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リバース・スラスターズ  作者: マユ・クロフト
Episode4  遠い宇宙《そら》の向こうに (前編)
102/277

▼Overture partⅡ

 グォイドとの戦いにおいて、人類はグォイドを殲滅し勝利を掴むようなことは出来ないまでも、いくらかの戦術的に有利な点を有していた。

 人類の技術的な模倣と学習速度、生産能力などももちろんだが、この戦闘の場合は“地の利”がそれにあたった。

 太陽系は人類が生まれた土地であり、メインベルト【ゴリョウカク集団(クラスター)】は人類がその英知を駆使して生み出した宙域であった。

 どこに、どのサイズの、どんな組成の小惑星があるかは、少なくとも野良グォイドよりもはるかに詳しく把握していた………………この時代ではまだ。

 対野良グォイド【ゴリョウカク集団(クラスター)】内〈ヴァジュランダ〉防衛戦において、ただ一隻残ったSSDF‐JX008〈びゃくりゅう〉は、二度目の戦闘が開始される前に、事前にその地の利を最大限に活かすことで、数で勝る敵に対し有利に立たんとした。




 野良グォイド群は、人間が肉眼で認識できる程のゆっくりとした速度で、減速しつつ接近してきていた。

 それはこの宙域が小惑星が密集した【ゴリョウカク集団(クラスター)】内であり、出せる速度には限界があるという理由もあったし、Uターンした直後だったからという理由もあった。

 だが最大の理由は、低速度で接近することで、より長い時間、己が目標を射程圏内に納め攻撃をし続ける気だから……つまり、低速で接近して相手にも同じ時間だけ攻撃可能なチャンスを与えたとしても、それでもなお自分らが絶対に勝利する自信があったから……そう思われた。

 だが、それは彼のグォイドの油断であった。

 野良グォイド群がその射程圏に〈びゃくりゅう〉を捉えようとしたその直前、突如として付近にあった小惑星が大爆発し、粉々に砕け散った。

 〈びゃくりゅう〉艦長レイカは、野良グォイドがUターンして来るまでの約6時間のあいだに船外作業班を繰り出し、野良グォイド群の予測進路上にある小惑星の背面に、あらかじめ指向性爆薬を仕掛けさせておいたのだ。

 【ANESYS】による最適なタイミングでの起爆により、爆発した小惑星の破片は、真空無重力ゆえに一切減速されること無く、野良グォイド群の方向に向かって大小の散弾となって襲いかかった。

 この無数の破片により、まずUVシールドの弱い駆逐艦級グォイド四隻が、穴だらけとなって撃破された。

 最初の野良グォイド群との戦闘では、爆薬設置の時間的余裕と、位置的に爆破して効果を発揮する小惑星が無かった為に使われなかった戦術であった。

 残るは戦艦二、重巡洋艦三。

 【ANESYS】を起動させた〈びゃくりゅう〉は、その超高速情報処理能力を火器管制に回し、すかさず主砲UVキャノンの全力砲撃を開始した。





 SSDF‐JX008〈びゃくりゅう〉、それは人類がUVテクノロジーを獲得する過程で、幾隻か建造した人造UVD実験艦の内の一隻である。

 人類は過去二度の大規模侵攻を退けた時点で、回収したオリジナルUVDと、敵残骸からのリバースエンジニアリングからUVエネルギーの特性を把握し、UVキャノン・シールド・キャパシタ・ミサイル等に活かす術を急速に解明し、実用化に成功していた。

 だが、UVテクノロジーのコアたる人造UVDの実用化には大いに難航していた。

 無限の推力と、疑似重力を操る、宇宙の理に逆らうようなデタラメの存在であるUVDの再現は、やはり容易では無かったのだ。

 しかし、それでも人類は人命と予算を際限無く投入することで、半ば無理矢理に人造UVDの開発を成し、それを搭載した航宇宙戦闘艦を実用化していた。

 人造UVDが実用化できなければ、人類はグォイドに勝てないとよく理解していたからだ。

 だが、いかに開発に成功したとはいえ、人類にとって完全に未知なる動力源である人造UVDは、実用化初期の段階ではまだ、充分な性能を獲得したとは到底いえるものではなかった。

