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革命のラプソディア  作者: satoshi
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01. 始動

「これで荷物の搬入は以上になります。よろしければこちらにサインお願いします。ありがとうございました!」


元気な引越業者のお兄さんを見送り、部屋の片づけを始めた。あの忌まわしき事故から3年経ち、正義は16歳、この春に高校生になる。

病院から退院し、他の同級生より一ヶ月遅れで中学校生活が始まった正義は、死ぬ気で勉強した。他の学生が遊んだり部活をしたりする時間も勉強し、夜は寝る間を惜しんで、いろいろな本を読み漁った。その中には、心理学や経済学など分類は問わずひたすらに勉強し続けた。難しい単語などは辞書やインターネットを使い調べ、中学三年の頃には既に大学レベルの知識量を備え、株や為替などを利用し、お金を稼いでいた。


正義の通う高校は有名な進学校である聖徳学園で、政治家の息子や財界の御曹司、芸能人など様々なこれから日本を動かしていくような人間が通っている。努力の成果もあり、特待生として入学を許可された正義は、まず両親の無念を晴らすために、今までお世話になった叔父のもとを去り、一人暮らしを申し出る。

叔父は、最初は反対したが正義の意思を尊重し一人暮らしを許してくれた。


「明日から、高校生だよ...父さん、母さん」


両親と一緒に写る写真を見つめながら、一人寂しく呟いた。




「新入生代表、天音正義」

「はい」


聖徳学園の入学式では通例だと一般入試でトップの生徒が新入生代表挨拶を行うのだが、今回は特待生枠で圧倒的な成績で入学を決めた正義が選ばれた。そんなものに興味はなく、あまり目立ちたくはなかったが先生たちの手前引き下がるわけにもいかず、原稿をもらい全校生徒の前で挨拶を行った。

入学式が無事に終わり、クラスに移ると新入生挨拶もしたこともあり目立ったが、当たり障りのない接し方をしその場を乗り切った。


放課後、職員室によりアルバイトをする許可をもらいに行くと、正義の家庭状況を知っている担任の先生は、勉学との両立をしっかり行うことを条件に快く承諾してくれた。


「天音、大変だと思うけど頑張れよ!」

「ありがとうございます」


担任に笑顔で送り出され、職員室を出た。



 帰宅しアルバイト先をインターネットでさっそく探したら、徒歩十分のところにあるカフェが応募していた。最近オープンしたらしく、洒落た店内の雰囲気は若者に人気らしい。

時給は千円か。まぁ無難だな...

正義は早速応募し、三日後に面接が決まった。現在の株や為替の収入でも十分生活できるが、高校生が何もせずお金を持っていると怪しまれるので、裏を隠すためのフェイクとして利用するためだ。株や為替の口座は叔父に頼み開設してもらっているので、そこからすぐに自分にたどり着くことはない。


夕飯を自炊し、風呂に入って一息ついたところで、いつもの日課を行うことにした。パソコンのメモ帳を開き、自分の一日の流れを打ち込んでいく。特に人とかかわった時のことは、事細かく書かれていた。正義の父は心理学を研究する学者で、あいさつの仕方、話し方、視線の動き、姿勢、歩き方、服装などちょっとしたことから、その人がどういう人間かをある程度把握できる。父と遊びと称して一緒に人間観察をよくしていた。父が亡くなってからは、自分の能力を磨くために毎日欠かさず行う。


「人は無意識のうちに自分を作る。大抵の人間は潜在意識が表に出やすく、自分が認識している自分と他人が認識する自分の違いが生まれる。マジシャンやメンタリスト、占い師といった人たちは、人間観察に優れていて相手の意識外の情報を収集することにより、マジックを行ったり、相手の考えを読んだりすることができる」


昔、父が話していたのを思い出し、当時は幼くよく意味を理解できなかったが、自分で勉強し実践することにより少しずつ理解できるようになった。

正義はパソコンの電源を落とし、眠りについた。



 一ヶ月後、学校が終わり、採用されたカフェ「アトリエ」でのバイトを済ませ、帰宅した正義はパソコンの前に座り、考え込んでいた。

そろそろ動き始めるか...

