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魔王


「よろしく、現勇者、山田 雅人君?」


 その言葉に、フレンドリーに応対出来るほど俺は落ち着いてはいなかった。


「ま、魔王……。さいですか……」


 やべぇぞこれやべぇぞ。マジでやべぇ。


 おま、魔王とか聞いてねえよ。まだお呼びじゃねえよ。まだ魔王の出現には早えよ。


「びっくりしたかい? ごめんねー。驚かせるつもりはあったんだ」


 あったのかよ。その声を飲み込み、代わりに別の言葉を絞り出す。


「……魔王、お前の目的は何なんだ」


 今の状態の勇者おれなら簡単に殺せたはずだ。


 目的が勇者の抹殺ではないとしたら、何だ?


 いや、そもそも竜の背の上で死にかけている俺を無視すれば、こいつにとっての平穏は保たれた。何故救けたんだ?


「悩んでいるね? ボクの目的……は、まだ教えられないな。まぁ、少なくとも君に害は無いよ。信じて貰えないだろうけど、もしかしたら益すらあるかもしれない」


 信じられるか。

 その言葉も、飲み込んだ。

 迂闊に発言は出来ない。

 闇魔法という力が無い今、光魔法を持つ魔王の方が俺より強い。反抗して、無駄に痛い目を見るのは御免だ。


「ふふっ、聡いね、君は。感情的にならないでくれてありがとう。こちらとしても話し易いよ」


「……」


「まず、ボクには君と敵対する意志が無いという事を言っておくよ。君も、そちらの方が何かと都合がいいだろう?」


「まあ……」


「詳しい事はまだ言えないけど、君には、ボクと共闘・・してもらいたい。君の、その闇魔法が必要なんだ」


 成る程ね。それで勇者を探していたのか。


 問題は、ここではいと答えるか否か。

 拒否権が無いのだから、これは交渉というより、強制。

 拒否したその瞬間、俺もそこに転がっている首無しダルマの仲間入りを果たす事になるだろう。


「……協力しよう」


 俺がそう言うと、杏里は喜色を満面に湛えて頷く。


「そうそう、そういえばさっきのリングは後で返してね。毒無効化のリングといってね、ちょっと値が張るんだ」


「ということは、さっき俺が被った粘液は……」


「猛毒だね。リングが無かったら死んでたよ」


 猛毒……だと……。

 危ねえ。

 これからは、倒しに行く魔物の性質くらい調べとこう。


「ふと思ったんだが、ヒュドラはいくつも首があるんだよな」


「うん」


「んじゃあ、13体っていうのは、いくつも首があるヒュドラを13体倒せって事なのか?」


「違うよ。13体っていうのは首が13本あるヒュドラを1体倒せってことさ。ヒュドラの首が増えると、危険度はそれに比例して上昇する。今回はまだマシみたいだよ。大昔、首が140本あるヒュドラが出現した事もあったらしい」


 140……。そんな奴どうやって倒したんだよ。

 俺ならいけるか。

 ただし、魔力も満タンで夜に、っていう条件が付くと思うが。


 まあ、とにかくこの沼地にいるヒュドラはそこまで強く無い様だし、ちゃっちゃと終わらせて帰ろう。





 その後は、男達の血の臭いに誘われてやってきたヒュドラと交戦になった。

 魔王は特に何をする訳でもなく、ただ俺の戦闘をじっと見つめていた。

 俺も、寄ってくるヒュドラに遠くから魔法を浴びせるくらいしかしていない。


「……粗方終わったな」


「まだ12体じゃないか。あと1体は不死だよ。どうするつもりだい?」


「さあ?」


 ヘラクレスは、不死のヒュドラーを岩で潰して空の星にした。殺した訳ではなく、空の星にしたのだ。


 さて、どうするか。


 これまで通りに、魔法をぶつけただけでは勝てない。


 ヒュドラを細胞レベルで消滅させるなどして殺せばいいのだろう。

 強力な炎魔法でヒュドラを融解させてみるか? ──無理、だな。

 ヒュドラが溶け切る前にこちらが酸欠になりそうだ。


「どうするかな……」


 今は、恐らく夜の9時頃。辺りは闇に包まれ、闇の魔力も1/4ほど回復している。魔王はまだいる。一度殺そうとしたのだが、どうも先ほどの話が気になった。


 俺に利益のある話、か。魔王はいつでも殺せるし、聞いてみる価値はあるかもしれん。


 魔力が安全域まで回復したので、辺りに索敵用の闇魔法を散布した。なんとそのまま敵を攻撃出来るスグレモノ。


「雅人君、こんなものを撒かれたら、ボクの光魔法が撃てないじゃないか」


 若干不機嫌そうに言う魔王。


「うるさい。俺は寝る。どうせヒュドラが出て来るまで暇なんだ」


「呑気な物だねぇ。まぁ、ボクも眠いからね。眠れる時には眠らせて貰おうかな。……雅人君、君は泥に塗れて寝るのが好きなのかい?」


「そんな訳ねえだろ。どうせヒュドラの体液でベタベタだからな。泥に塗れた所で変わんねーよ」


 全く、毒を無効にしてくれたのは有り難いが、出来れば体液ごと防げるアイテムが欲しかった。


「……しょうがないな。服を脱ぎなよ」


「は?」


「ヘンな想像をしないでよ。服を洗ってあげると言っているんだ」


 そういう事か。


 にこにことしている魔王を尻目に、服を脱ぎ始める。

 ベタベタの服を脱ぎ、ズボンに手を掛けた所で、重大な事実に気付き踏みとどまる。


 パンツ、履いてない……


 この世界の服の布地はやたら厚い。

 肌着は、別に着ても着なくてもいい、みたいな風潮なのだ。それでも着ている者が大多数だとは思うが……


「あれはパンツじゃない」


 以前、服屋に行った時、服と下着を買おうと思っていたのだが、何というか、下着が見当たらなかった。服屋の店主に訊いてみると、


『何だい。俺の作る下着は下着に見えねえってのかい。そりゃ悪かったな。あーあ、貴族の坊っちゃんは履く下着からして違うのかよ。あんな布切れ、下着じゃねえってか』


 そう言って店主が指差したのは、うずたかく積まれた布切れ。ダメだコイツ耄碌してやがる。


 異世界にトランクスを期待したのがそもそもの間違いだ。昔のイギリスだかイタリアだかは、シャツをそのまま下着として使っていたらしい。シャツのボタンが1つ多いのは、その名残だと。


「どうしたんだい雅人君。まさかノーパン……」


「……」


 沈黙。


 どうしよう。脱ぎたくない。だけど洗濯したい。


「だ、大丈夫。ぼ、ボクは気にしないよ?」


「………………絶対に、こっちを向くなよ」


 念押しして、ズボンを脱いだ。



 外気に晒された息子が、寒いよぅ、と悲しげに訴えた。


書き溜めは全弾発射フルバーストしました。

すみません。

また暫く書き溜め期間になると思いますが、見捨てないで頂けると幸いです。

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