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第四章

『荒野への挽歌』

 枯れた大地。照りつける太陽。いやに蒼い空。吹き抜ける熱い風と砂埃。そして、漂う紫煙と硝煙の匂い。

 彼女はそれらすべてを備えたこのクニをたいそう気に入ってはいたが、いかんせん、銃を手放せないのには辟易していた。

 最初、この地を訪れた晩、出歩いていた彼女は運悪く暴漢に襲われ、乱暴されかけた。その時に事故ではあるが、男が腰に差していた拳銃を抜き取ろうとしてもみ合いになった結果、最後は暴発して男の下腹部を吹っ飛ばした。

 それ以降、夜中に出歩く際は銃を持ち歩くことにしていた。初めはオーソドックスなものを使っていたはずだったが、いつしか骨董趣味へと興味が移り、以来合理性と扱いやすさを追求したモダン・ピストルに触れることはロクになくなった。

 その日も彼女はその町にいた。天気はカラリとしているが、薄暗い路地裏はどこか陰気さを保っていた。

 紺のジーンズに白いティーシャツ、その上に古ぼけたミリタリー・グリーンのジャケットを羽織って彼女は路地の端に置かれた木箱に腰を下ろし、ため息をついた。上着のポケットから葉巻と銀のオイルライターを取り出して、ちらと隣に視線をやる。葉巻を口にくわえてから、彼女は言った。

「――何で、こんなコトやって生きてるんだろ……」

 大きく吐いた息とともに、シガリロから紫煙が上がる。地面に横たわった男は額へ鉛弾を撃ちこまれて顔を真っ赤に染めていたが、その人相は今となってはグチャグチャに潰されて察することができない。

「仕事がこれしかないから、かな……」

 死体へ呼びかける。「どっかいい転職先、知らない?」

 しかし、明確な答えが返ってくるはずもなく、すぐに静寂だけが残っていた。大通りでは人々の行き交う声や騒音が聞こえてくる。が、彼らは彼女を気にすることもないだろう。ここでは銃声の一つや二つ、ありふれた日常のひとかけらにすぎない。

 立ち上がり、ジーンズの尻を軽く払うと利き手に握っていた6インチのルガー自動拳銃をショルダー・ホルスターに仕舞った。塵や埃にはめっぽう弱いそれをなぜ今も使い続けているのか。その理由は彼女自身よくわかっていなかった。

 またお馴染みの熱い風が吹き抜けて彼女の頬を撫でる。黒いポニーテールが流されてかすかに揺れ、また動きを止めた。

 路地裏から通りへ出る直前に、ジャケットの胸ポケットへ手を突っ込み、入っていた安上がりなサングラスを引っ張り出し、それを身に着けた。隅に何気なく停められた二台のやや古ぼけたピックアップ・トラックはついさっきまでそこにはいなかった。さすがに、ちょっとした地主の息子を殺したとあっては仕様のない応報ではある。が、これが仕事なのだから仕方がない。

「弱った。こっちもあんな持ち合わせないっていうのにね――」

 ルガーと二本の予備マガジンを備えたマグパウチ付きショルダー・ホルスターのほかに右腰に9ミリ口径のマウザー・シュネルファイヤー、反対側にルーガーのために32連スネイル・マガジンをそれぞれ専用のホルスターに入れて携帯していた。

 彼女は先にマウザーから抜き出して後ろに回してあったベルトポーチから延長された二十連弾倉を指し込み、ボルトを引いた。銃身が少し後ろに下がったところで手を放すと、薬室に初弾を送り込んでボルトは閉鎖した。

 安全装置を掛けて、ベルトにマウザーを突っ込むと、次に一度片づけたルガーをもう一度手に取り、こちらには専用のドラム・マガジンを挿入した。随分と重量バランスは変わってしまったが、個人対団体戦では火力がものを言うのだ。

 ルガーのトグルを引っ張り上げ、離す。この動作を何度やってきたことだろう。そして、その度に生きて帰ってきているのも奇跡としか言いようがない。

「さ、今回はどうなんだろうね……」

 彼女は不適な笑みを浮かべて路地裏から飛び出した。銃声が一発響いた途端に馬鹿騒ぎのような喧騒が、真昼の片田舎で始まった。

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