第八章
『僕とピストルと』
僕は、偶然ながらピストルを拾った。日ごろから憧れていたから、子供のようにはしゃいで、喜んだ。
家に帰って、すぐに簡易分解を始めた。家に工具は揃っていたから、難なく分解できると思った。が、うっかり、テイクダウン・ラッチをガチャガチャいじっている間にレバーにテンションを与えていたスプリングを勢いよく飛ばしてしまい、翌朝ベッドの上に転がっているのを見つけるまでいっさい気がつかなかった。
二日後には実包を拾った。持ち帰ると着替える間もなく空弾倉へ弾を押し入れていく。マグ・ボタンを下げる左の親指はすぐに真っ赤になったが、興奮が痛みを紛らわせた。
拾ったピストルは僕が大好きなものだったが、分解した際に部品を失くしかけた苦い経験から、どこか複雑な気分だった。
それから一週間が過ぎ、僕はリビングでテレビを見ていた。液晶モニターの奥では都知事がふんぞり返って表現の規制を謳っていた。
その政治家は作家時代、同じように猥雑なものを書いていたのだからあまり人のことは言えない。それが僕が第一に感じたことだった。
僕はピストルを鞄に入れ、首都を目指した。あの都知事はいないほうがいい。その時はそう感じていた。
夜行バスで東京へ向かうと、運がよかったのかその知事が大勢の人々に囲まれながら街頭で何かを叫んでいた。
人の波にもみくちゃにされながら、僕は群集を掻き分けて最前列へ向かった。そして、鞄からピストルを取り出すと周囲で悲鳴が上がる前に知事へ向かって三度引き金を絞った。
9ミリ実包は運良く腹辺りにまとまった。白髪も見える彼はゆっくりとその場で崩れ落ちていく。
頭に四発目を見舞う前に、僕は警備員にアスファルトへ組み伏せられた。痛みに顔を歪めながらも、僕は不思議な充足感で満ち溢れ、心の中で笑顔を浮かべた。
僕のしたことが人々の役に立ったかどうかを知るのは、もう少し先になるのは確かだった。