 汲み出せるUVエネルギーの出力は弱く、なによりも巨大であった。

 何重にも設けられた安全装置と、噴出するUVエネルギーの制御装置により肥大化し、開発当初の人造UVDは全長100メートル、直径20メートルを越えていた。

 それは人類が理想とするサイズには程遠く、グォイドとの戦いで不利になりかねないサイズであった。

 SSDFは、それでも実用化にこぎつけた人造UVDの巨体に、船体サイズの方を合わせるかのうようにさらに巨大な船体を被せ、航宇宙戦闘艦を建造し、グォイドとの戦いに投入した。

 他に選択肢は無かったからだ。

 その一方で、何隻もの人造UVD実験船を建造し、人造UVDの小型化を目指した。

 SSDF‐JX008〈びゃくりゅう〉は、そんな中の一隻であった。




 それは例えるなら、女王蜂を連想させるアンバランスなフォルムの艦であった。

 艦尾の推進部があまりにも巨大だからだ。

 少しでも小型軽量化させることで機動性の向上を目指す為、また人造UVD小型化成功時は、そのまま船体前部を流用し続けられるように、船体の後半分を巨大人造UVDを内蔵した主機関部にし、前半分と完全に機能を分割し、前半はSSDFの対グォイド・ドクトリンに合わせ、前二・後一基の主砲塔、センサーセイル、対宙レーザーを上下に一対ずつ搭載した上下対称の洋上戦闘艦のような姿をしている。

 補助推進機としてH2Oを主燃料とした熱核ロケット・エンジンナセルを4基、巨大な円柱状主機関の周囲にX型に配置しており、全体としては大昔の最初期型宇宙ロケットの先端に洋上戦艦を接続したかのようだ。

 全長の6割が後部の推進機関部が占める為、当然、機動性能から見た艦のバランスはすこぶる悪い。

 だが、これあくまでSSDFが開発中の新型人造UVDのテストヘッドであり、この艦で得たデータを元に、より小型高出力な人造UVDがゆくゆくは開発量産されるはずであった。

 しかし、この艦の最大の特徴は、そのハードでは無く、クルーにあった。





 レイカ達【ANESYS】適正を持つ乙女は、元々はグォイドとの戦闘の戦術・戦略的な予測を、戦線後方にてその超高速情報処理能力をもってして行い、前線での戦闘に役立てる為に集められた少女達であった。

 だが【ANESYS】の能力が、予想を越えて様々な用途での使用が可能と分かると、それを試製人造UVDの制御と分析に用いてはどうか? というアイデアがあるエンジニアから発せられ、即実行に移された。

 人造UVDの一刻も速い性能向上が、人類とグォイドとの勝敗を決めるのであれば、躊躇している場合では無かったからだ。

 【ANESYS】の思考統合可能時間は6分程しかないが、その高速情報処理能力を活かせば、6分の間に試製人造UVDの稼働状態を分析し、瞬時に制御プログラムを構築するという離れ業をやってのけることも可能なはずだ。 

 〈びゃくりゅう〉は、彼女達の【ANESYS】による人造UVDの分析と制御を繰り返し行うことで、より小型で高出力の人造UVDの開発に必要なデータを得ようとしていたのである。

 だが第三次グォイド大規模進攻迎撃戦が、彼女達の任務をそれだけに留めておいてくれなかった。

 その戦いまで人類は、高性能の人造UVDの開発に成功しさえすれば、グォイドとの戦に勝てる(・・・)と、そう思っていた。

 だが実際は、高性能の人造UVDの開発に成功しなければ、負ける(・・・)……人類はその事実を突きつけられてしまったのである。





 戦闘再開30秒後――。

 いかに【ANESYS】の超高速情報処理能力をもちいれども、ハードの物理的な限界を覆すことまでは不可能だった。

 統合思考体となった“彼女”は、理想とは程遠い己の肉体の鈍重さと虚弱さに憤りながらも、必死の攻撃を野良グォイド群に繰り出し続けた。

 小惑星の爆破により駆逐艦級グォイド四隻を撃破できたものの、残りの戦艦級二隻と巡洋艦級三隻を〈びゃくりゅう〉一隻で沈めるのは、容易な所業では無かった。

 いや不可能といった方が良いかもしれない……。

 艦長レイカをハブとして統合された“彼女”は、その高速情報処理能力故に、その結論にすぐに達してしまっていた。

 それでも“彼女”は〈びゃくりゅう〉主砲UVキャノンをじれったくなるような連射速度で放ち続け、【ANESYS】の超精密照準射撃により、敵巡洋艦級グォイド三隻中、先頭の二隻に直撃させ、なんとかこれを沈めた。

