後退してしまうという深刻な問題があったが……。

 だがさらに深刻かつ対処が困難と思われる問題が、昇電の目によって観測されていた。

 空母級グォイドの大口を開けたような艦首内に、飛宙艦載機級グォイドと同等のサイズの小惑星が、いくつも収められているのが確認されたのだ。

 艦載機を全て発艦させた後、【ゴリョウカク集団(クラスター)】内に侵入、加速した段階で、周囲に漂う小惑星から手頃なのを捕らえたらしい。

 【ANESYS】統合思考体は、眼前の飛宙艦載機群との戦闘を行う一方で、空母級がかつて確認されたことのないような攻撃手段で襲いかかってくる予感に、恐怖のような感情を覚えた。

 そして予感は現実となった。

 〈じんりゅう〉は艦を90度回頭させ慣性航行しつつ、船体の真横を敵に向けた状態で全六基全六門の主砲UVキャノンをショットガンモードで一斉射撃することで、敵飛宙艦載機群第二波の殲滅には成功した。

 無数の残骸となった()飛宙艦載機が、爆発四散しつつ加速を止めたことで〈じんりゅう〉の艦首方向から遠ざかって行く。

 代わりに後進を続ける〈じんりゅう〉の艦首前方遥か彼方には、回廊への突入を果たした空母級二隻と二隻となった駆逐艦級グォイドが、小さな点となって艦首をこちらに向けていた

 〈じんりゅう〉の【ANESYS】統合思考体は、この時点で敵空母級が何をするつもりなのか、大方の予測はついていた。

 空母級グォイドの船体は、大口を開けた角ばった鯉のぼりのような形状をしており、艦首の開口部の中は、飛宙艦載機を加速発進させる為のカタパルトになっている。

 艦載機を全て発艦させたと思しきはずの空母が、それでもなお〈ヴァジュランダ〉に向け進行してくるのは、艦載機が無くとも攻撃を行う手段があるからであり、その攻撃手段こそが、艦首開口部内に確認された【ゴリョウカク集団(クラスター)】内の小惑星なのではないだろうか?

 【ANESYS】の予測は即確認された。

 〈じんりゅう〉前方から、空母より放たれ高速で接近する物体が複数観測されたのだ。

 空母級は艦首にため込んだ小惑星を、飛宙艦載機用の加速投射能力を用いて発射、己を簡易的実体弾投射艦にしたのだ。

 実体弾第一波が〈じんりゅう〉に到達するまで残り約一分。

 その時点ではまだ辛うじて【ANESYS】の統合可能時間内だが、第二波以降はその限りではなかった。




 というわけで▼OvertureだけでⅨまできてしまいました。

 はたして▼Overtureはいつまで続くのか!? とりあえず▼Overtureが終盤まできていることは間違いないのですが…………。

 戦いの決着は間もなく着きますが、次回は【ザ・ウォール】上のユリノ達の現在編です。

 次回も楽しみに!



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