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革命のラプソディア  作者: satoshi
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02. 事件

 一学期も半ばに差し掛かったある日、隆平が無断で学校を三日連続で休んだ。隆平は普段はちょっとボケているが、学校に連絡もせずに休むなんてことは考えられなかった。正義も何回か連絡を入れているが返事がない。


心当たりを考えていると、学校を休み始める前日に隆平から変な電話がかかってきていたのを思い出した。


「世の中、なんでこんなに不平等なんだろうな...」

「どうしたんだ、急に」

「いや、幸せに暮らしてるやつもいれば、理不尽なことで奪われるやつもいると思ってな。どう思うよ、こんな世の中?」


いつもとは違う静かなトーンでいきなりまじめな話題を振ってきた隆平に正義は苦笑した。


「そんなの当たり前さ...平等というのは不平等を隠す建前なんだよ。コインに表と裏があるように、物事にも必ず表と裏がある。もし、そんな糞みたいな理をかえたいなら、力を手に入れるしかない」

「なら、俺みたいな力がない人間はどうずればいいんだ...ただ黙ってそんな状況を見てるしかないのか?」

「そうかもな。だってお前は最初から戦うことを諦めている。戦う前から出来ないと、勝てるわけがないと決めつけている。そんな人間が何をやっても無駄だ」


電話越しから息をのむ音を感じる。


「厳しいな...俺はどうすればいいんだ?」

「それを決めるのは俺じゃない。お前だ。ただ、もし本当に困ったことがあったら助けてやるよ。友達だからな...」

「...サンキュー!」



正義の直感が警報を鳴らしていた。もしかしたら、電話をかけてきたときには既に重要な問題を抱えていたのかもしれない。何か外に漏れてはまずい何かを。

放課後になり、担任に詳しい話を聞きに職員室に向かった。


「先生、佐藤と連絡取れました?」

「天音か。いや、それが繋がらないんだ。親父さんには電話がつながったんだが、家には戻ってきていないらしい。親父さんはあまり息子に干渉していないらしく、家に帰ってこないことは別に珍しくないらしい。心配しなくていいって言われたんだが...担任としてはな」

「そうですか...先生は教師の鑑っすね!」

「当たり前だと思うが、おだててもなにも出ないぞ」

「別にいりませんよ。それよりも、もし佐藤と連絡取れたら教えてもらってもいいですか?」

「別にかまわないが、意外と友達思いなんだな、天音って」


すこし茶化した風に言ってきた先生にお辞儀を職員室を後にした。



事態は想像していたよりもまずい。隆平は監禁され、連絡手段を絶たれている可能性が高い。父親の反応を見る限り、誘拐され身代金を要求されているとは考えられにくい。情報屋にも調べてもらったが、裏でもそういう動きはないらしい。金ではないとすると...正義は一つの結論にたどり着いた。


犯人の目的は隆平の口封じだ。


既に隆平の命がない可能性があるが、表にも裏にも情報が上がってきていない今、少なからず生きている可能性がある。

変な約束するんじゃなかった...

心の中で舌打ちしながら少し後悔したが、目の前で起きている事件を正義は見過ごす気はなかった。



帰宅し正義は情報を整理することにした。闇雲に動くと余計に時間がかかる可能性があり、本来たどり着くべき真実を見過ごしてしまう可能性がある。

先生の話から隆平の父親の話を聞いたとき、変な違和感を感じた。息子が少なくとも学校や友達とすら三日間連絡が取れていないというのに、心配しなくていいというのはいくら干渉しないとはいえおかしい。もし、父親が関係しているとしたら...


正義は隆平の情報を見ながら、ある一つの仮説にたどり着いた。

幼少のころの事件、チンピラ、多額の保険金...すべて父親が仕組んだことだとしたら辻褄があう。裏ともつながりがあるならチンピラの一人くらい金で雇って罪を背負わせることくらいできるだろう。