 幸いにも戦艦である〈びゃくりゅう〉の主砲の射程と威力が、巡洋艦グォイドに勝っていたからだ。

 何発も巡洋艦級グォイドの主砲が〈びゃくりゅう〉のUVシールドを掠めたが、【ANESYS】による操艦でけっして直撃はさせないことで、UVシールドに負荷が蓄積されたものの、ダメージをまだ艦は耐えられる範囲内におさえることができていた。

 残り戦艦級二隻、巡洋艦級一隻。

 しかし、この時点で残りの野良グォイドを殲滅することは、ほぼ不可能になっていた。

 ……というより残りの野良グォイドを全て沈める前に、敵が〈びゃくりゅう〉後方の〈ヴァジュランダ〉を射程圏に納めてしまう。

 最終的に〈びゃくりゅう〉が野良グォイドを殲滅できても、その前に〈ヴァジュランダ〉を破壊されては勝利とは言えない。

 しかし、たった一隻ではどうすることもできない戦況だった。

 残りの野良グォイド群が、【ANESYS】が最も恐れていた行動を取り始めたからだ。

 前後二手に分かれたのである。





 【ANESYS】の思考統合時間には、約6分間というどうすることもできない制限がある。

 それを過ぎてしまえば、〈びゃくりゅう〉は並みの航宇宙戦艦と何ら変わることがないただの艦となる。

 前後に分かれた野良グォイドのうち、減速して後方に離れていった野良グォイド艦は、大きく迂回して〈ヴァジュランダ〉へと向かい始めた。そのままいけば【ANESYS】の終了までに、〈びゃくりゅう〉の射程内には入ってはこないことになる。

 かといって直進してくる前方の野良グォイド群と、戦わないわけにも当然いかない。

 つまり〈びゃくりゅう〉は野良グォイドのうち、前方の戦艦級一隻は【ANESYS】中に戦い、沈めることはおそらく出来るものの、減速し迂回した集団はマニュアル操艦の〈びゃくりゅう〉で戦わねばならないことになってしまったのだ。

 当然、そうなってしまった場合の勝利は、今の〈びゃくりゅう〉では極めて絶望的になってしまう。

 極めて単純な敵の行動で、あっさりと窮地に立たされてしまった。

 グォイドがこのような戦術的な行動をとることは、極めて珍しいことであった。

 が、けっして例が無いわけでも無く、また、グォイドがそのような行動をそのうち取り始めるという予測も、ある程度はされていたことではあった。

 野良グォイドが〈びゃくりゅう〉の【ANESYS】の思考統合可能限界を見越してこのような行動をとったとは考え難かったが、どちらにせよ〈びゃくりゅう〉にとって最悪の事態であることに変わりは無かった。

 “彼女”はこういう時に自在に使え、また“彼女”でなくなった時に自分の肉体を守ってくれる存在……例えば遠隔操作できる無人駆逐艦のようなものの必要を強く感じ、また渇望したが、なんにせよ今は無い物ねだりだ。

 瞬時に統合された【ANESYS】の心が、この戦況に大して取りうる最善の策を検索していく。

 それがレイカや〈びゃくりゅう〉にとって望みうる最善の策では無くとも、せめてもっとも最悪ではない答えを探すべく……

 その答えは、悲しい程にすぐに導き出せた。

 【ANESYS】の思考体は、己のイメージした総合位置情報図(スィロム)内に、【ANESYS】終了間際までの敵の進路予測を描き、そこに己の武装の射程を重ねた。

 野良グォイドのうち、先行しているの前方の艦は戦艦級一隻のみなのに対し、後方集団は戦艦級一、巡洋艦一隻であった。

 巡洋艦一隻はもともと殿(しんがり)を務めていた艦であったようだが、群を二手に分けた際に、先に〈びゃくりゅう〉が沈めた巡洋艦二隻の代わりに戦艦級の護衛に着く為、今は前方へと突出し始めていた。

