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第三章

「テキサスの夜にて」

 それは闇の深い深夜のことだった。闇が深いといえども、辺りでは互いにせめぎあっている両軍の攻撃で真昼のように明るくなっていた。

 耳をつんづくような銃声と砲撃が飛び交っていた。そして、その間を縫うように全長4メートルほどの人の形を模した機動兵器がテキサスの荒野を駆け抜けていった。

 彼が乗っていたエヴァンス・Mk-VIは敵機からロケット榴弾を撃ち込まれた。接射に程近い距離だったが、直撃しなかったのは偶然としか言いようがなかった。が、代わりに片腕を粉砕され、着弾と同時に機体を襲った強烈な爆発の影響で計器類が調子を崩した。その結果が今のありさまだった。

 不恰好に横たわった人型戦車の装甲に彼は腰を下ろしていた。機体に施されたダズル迷彩は今となってはただただ虚しさを感じさせるだけだった。

 葉巻をくわえ、銀色のオイルライターで火を点けた。が、安物のオイルのためか火付けが悪く何度かホイールを操作してようやく一服できた。紫煙を吐き出して彼は――彼の愛機と同じように――横たわった敵機を見た。その機体は頭部センサーをこっぴどく潰され、ハッチは開いていた。右手のマニュピュレーターには大砲のような380ミリロケットカノンが握られていた。しかし、動かなくなったためか右腕はだらしなく地面へダランと下げられていた。

 数十分前、ロケット砲弾が当たった彼のエヴァンスはそのまま目前の敵機に襲いかかった。相手は油断していたのかそのまま枯れた地面へ押し倒された。そのまま、追い討ちをかけるように勢いよく相手の頭部センサーへ残された右腕を振り下ろした。初めの一撃でマニュピュレーターは砕けたが彼にとってはささいなことだった。

 五発目で自機の装甲がひん曲がるような音がした。しかし、十発目を過ぎたころから殴るたびに相手のヘッドセンサーから金属板が凹むような音が鳴った。

 相手は衝撃で気を失っているのか一向にエヴァンスを押しのけようとはしなかった。そして、ついにヘッド・センサーはメキリ、と潰れた。どこか不快な音だった。

 彼は操縦桿を動かして立ち上がろうとしたが、ロケット砲弾の爆発が利いたのだろう、途端にすべてのセンサーがダウンし、そのまま砂地に崩れ落ちた。

 機体が停まると彼の行動はすばやかった。すぐさま狭苦しい操縦室のハッチを蹴りあけ、護身用に積み込んでいた八連発のイサカ・M37を手に沈黙を保ったままの巨人へ駆け寄った。彼の手にしたそれは20インチ銃身とライフルサイトを備えていた。

 ミリタリーグリーンの装甲をよじ登り、フォアエンドを引いた。銃口は機体のハッチを捉えていた。

「ほら、出てこいよ。殺しはしない」

 しかし、言葉は返ってこなかった。「来ないならこっちから行くぞ」と、引き金を引いた。反動で銃身が跳ね上がり、九粒の散弾が放たれるも、カーン、と跳ね返ってどこかへ飛んでいってしまった。チューブ式弾倉にはダブルオーバック散弾とスラッグ弾が交互に入っていたはずだった。

 ガシャコン、と先台を前後させて空になったショットシェルをはじき出し、もう一度ハッチ目掛けて引き金を絞った。スラッグ弾も貫通はしなかったが、装甲を僅かながらにへこませたような感じがあった。

 さすがに参ったのか、操縦手はハッチを開けてノロノロと外へ這い出てきた。途端、大砲のような銃口を突きつけられ、即座に頭の後ろで両手を組ませた。

「まったく、えらい目にあったよ! 次から誘爆するような距離でロケットぶっ放すな。長生きしたいんなら、ちったあ考えることだ」

 深々とヘルメットを被った兵士は小さく頷いた。灰色のヘルメットにはヘッド・マウント・ディスプレイが内蔵されているらしく、モニターの分だけ前方は僅かに突き出ていた。

 彼はイサカに安全装置を掛け、まるでこん棒を扱うようにして横なぎにはらった。散弾銃の銃床は兵士のヘルメットに叩きつけられ、身体が真横に吹っ飛んだ。衝撃でヘルメットが外れると、長い黒髪と整った若い顔立ちが青白い光にさらされて露わになった

 チッ、と舌打ちした彼は装甲の上で倒れている捕虜の姿を一瞥すると無言のまま彼女の身体を背負った。さっきの一撃が効いたらしく、彼女もまた死んだように無口だった。

 そのまま、同じように砂へ伏しているエヴァンスまで歩いて戻ると彼女を狭苦しいコックピットの中へ降ろして中に積み込んであった茶色い毛布を被せてやった。僅かながらに息をしているのがわかる。よく耳を澄ませばそれは定期的な寝息だった。

 彼はエヴァンスの適当に座れそうな場所へ腰を下ろすと、懐を探った。見つかった葉巻はすぐに口へくわえた。もうしばらく、戦闘は終わりそうになかった。

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