学校やバイトが少しずつ落ち着き始め、生活リズムがつかめたところで、本格的に三年前の事故の調査を始めることにした正義は、事故の詳細を簡単に整理していき、一つの疑問点にたどり着いた。

事故が起こったとき、少なからず人がいたはず。それなのに目撃者の証言はマスコミが報道したものと変わらなかったとなると...

正義は立ち上がり部屋を歩きながら、一つの結論にたどり着く。


警察は敵だ...


個人が行う情報操作の域は超えている。そもそも目撃者の証言をきちんととっているのかも怪しいくらいに、事故処理がきれいに片付きすぎている。加害者と被害者が両方亡くなっているにも関わらず、当事者の証言なしにあれだけ早く結論付けられるのは、隠蔽したい何かがあったという可能性が高い。被害者の家族に話を直接聞きたいが、妻は事故の前にすでに亡くなっていて一人娘が残されたが、事故の後養子として出されていた。被害者の親族には手が回っていると考えられる。警察組織が敵となり証拠をもみ消しにかかっているとなると、真相にたどり着くのはかなり難しい。

そう簡単には尻尾はつかめないか...

正義は悔しそうに顔をゆがませた。



次の日、学園に向かう途中の坂道で、一人の少女が黒塗りの高級車から降りてきて話しかけてきた。

「天音君、おはよう。良かったら学校まで一緒にいかない?」

「おはよう、高峰。別にいいぜ」


正義は物怖じせず笑顔で返し、一緒に登校することにした。

少女は高峰静香、学級委員長をしており、父はフロンティアコーポレーションという大手IT企業の会長をしているが、それは表の顔。裏では龍盟会といって国内最大クラスの極道勢力のトップでもある。裏の顔はごく一部の関係者にしか知られておらず、そこに触れることはタブーとされている。彼女自身とても優秀で成績も上位に属しており、何より容姿がとても整っている。成績優秀で容姿端麗、お嬢様という何ともいえない三点セットがそろっている彼女はクラスで高嶺の花として扱われていた。


 聖徳学園に入学が決まった際に、正義は情報屋から学園生徒全員及び教職員の名簿と家族の情報を仕入れていた。さすがに全生徒及び教職員の情報だけありかなりの値が張ったが、今後の行動に向け必要不可欠だったので購入した。株や為替で稼いでいたお金を大分消費することになったが、その価値はある。


「ねぇ...天音君はどうして聖徳学園に?」

「唐突だな...名門と呼ばれる聖徳学園に入るのに特別な理由が必要か?」


正義が苦笑しながら答えると、高峰が急に立ち止まった。その目つきは真剣でこちらの真意を読み取ろうとしているのがわかる。


「天音君くらい学力がある人なら、もっと別な選択肢もあるわよね。だって名門だけど学力がそこまでなくても入学することは出来るから...それともここじゃなきゃいけない何か特別な理由でもあったのかしら」


この女...正義は内心舌打ちをしながら表には出さないようにし、笑顔を作った。


「別に特にねぇな。それよりなんで理由を知りたがる?」

「私も聞いたのに特別な理由はないわ。ただ、あなたに少し興味を持っただけ。だってあなた普通じゃないもの。わたしにそんな言葉使いしてくるのあなただけよ?」

「じゃあ、お嬢様とでも呼んだほうがいいか?」

「それもいいわね。今度呼んで貰おうかしら?」


正義の皮肉を高峰は妖艶な笑みを浮かべ返し再び歩き始めた。その後は特に会話もなく学園に着く。


「天音君、一緒に登校してくれてありがとう。楽しかったわ。今度ゆっくり話しましょう?」


微笑みながら話しかけてくる高峰に警戒しながらも笑顔で返した。


「どうも。次は質問攻めされないことを祈ってるよ」


職員室によるという高峰と別れ、下駄箱に向かう途中、登校時のやり取りを考えていたが、明らかに正義のことを探っていた。人間観察を得意とする正義でも、表情や仕草からあまり読み取ることができなかった。

高峰静香か...曲者だな



チャイムが鳴り、昼休みになった正義は購買で昼食を買い、屋上に向かった。屋上にはベンチがあり、昼食をとるスペースが作られている。目立たないところで一人座って食べていると、遠くから正義の名前を叫んでいる少年がいた。