 その事実が、【ANESYS】にごく微かな光明を見出させた。

 これで〈ヴァジュランダ〉を守ることはできるかもしれない、と。

 ただし……その達成の為には、とても重い犠牲を払う必要があった。








 敵の護衛艦はたった一隻であるにも関わらず、狡猾な罠で瞬く間に僚艦を沈めていき、残るは己をふくめたった三隻になってしまっていた。

 だがその事実にもさしたる拘泥はせず、その戦艦級グォイドはただ己の目的達成の為だけに、己が目標たる敵超巨大質量加速投射艦に直進する。

 一方で僚艦たる戦艦と巡洋艦が、大きく迂回しながら敵護衛艦の側面から迫った。

 これで敵護衛艦に一方が沈められても、残る一方が敵超巨大艦を破壊、あるいは内部にあると思われるオリジナルUVDを奪取できる。

 グォイドは勝利を確信していた。

 この行動に対し、敵のたった一隻となった護衛艦は、迂回する僚艦は無視し、直進する己のみに対応することに決めたようであった。

 その敵艦は、己の進路上に敢然と立ちはだかったからだ。

 だが、その予想は間違いであった。

 彼の敵艦は、己も、迂回した僚艦も、その両方を沈めることを諦めてはいない。

 そう分かったのは、眼前の敵艦が全力で迂回した僚艦二隻の方へと砲撃を開始したからであった。








 “彼女”が“彼女”でいられる時間は残りあとわずかになっていた。

 “彼女”はその時間を、直進してくる戦艦級の進路上に居座った状態で、迂回してくるもう一方の巡洋艦級と戦艦級の野良グォイドのうち、先頭の巡洋艦に集中砲撃することに費やした。

 もちろん、彼の巡洋艦級が射程圏に入って来るのは、【ANESYS】の統合終了後だ。

 だが、UVキャノンのエネルギーの束自体は、減衰しつつも彼のグォイドに届く。

 辛うじて届くその一発一発を“彼女”は連射速度は遅くとも確実に巡洋艦級グォイドのある一点へと集中して命中させ続けた。

 その間、〈びゃくりゅう〉は自艦に迫るもう一隻の戦艦級グォイドには脇目も振らなかった。

 そしてその間、すでに主砲射程圏内に入っていた前方の戦艦級グォイドは、情け容赦なく砲撃を繰り出してきた。

 巡洋艦級の攻撃とは桁違いの砲撃が、次々とUVシールドを貫徹し“彼女”の肉体たる〈びゃくりゅう〉に命中する。だが“彼女”は僅かに艦を動かすことで、決して致命傷になる位置に命中することだけは避け続けた。

 当然そのままでは、迂回した巡洋艦級と戦艦級も、直進してくるもう一隻の戦艦級も、そのどちらの野良グォイドも沈められはしないはずであった。

 〈びゃくりゅう〉主砲の必死の攻撃もむなしく、時は過ぎる。

 【ANESYS】の統合限界は、結局残り三隻の野良グォイドを一隻も沈められないまま訪れようとしていた。

 その時――。





 最初に異常をきたしたのは、迂回していた巡洋艦級グォイドだった。

 グォイド、人類製航宙艦を問わず、宇宙船の艦尾スラスターは、艦の重心位置を推力の軸が貫けるように配置されている。

 この巡洋艦級グォイドも例外ではなく、艦尾にはメインのスラスターを取り囲むようにサブのスラスターが四基配置されていた、

 その内の一基が、【ANESYS】終了間際の〈びゃくりゅう〉からの主砲、最後の一発が命中すると同時に突如爆発、機能を停止したのだ。

 確かに〈びゃくりゅう〉との距離は、まだ主砲射程のギリギリ外のはずであった。

 にも関わらず、〈びゃくりゅう〉の主砲の命中によってスラスターの一基を破壊されたのは、それは〈びゃくりゅう〉が【ANESYS】による超精密射撃によって、何度も何度も確実に同じ位置にUVキャノンを命中させたからであった。