「もしもし、正義だけど」

「おめぇか、また情報が欲しいのか?」

「ひとつ早急に調べてほしいことがある。佐藤権蔵が妻が殺される前に借金をしていたかどうかとその金額、それに妻にかけていた保険金の金額を教えてくれ」

「厄介なやつに手を出そうとしてるな...ちょっと高いぞ」

「金ならある。ケンさん、頼むから急いで調べてくれ」

「わかった。調べたらメールで詳細を送る。小一時間待ってくれ」


いつもの情報屋と連絡を取り、急ぎで佐藤権蔵について調べさせた。愛称はケンさんで金を払えばどんな情報でも仕入れてくれる。

ピロリン...意外と早く来たな。

メールを開くと正義の予想通りの情報が書かれていた。権蔵は当時多額に借金を抱えていたが、妻が殺されて得た保険金により返済している。隆平は何かしらの形でこの事実を知ってしまったんだ...きっと権蔵と正面から向き合うことを選んだのだろう。


「借金返済のために妻を殺させ、次は口封じのために息子を監禁...どこまでも下種だな、佐藤権蔵」


正義は怒りで拳を握りしめ、すぐさま隆平を助け出すべく家を飛び出した。



隆平はどこかの地下室の牢に監禁されていた。

親父と正面からぶつかってみたが、この様か...

隆平は後悔よりもすがすがしさが勝っていた。戦わずして逃げるよりも、向き合うことを選んだのだ。


監禁前

「親父、ちょっと話があるんだけどいいか?」

「おう、隆平か...なんだ?」


リビングでくつろいで酒を飲んでいた父は、億劫そうに隆平を見た。


「八年前、なんで母さんが死ななきゃいけなかったんだろうな?」

「お前の母さんは運が悪かった...強盗が入るなんて」


ワイングラスを傾けながら、酒をあおる父からは悲しみなんて微塵も伝わってこない。隆平はたんたんと言葉を紡いでいく。


「親父ににとっては、運がよかったわけだ...」

「何が言いたい...?」


権蔵の目が鋭くなり、隆平に向けられた。怯みそうになる自分を奮い立たせ、一歩前に出た。


「知ってるよ、親父が仕組んでチンピラに襲わせたこと、そして母さんにかけていた多額の保険金を受け取ったことは。偶然きいちまったんだ、夜中、親父が電話してるところ」

「.........」

「なんでだよ...俺の母さん返せよ!」


権蔵は飲んでいたワイングラスを置き、静かに立ち上がり隆平を抱きしめた。


「すまなかった...闇金に借金してたのが膨らみ、もうどうしようもなかった。お前を守るためには仕方がなかったんだ」

「そんな...俺のため?自分のためだろう!親父、自分の罪を認めて警察に自首するんだ!」


隆平が権蔵を突き飛ばそうとした次の瞬間、何か注射器みたいなものが首筋に突き立てられ、意識が少しずつ遠くなっていた。


「馬鹿な奴だ...すぐに母さんにあわせてやるぞ」


その後、目覚めたら牢の中に入れられ、見張りをしている権蔵の手下に何度か暴行されたが、一日二回食事が与えられところを見ると、すぐに殺す気はないらしい。夜になり、見張りの男が部屋からいなくなると隆平は脱出経路を必死に探した。


「諦めないって決めた...必ず脱出してやる!」

「まったく...言ったそばからピンチになってんじゃねーよ!」


隆平は突然した声に驚き部屋の入口を見ると、正義が立っていた。


「どうして...ここに?」

「言ったろ、本当に困ったことがあったら助けてやるって」


手には牢の鍵が握られていた。隆平は驚きを隠せない。監禁されてから今まで外部との連絡を遮断されていたのだ。普通に考えれば居所を探し当てるなんて出来る筈がない。


「正義、お前は一体何者なんだ?」

「何者でもねぇよ。理不尽なこの世界を変えたいただの偽善者さ...とりあえず脱出するぞ」


隆平を牢からだし、監禁されるまでの経緯と監禁されてからのことを一通り簡単に聞いて部屋の外に出ると、いきなり権蔵の手下が正義に襲いかかってきた。物音が少し洩れていたのだろう。

 その瞬間、正義の前に隆平が割り込んできて、相手の初手を防ぎ蹴り飛ばした。そこからは一方的だった。怒り突っ込んできた相手の腕をとり、力の流れを利用し腕をひねりながら壁に叩きつける。ボコ...男の肩が外れる鈍い音がなり、わめきそうになった瞬間、頭に掌底を入れ気絶させた。


