03. 仲間
正義の住むマンションの前に来た隆平は思わず言葉を漏らす。
「お前、こんなとこに住んでんのか...」
一人暮らしと聞いていた隆平はアパートだと思い込んでいたので、正義の住むマンションをみて驚いていた。
「早く中に入るぞ」
「お、おう」
部屋の中に入り、リビングにあるソファに隆平は案内され座り、正義は二人分のコーヒーを入れて対面のソファに座った。
二人の間に流れる静かな沈黙を破ったのは隆平だった。
「どうして俺が誘拐されているとわかった?」
「俺はお前の身辺のことを調べ上げていた。親父さんのことや過去の事件についても」
「.........」
驚きを隠せない隆平に対して、正義は淡々と説明していった。ここまできて嘘を話す必要はないと思うのと同時に隆平には知る権利があると考えたのだ。
説明を聞いた隆平にはまだ疑問が残る。
「監禁場所はどうやって見つけたんだ?」
「もしお前が犯人だったらどんな場所に監禁する?」
「それは人目がつかないような場所か...」
「そうだ。お前の親父さんは不動産事業を行っていた。一番安全で怪しまれないのは自分の所有する物件に監禁すること。そして、何かあったときに対処できるようにあまり距離が離れない場所にするはずだ。あとは、所有する物件の中で人目がつかない郊外であまり自宅から距離が離れていない物件を調べ捜しただけさ」
正義の話を聞いた隆平は鳥肌が立った。同い年でここまで頭が切れるなんて、驚きを通り越して尊敬の念さえも覚える。それと同時に恐ろしい。何が正義をここまで掻き立てているのだろうか。
「正義、あの時何者か聞いたら理不尽なこの世界を変えたいた偽善者って言っていたな。お前はこれからどうするんだ?」
「俺は別に一人で世界を変えられるとか思ってねぇよ。そこまでうぬぼれちゃいねぇ。でも俺には無理なんだ。何もかも見て見ぬふりをして生きていくのは。もしかしたら誰も救えないかもしれない、誰もそれを望んでないかもしれない、それでも俺は自分の生き方を変えることは出来ない。だから俺はきっと偽善者なんだ」
「お前はそれで救われるのか?」
隆平は思う。正義はその終わりのない戦いの先に何を見出すのかと。すると正義は隆平をみて微笑んだ。
「さぁ...俺の行く先に待ってるのは地獄かもな」
ああ、なんてこいつは馬鹿なんだろう...
「それでも...俺は自分の正義を絶対に曲げない」
そしてなんて眩しいんだろう...
隆平はこのときはじめて本当の意味で天音正義という人間と出会う。それは誰よりも愚かでそして誰よりも気高い一人の少年だった。
「なら俺はお前の騎士になる」
隆平の一言に正義は苦笑する。
「お前が強いのは分かったが、ここから先は次元が違う。俺が相手にしようとしてるのは...」
「わかってる!でもお前と俺ならもっとたくさんの人を助けられる...やっとわかったんだよ。自分の力をどう使うべきか」
もう誰も大切な人を失いたくない一心でがむしゃらに鍛錬を続け力を身につけた隆平はやっと自分の力の使い道と共に歩む仲間を見つけた。隆平の考えが変わらないことがわかったのか諦めたように皮肉を言う。
「早死にしてもしらねぇぞ」
「望むところだ」
二人はお互いに拳を合わせ笑いあった。
まだちっぽけな二つの光。この光が世界を大きく変えることになるのを、まだ誰も知らない。