 たとえ射程外故に威力が劣るUVキャノンであっても、同じ位置に続けて命中すれば、負荷はその位置に蓄積され、いずれはUVシールドも耐えきれなくなる。

 正面から来る戦艦級のUVシールドには使えない手段だが、UVシールド出力で下回る巡洋艦級相手であればその限りでは無い。

 【ANESYS】の“彼女”はこの時を狙っていたのだ。

 敵巡洋艦級グォイドも、ただ黙って同じ位置に敵主砲が命中するのを放置していたわけでは無かった。必死に艦をロールさせ、命中箇所をばらけさせようと試みてはいた。

 だが【ANESYS】の前では、その試みさえも無駄だったのだ。

 そして巡洋艦級グォイドを襲った異常はそれだけでは無かった。

 〈ヴァジュランダ〉を狙い、迂回しつつ加速接近中であった巡洋艦級グォイドの艦尾全スラスターは、迂回した分の時間的ロスを取り戻すべく、猛烈な噴射の真っ最中であった。

 そのスラスターのうち、端にあるサブスラスターが突如破壊され、噴射が止まったのである。

 宇宙ではスラスターは船体重心を貫ける位置に存在し、噴射せねばならない。

 なぜなら推力軸が重心を貫けなければ、真空無重力の宇宙では、艦は無様にその場で回転してしまうからだ。

 巡洋艦級グォイドはすぐに艦尾スラスターの全推力をカットした。

 だがそれまでのほんの数秒間、他のスラスターが偏った(・・・)噴射を続け、ほんの短時間の間だが、スラスター噴射の生み出す推力の軸が、船体の重心位置からズレた……それだけで充分だった。

 その瞬間、彼のグォイドは、比較的軽な巡洋艦級であることもあり、盛大に艦を水平回転させはじめた。

 当然、その間の加速は一切行われていなかった。

 そしてそこに、巡洋艦級グォイドを盾代わりに加速中だった戦艦級グォイドが、後方から突っ込んでいった。




 慣性があるがままに働く真空無重力の宇宙では、一度動き出した物体は、基本的に急に止まることはできない。

 〈びゃくりゅう〉はその法則を利用し、巡洋艦級グォイドを宇宙的に転倒(・・)させることで、後方の戦艦級グォイドに衝突させることに成功した。

 だが正面から直進してくる戦艦級グォイドには、当然ながら同じ手段は使えなかった。

 主砲を遠距離でも効果が狙える巡洋艦級に集中使用した為、彼のグォイドのUVキャノン攻撃にロクに撃ち返すこともできなかった。

 この事実に対し、〈びゃくりゅう〉がとった対処手段は、ただひたすら最小限の回避運動をしつつ耐えることだけだった。

 幸いだったのは、〈びゃくりゅう〉は艦首を向け、最小被弾投影面積でいられたことであった。

 が、最初の戦闘でダメージを受けていたUVシールドは、猛烈な勢いで削り取られ、敵の放つUVエネルギーの束が直接船体を削とることを許し、その船殻に艦首から艦尾へと続く長い傷を幾つもつけていく。

 あらたな被弾痕が生まれる度に、けっして少なく無い数の死傷者が発生するのを【ANESYS】の“彼女”は我が痛みのごとく感じ続けながら、その時を待つしかなかった。

 その瞬間は、【ANESYS】の統合時間の限界と同時に、迂回していた巡洋艦級と戦艦級のグォイドが衝突したのとほぼ同時にやってきた。







 太陽系を舞台に行われるグォイドとの戦闘は、その有効射程とUVエネルギーの特性から、大きく分けて三種の兵装によって行われる。


 もっとも射程が長く、命中時の破壊力にも優れるが、宇宙的尺度では弾速が遅く、遠距離から使う限りは回避も容易な電磁加速式実体弾。


 その次に射程が長く、命中時の破壊力は絶大なるものの、電磁加速実体弾よりもさらに命中までの速度が遅く、命中前に対宙レーザーで迎撃されてしまう可能性が高いUV弾頭ミサイル。