「これで貸し借りなしな」


唖然とする正義に隆平はニヤッと笑みを浮かべた。


「お前こそ何者だよ...?」


明らかにさっきの身のこなしは高校生が習得できるレベルを超えていた。油断していたとはいえ、裏世界のガードマンを手玉にとることなど、特殊訓練を受けている軍人か警察の特殊部隊くらいのものだろう。


「強くなりたかったからな、いろんな武術を勉強し鍛えただけさ。自分の大切な人をもう二度と失わないように」


正義はなんで隆平に親近感が湧いたのかを理解した。きっと同じだったのだ。大切なものを失いもがき苦しみながら、正義は理不尽な世界を変えるため、隆平は大切な人を守るため、ひたすら力を求め突き進み続けた。そんな二人が出会い近づくのは必然だったのかもしれない。


「俺はお前の親父を見過ごすわけにはいかない。お前は俺の敵になるか?」


正義の言葉で二人の間に緊張感が走ったが、それもすぐに隆平の笑い声で掻き消える。


「あれはもう俺の親父じゃない、ただの外道さ...」

「...わかった。外道にはそれ相応の報いを受けて貰わないとな」

「殺すのか?」

「いや、奴の命ごときで今まで犯した罪が許されるはずがない。言ったろ、それ相応の報いを受けて貰うって」



権蔵は自宅でいつものようにリビングでくつろぎながら手下と談笑しワインを飲んでいた。


「どうだ?バカ息子の様子は?」

「さすがにもう諦めたみたいです。最初は脱出しようともがいてましたが」

「ふん。馬鹿な奴だ。余計なことを知るからこういうことになる」

「おっしゃる通りです」

「それでもう少しで準備できるのか?」

「はい。明日には朝鮮行きの船が出せるそうです」

「死体が見つかると足がつく可能性があるからな...これで誰もわたしの邪魔をすることはない」


バタッ....次の瞬間、不敵な笑みを浮かべる権蔵の横に手下が倒れた。


「その船に乗るのは一体誰だろうな?」


権蔵は背後からする声に振り向くと、そこには正義と隆平がたっていた。


「...どうして、お前がここに?監禁されているはずじゃ...」


ドコッ...顔が凍りつき、身動きできない権蔵を隆平は殴り飛ばす。


「佐藤権蔵、罪の罰を受ける時が来たぞ」

「お前は...?」

「あんたに名乗る名前なんてねぇよ。それにこれから隆平のかわりに朝鮮で奴隷として一生暮らすんだから、知る必要もないだろう?」

「なっ!ふざけるなー!」


横で倒れている手下の服から銃を抜き取り、近づく隆平に構えた。

バンッ...次の瞬間、銃声が響いたが隆平は動き続ける。


「知ってるか?銃は接近戦では向かないんだよ」


一瞬で間合いを詰め、銃を持つ手を蹴り飛ばし、背後に回り込み首を締め上げた。


「ガァ...ハァ」

「往生際が悪いぜ、親父」

「........」



完全に意識を落とした権蔵は床に倒れこんだ。確かに銃は遠くから狙撃するからこそ真価を発揮する。だが、銃弾を避けることは至難の業じゃない。弾道を予測し、相手が撃つ瞬間を見極め動かないといけないからだ。それを軽々とやってのける隆平は究極の領域にいた。


正義は携帯を取り出し、掃除屋の手配をするためケンさんに電話を掛ける。


「もしもし、ケンさん?ああ、こっちは片付いたから掃除屋の手配よろしく」


これで権蔵も終わりだ。明日にはもう日本にはいない。そして二度と日本に戻ってくることもないだろう。

殺すのは簡単だが、事後処理をするのに手間とコストがかかると同時にいろいろなリスクが出てくる。警察も馬鹿ではない。

奴にはもっと苦しみいっそ死んだほうがましだと思わせなければ。

権蔵は隆平を朝鮮に奴隷として売り飛ばそうとしていた。正義はそれを逆手に取り、権蔵を売りつけることにしたのだ。


「とりあえず俺の家に戻ろう。お前は俺に聞きたいことがあるだろ?」

「そうだな。正義も俺に聞きたいことがあるだろう?」


正義の家に向かう中、会話はなく二人の間を妙な静けさがつつんでいた。


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