推測
ちょっと早く投稿できました。
馬車に揺られて2時間、ようやく俺+お供は、メノウ王国を出た。それなりに大きい道を通ったとき、勇者の出発だというのに城下町の人々の反応は醒めたものだった。まるで見慣れた光景を見つめるような、そんな反応。馬車の中のお供(シスを除く)の態度は、申し訳なさそうな感じである。
この様子から推測するに、やはり勇者というのは何度も召喚されているのだろう。何度も召喚されているということは、魔王は倒される度に短い周期でリポップ(再発)するか、もしくは───魔王に挑んだ勇者は全て魔王に倒された、従属させられたかだろう。
そして、俺という使い捨て殺戮マシン(勇者)が利用されることにフラットとカーディとやらは罪悪感を感じている、と。
……どうでもいいな。歴代の勇者が殺されていようといまいと、俺はこの世界で俺TUEEEEEEするだけだ。
「魔物だッ!!」
その時、1人御者台にいるフラットの怒声が響いた。
幌から顔だけを出し、前方を確認する。成る程、馬車の100mぐらい先に虎のような生物が3匹いた。だが虎ではない。虎の尻尾は2本もないし、牙もあんなに長くない。
ということで、
「フラット、お願いします」
前衛に丸投げした。
何も考えなしに行かせたワケではない。恐らくあの性格からフラットは好戦的だろう。だから嬉々として向かうハズ。
案の定、フラットは剣を片手に飛び出して行った。勇者のお供というからには、あんなモブっぽい奴に負けることはないだろう。
幌の中に首を戻すと、僧侶のカーディが苦笑いしていた。
「勇者さん……あんた意外と酷いわね」
それには答えず、ただにっこりと笑う。喋るのが面倒臭い。
「どんな魔物だったの?」
またカーディが訊いてきた。ちょっと煩い。
「虎みたいなやつですよ。尻尾が2本あるやつ。それが3匹いました」
カーディの顔が固まる。
「ちょ、ちょっと、それってツインテールタイガーじゃない!?フラット!!」
いきなりカーディは叫ぶと、馬車を飛び出していった。危ない魔物らしい。あのカーディの様子では、フラットはもう生きて無いかもしれん。ちょうどいい。このままカーディも死んでくれんかな。
やがて外から悲鳴が聞こえてきた。フラット、カーディ、無念。
馬がやられちゃ厄介なので、虎を倒さなければ。
シスをちらりと見やると、興味なさげにしていた。ドライ過ぎる。
また幌から顔を出し、虎をみる。虎の後ろに見える赤いのは俺の所為じゃない。あいつらが勝手に飛び出していったんだ。
……虎の影に視線を集中し、そこから闇魔法を使う。影と夜は全て俺の支配域である。
虎は、影から飛び出した闇の杭に貫かれ、3体とも絶命した。
止まっている馬車から降り、ツインテールタイガーの亡骸の下へ向かう。魔物の素材は売れるらしい。
肉とかではなく、毛とか牙とか。
牙だけ取るのは面倒なので、闇魔法で首ごと刈り取る。首3つをリュックサックに入れて、カーディの遺体の腰(恐らく)に括り付けてある袋を拾う。ひっひっひ、金だ、お金ちゃんだ、うひひ。
ほくほく顔で馬車に戻る。豊作じゃ、豊作。
幌をくぐり、馬車の中に入った。シスは、やはり無表情で興味なさげだった。
……こいつは殺さなくても大丈夫か。
俺は、メノウ王国に密告されることを恐れている。カーディやフラットのような魔王討伐に乗り気な奴は、俺が逃げ出したら間違いなくメノウ王国に密告するだろう。それは困る。行く先々の国で俺がお尋ね者なんかになってしまう可能性が、なきにしも非ず。
フラットとカーディは、ここで死ななくともいつか機会をみて殺すつもりだった。俺の自由な異世界ライフを邪魔する奴は、如何なる手段を用いても突破する。
血に染まったリュックサックをその辺に放り、どっかりと腰を降ろす。
───あ、御者いないじゃん。
重大な事実に気が付いた。
フラットとカーディには消えていただきました。




