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暴走?


キモい。俺が、掌からでる『黒いナニか』に抱いた感想はこれだった。


俺の掌から依然として出てきていた黒いナニかは細長い形状をとっており、長さが100cm程になると、掌を離れ、存外硬質な音をたてて魔法訓練場の床に落下した。


その形と、落下時の金属質な音から鉄パイプを連想する。


隊長の方を見ると、なにやら驚いた表情でこちらを見ていた。


やがて隊長は驚愕から立ち直ると、こちらに歩み寄ってきた。


どうしたんですか、と訊くと、流石は勇者様だ、と言われた。これ何のネタっすか。


隊長の話によると、いま俺が出した黒い鉄パイプモドキは、極端に使い手が少ない闇魔法なのだという。闇魔法は非常に強力で、光魔法なんかは及びもつかないとか。曰く、最強。


闇魔法が最強たる所以は、魔法を打ち消す力があるのと、魔力を固形化して変幻自在に操れるからと。


早くも俺無双フラグか? 万単位の軍勢に俺1人で突っ込んでいくビジョンが脳裏に浮かび、ぶるりと身震いする。


冗談じゃない。俺の鶏心チキンハートがそんな刺激に耐えられるワケが無い。


俺がそんなことを考えていると、隊長は


「その棒を変形させてみてくれ」


と、鉄パイプモドキを指差して言った。どうやるんだと訊くと、頭の中でイメージしろ、と言われた。


変形、変形といっても、何にすればいいんだろうか。ただ形を変えるだけだから何でもいいのか。


 よし決めた。『刀』にしよう。


頭の中で、いつかじいちゃんが見せてくれた模擬刀をイメージする。あれは綺麗だった。刃引きは切っ先だけされておらず、かなり鋭かった。


イメージを固めると、黒い鉄パイプモドキを頭の中で刀の形状にする。すると───


───床に落ちていた鉄パイプモドキは、うねうねと蠢き形を変える。最初はなんだかよくわからない形状だったが、徐々にそれは、確実に刀へと形を変えていた。


完全に鉄パイプモドキの動きが止まったとき、そこにあったのは、あの模擬刀そのままだった。色は黒いままだけどね。


「これは……凄いな」


隊長はなにやら感嘆の声を漏らしている。いや、俺もびっくりしたよ。


「……これ、持ってみていいですか」


隊長に訊いてみた。だって、刀は男の浪漫だもの。


隊長は頷き了承の意を示した。


震える手で、黒い刀を拾う。


そのとき、急に体から何かが抜けていく感覚が俺を襲った。俺の感覚と反比例するように、刀の雰囲気は力強さを増した。


「なん……だ……?」


吸われている。明らかに剣に何かを持っていかれている。魔力とやら、だろうか。


「くっ……」


刀から手が離せない。指を動かしたいだけなのに、全身の筋肉が動かない。


刀は、どんどん存在感を増していき、なにか刀身に黒い霧のようなものまでまとわりつき始めた。


このままじゃヤバい。死ぬかもしれない。


ふっ、と意識が遠くなる。


死んでたまるか、と俺は思う。


いきなり剣と魔法のファンタジーな世界に召喚されて、今のところは自由も利かない。やっとファンタジーの片鱗を垣間見たと思ったら、次の瞬間には死にかけている。


死んでたまるか。その思いだけで意識を必死につなぎ止めた。


隊長は、どうする事もできない、と凄く申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。


周りで魔法訓練をしていた連中も、手を止めて俺を見ている。


死にたくない。死にたくないけど、どうしようもない。状況を、打開できない。


そう考える間にも、どんどん俺は力を刀に吸われていく。


ぼんやりとしか働かない頭で、ある策を思い付いた。今の状況を見れば不可能に近いが、やらないよりはマシだ。


刀を持っていない方の手から、にゅる、となけなしの魔力で作った闇の触手を出す。もう、残っている魔力は殆どない。


その触手を手から離れないように伸ばしていき、刀に近付ける。刀の纏う霧に触手が触れた瞬間、触手ごと魔力を吸い取ろうとするような力が襲う。だが、吸い取れない。吸い取らせない。


逆に触手をホースのようにして、刀が纏う霧を吸い取る。ははっ、出来たぜ。


頼りない魔力で作られた触手は、霧を吸い取ったことで強度を増した。そのまま刀に触手を触れさせる。


───お!? ヤバい、思った以上に刀の力が強い。このままじゃ、さっきの繰り返しだ。


刀に消されるかに見えた触手は、意外と拮抗している。もう俺は、手から魔力を吸収されていなかった。


「ぉぉぉぉおおお!!」


俺は気合いの声を上げた。


そのとき、絶妙なパワーバランスを保っていた触手と刀は、均衡を崩し僅かに触手が刀の魔力を吸収した。


触手は奪い取った魔力分だけ強さを増し、刀より優勢になる。


それから触手が、刀の魔力を吸い尽くすのに、あまり時間は掛からなかった。こうして俺は、九死に一生を得た。

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