 最も射程が短く、しかも発射の直後に猛烈な勢いで減速減衰してしまうが、UVDが動くかぎり何発でも撃つことができ、また有効射程距離内でさえあれば、必要充分な威力を発揮するUVキャノン。


 この三種のうち電磁加速式実体弾は、それを使用可能な専用艦を双方が随伴させていなかった為、今回の戦闘では最初から使われなかった。

 そしてUVキャノンによる撃ち合いが繰り広げられる中、残る一種であるUV弾頭ミサイルが使われなかったのは、ここが障害物となる小惑星が密集する【集団(クラスター)】の中であったからだ。

 ミサイルとしての誘導機能はあるが、宇宙の慣性の法則が、自由自在に障害物を回避して飛翔することを許してくれなかったのだ。

 また弾数も限られる割に、対宙レーザーで迎撃されてしまう可能性が高いという理由もあったし、|グォイドに関して言えば、まだ野良グォイドとなる前の第三次大規模侵攻迎撃戦で、すでにUV弾頭ミサイルを撃ち尽くしたまま、補給が出来なかったという理由もあった。

 だが、使いどころの難しいUV弾頭ミサイルも、【ANESYS】起動中の〈びゃくりゅう〉にかかればその限りでは無かった。






 残る戦艦級グォイドが、急に回避運動の鈍った〈びゃくりゅう〉に留めを刺さんとしたまさにその時、先の戦闘で発生し、周辺空間に漂う無数のSSDF艦の残骸の影から、数十基のUV弾頭ミサイルが突如噴射炎を輝かせながら降り注いだ。

 あわてて対宙レーザーによる迎撃を始める戦艦級野良グォイド。

 が、その距離はあまりにも近過ぎた。

 迎撃の間に合わなかった数発のUV弾頭ミサイルが、レーザーの光刃の間をすり抜けるようにして戦艦級グォイドに命中する。

 〈びゃくりゅう〉はこのタイミング、この距離まで敵が近づくのを待っていたのだ。



 野良グォイド群との〈ヴァジュランダ〉を巡る最初の戦闘直後、損傷し、負傷者を救助した上で戦線から離脱することになったSSDSFの僚艦は、たった一隻で野良グォイドに立ち向かうことになった〈びゃくりゅう〉に、残存するUV弾頭ミサイルを置き土産として残しておいてくれたのであった。

 それらは電磁加速発射管に装填し発射することなど叶うはずもなく、ただ宇宙空間に放り出されただけであったが、そのお陰で返って罠として働かせることができた。

 レイカ艦長は〈びゃくりゅう〉周辺空間に漂うUV弾頭ミサイルを、先の戦闘で沈められ、周辺に漂うSSDFの僚艦の残骸の影に、遠隔操作で隠しておいたのだ。

 そして二度目の戦闘の最中、【ANESYS】の超高速情報処理能力を用いて、もっとも適切なタイミング、距離、コースで戦艦級に殺到するように、ミサイルに機動プログラムを入力しておいたのであった。

 戦艦級グォイドは〈びゃくりゅう〉の艦首発射管からのUV弾頭ミサイルは警戒していたが、周囲に漂うSSDF艦の残骸にまでは警戒していなかった。

 その判断が仇となったのだ。




 〈びゃくりゅう〉側面方向の彼方で、戦艦級グォイドに横っ腹から衝突され、くの字に折れ曲がった巡洋艦級グォイドが、主機関から虹色のUVエネルギーの輪を放ちながら大爆発した。

 直後、〈びゃくりゅう〉正面でも、無数のUV弾頭ミサイルの爆発による虹色の輪が幾つも瞬き、前方の戦艦級グォイドを包んでいった。

 猛烈な危機感と恐怖を覚えながら【ANESYS】から目覚めたレイカ達〈びゃくりゅう〉ブリッジクルーは、その眩い輝きをしばし呆然と見つめることしかできなかった。


というわけで回想にして戦闘回です!

ああ、宇宙戦闘ってめんどくさい!

不明な描写への質問、ご意見ご指摘リクエスト等々ありましたらお待ちしております!

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