「おーい、正義!」


そう言いながら駆け足で近くまできた少年の名前は同じクラスメイトの佐藤隆平。クラスではムードメーカー的な存在で、やたらとなにかしら突っかかってくる。


「隆平、毎度のことだがうるさいぞ、お前?」

「えっ、わざわざ一緒に昼飯を食べてやろうという俺の優しさを...なんてやつだ!」

「いや、誰も頼んでねぇし...」


息を切らしながら捲し立てる隆平をよそ目にパンを食べる。突然ぐいと顔を近づけてきて隆平が話しかけてくる。


「今日こそは付き合ってもらうかんな!バイトないのも知ってるし」

「マジで行くの?」


うなずく隆平を見て、両手を上げ勘弁する。


「しかたねぇな。今日だけ付き合ってやるよ、ゲーセン」


満足げにうなずきながら、昼食を食べ始めた隆平を見たときふっと正義はあることに気付く。


「その腕の傷跡、どうしたんだ?」

「...昔ちょっとな。それより早く放課後になんねぇかな!」


一瞬少し間が空いたが、すぐに笑顔を浮かべ話す隆平をみて、それ以上の追及はしなかった。



放課後、隆平とゲームセンターに寄って遊んだ帰りにバイト先のカフェ「アトリエ」に寄って、ケーキセットを頼んだ。


「うぉ、めっちゃここのケーキ美味しいな。病み付きになりそうだぜ」

「だろ?マスターの自信作だぜ!」


幸せそうに食べる隆平をよそに、正義は考えことをしていた。あまり親しくなりすぎると今後の活動に支障が出る可能性がある。ちゃんと線引きしないとな...そんなことを考えてると隆平が嬉しそうに話しかけてきた。


「でも、よかったよ。お前、クラスでも少し浮いてるし、みんなとしゃっべてるときも笑ってるけど、どこか冷めてるっつぅかさ」

「...そうか?」

「ああ。なんか周りとは全然違うところを見てるっていうかさ...まぁなんかあったらいつでも相談して来いよ。俺たち友達だろ?」

「...サンキュ。でもお前に相談することあるかな?」

「ひどっ!おまえなぁ....」


コントみたいなやり取りで話を逸らしながら、正義は動揺を顔に出さないようにポーカーフェイスを作り、その場をやり過ごした。


 カフェから出て解散し自宅に帰るとすぐに正義はパソコンの前に向かい、情報屋から購入した学生名簿から隆平の名前を探し出し調べた。隆平の父、権蔵は不動産を取り扱っている会社の社長で、裏とつながっているというきな臭い噂がある。母は8歳のころ自宅に強盗が入り、隆平を守ろうとしナイフで刺され死亡。隆平は腕を切られ重傷だったが、駆け付けた警備会社の人間が救急車を呼び、命に別状はなかったという。父は出張で家を留守にしており助かっており、強盗に入った犯人は既に逮捕され、現在も服役している。犯人は若いチンピラで金品目的で強盗に入ったところを目撃され殺害したと供述している。

ただ、一つだけ気になるところがあった。殺害された隆平の母には多額の保険金が掛けられており、何か裏があるように違和感を覚えた。


あの時の傷跡は幼いころのだったのか...あいつも何かを背負ってたんだな。正義は学園の昼休みでの出来事を思い出し、あの時、一瞬だが悲しい表情をした隆平を思い出した。

いつも理不尽の犠牲になるのは、力のない子供たちばかりだ。無意識に握りしめていた拳に力が入る。


友達か...何年振りだろう、何も考えずに遊んだのは。中学校時代は友人なんて一人もおらず、常に一人で行動していたこともあり、誰かと共に過ごす時間は新鮮なものだった。もし、何もなく普通に育って出会っていれば、本当に良い友達になれたかもしれない。

学校ではチャライ感じの俺様キャラを演じており、成績が良いのに遊び人という立ち位置が確立され、みんなから少し距離を置かれていた。もちろん正義がそうなるように仕向けているが、隆平は気にした様子もなく近づいてくる。何か親近感みたいなものを感じているのかもしれない。


俺にはやらなきゃいけないことがある...


孤独にかられる正義にとって未来を大きく変える事件がもうすぐ起こることをまだこのときは知らない。

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