Aランクパーティー
何とか酸素を補給しようと口を開ける。しかし、酸素は肺に届く事無く無駄に、呼気のみが虚しく口から抜けていく。
一度持ち直した意識が、再び薄くなっていく。ヤバい、これは──
悪あがきとばかりに、竜の背の上でじたばた暴れた。
しかし、そんな事をした所で呼吸が楽になるという都合のいい話は無く、次第に意識は薄れて──
意識が途切れる前に、視界の隅に何か巨大な影が見えた──気がした。
「──ぃ、──い、────おい!」
パァンッ、と、小気味良い音が響いた。一瞬遅れてやってくる痛覚を感じ、自分の頬が張られたのだと理解する。
「……ってぇ」
頬を手で抑えながら、突然の攻撃を加えた前方の人影を睨む。
すると、
「おいおい、睨むなよ。お前、俺達が救けなきゃ死んでたんだぜ?」
若い男の声だ。どことなく嘲りの声音を含んでいる。
「救けた……?」
まだ覚醒しきらない頭で思い出す。
──あぁそうか。竜の背の上で死にかけて、それで……それで?
意識が鮮明になり、今までぼんやりとした人影だったものが、はっきり視認出来るようになった。
俺の頬を張ったのは屈強そうな男だ。筋肉ダルマ。やたらとこの世界には、筋肉ダルマが多い気がするのは気のせいか。
俺が今いるのは、沼地だろう。じめじめした空気と、ぬかるんだ地面でなんとなくわかった。
周りに、まだ数人、人がいる事に気付いた。
全員、いや、殆ど同じ様な筋肉ダルマだ。紅一点、細身の体型の女がいる。
見覚えがある。確か……
「……アンリ、さん」
「おぉ、憶えていてくれたか」
呟くと、嬉しそうに笑って答えるアンリ・オーフェン。
Cランクの冒険者を拳骨1つで沈めた女だ。
「あの時は、どうもありがとうございました」
アンリの方に顔を向け、礼を言う。
「よしてくれ。君なら、あんな冒険者くらい余裕だっただろうに。そういえば、聞いたよ。まさかギルドに入りたての冒険者が、Aランクのパーティーを瞬殺だなんてね。そんな事が出来るのは、勇者か魔王ぐらいだと思っていた」
そう言って、目を細めるアンリ。
あぁ、Aランクパーティー瞬殺はやりすぎたと後悔しているさ。だけど仕方ないだろう。あの時は焦って金を稼ぐ事しか考えられなかったんだよ。
「何言っているんですか。僕が魔王か勇者だなんて、そんな事ある訳ないじゃないですか」
そう言ってパーフェクト愛想笑いを浮かべる。
「君は、Aランクパーティーを倒した時、よくわからない魔法を使ったそうじゃないか。歴代の勇者も、光や、まあこれは稀だが闇魔法という特殊な魔法を使ったらしい」
しつこいな。コイツ。どうしてそんなに探りたがる。
「僕が使ったのは雷魔法の応用です。強い磁力で石畳と冒険者の鎧をくっつけたんですよ」
「……ま、いいさ。それより、君は依頼を受けたんだろ? もうここはヒュドラの棲息地だよ。君の『雷魔法』は使えるのかい? 随分消耗したみたいだけど」
──背中に、悪寒が走る。こいつは、全て知っている。俺の闇魔法の事や、俺が、勇者だという事。
「……万全ですよ」
恐らく、さっきまで展開していた闇魔法の盾を見られていたのだ。
しかし、それだけで判断したのか? もっと別の何かがあるような──
ふと見ると、男達は薄暗い沼地の闇の一点をじっと睨み付けている。
どうしたんだろう。
「どうやら、ヒュドラのお出ましのようだ。手を出すなよ君達。これは『Sランク』冒険者の雅人君の受けた依頼だからね」
やがて、何か重い物が這うようなズッ、ズッという音が聞こえてくる。
そして、暗がりから姿を現したのは、
──太さが、大人の胴回り程はありそうな大蛇だった。
ヒャッハー!!
書き溜めがいくつか出来てますぜ!!
暫くは定期的(具体的には3日おきくらい)に投稿します。