失恋からの
やってしまった……
月曜に投稿するとか言っておきながら、まさかの連日投稿……
すいませんです……
昨夜は魔物が8度襲って来た。内一回は下級の龍種であった。
目が覚めると、空は白み始めていて、いそいそと闇魔法を回収する。明るい中ほっとくと、すぐに魔力が無くなるのだ。
近くに落ちている龍の鱗と角を拾い、シスの所へ行く。
テントに入ると、シスはまだ寝ていて、思わず隣に寝てしまいたくなる衝動に駆られるが、ぐっと堪える。
「起きろ、シス」
安らかな表情で眠るシスに声を掛け、起こす。
いま気付いたが、長旅で一度も風呂に入っていないにもかかわらずシスは全然臭わなかった。
なんかそういう魔法でもあるのだろうか。
シスは目を擦りながら起き上がると俺の方へ顔を向け、言った。
「…………おはよう」
バカ……な……。今まで自分から話し掛けるコトなんて、ほとんど無かったのに、朝の挨拶だとぅ!!
不意討ちだ。無表情の挨拶に、鼻血を噴きそうになりながらも必死に返す。
「お、おはよう……」
シスの無表情に一瞬疑問めいた感情が浮かぶが、すぐに消え失せいつもの無表情に戻る。
テントをてきぱきと片付け、シスと共にまたパンとチーズの貧しい食卓を囲む。ああ、肉が食いたい。
朝食を食べ終わり、馬車の方へ向かう。馬車にはもう商人が乗っていて、準備万端という風情だった。
「遅いぞ。あと5分遅かったら、お前らを置いていく所だった」
商人がそんなコトを言う。ふざけてんのか、こいつは。
「料金は前払いしてんだ。俺達が多少遅くても、お前には俺達に合わせる義務がある。そこのところ、忘れてもらっちゃ困る」
そう言って、龍の角を見せる。
「俺の運ぶ『商品』は鮮度が命だ。だから、出来るだけ早く……おい、お前、それは龍の角か?」
商人が驚きの表情を見せる。
「ああ、夜に狙われたからな。返り討ちにしてやった」
俺がドヤ顔で言うと、商人は改まって
「なあ、お前俺の専属護衛にならないか? 勿論、報酬は破格だ。いい話じゃないか?」
「断らせて貰うよ。この馬車は臭くて堪らん」
勧誘は適当に流して、馬車の出発を促す。
商人は、残念だ、と言いながら前を向いた。俺達は馬車の荷台に乗り込んだ。
────────────
漸く、長かった旅も終わり、目的とする街、『ハイアン』へ着いた。その街は、昔読んでいたとある漫画に出てくる街を彷彿とさせる造りだった。その漫画では、巨人と呼ばれる脅威の存在から『壁』の内の街にいることで身を守っていた。
それと同じだ、と思った。ただ、その脅威が巨人から魔物に置き換わっただけである。
俺達が着いた街は、強固そうな壁に囲まれた、どこか閉鎖的な雰囲気漂う街だった。
実は、メノウ王国とかもそうだったらしいが(というか殆どの街や国が)魔物から住民を護るために壁に囲まれているという。メノウ王国のは、ずっと馬車の中にいたから気付かなかった。
街の入り口は、特に検問やらがある訳でもなく、普通に開いた門から入った。
街の内部は、外からは想像も出来ない程賑わいがあった。
「じゃ、俺達はここで」
と言って、馬車から降りる。
商人は頷くと、
「もし奴隷が必要になったら、『ヘリムーア奴隷商会』をご贔屓に」
と言って、馬車で去って行った。
俺はシスに向き直ると、
「これで街に着いた訳だけど、これからはどう行動する? 別れて行動するか? それとも……」
シスに問う。
「共に行動するか?」
俺がそう言っても、シスは表情を変えることはせず、やはり淡白に、こう告げた。
「……別れて行動する」
───俺の胸を、息苦しさが襲う。
悲しい、と思った。
この銀髪の少女の為に、色々やった。一緒に馬車の護衛をしたり、夜の見張りをしたり。裏切られた、ような気分になった。
でも、この好意は勝手なモノだし、押し付けてはいけないと思う。
そう割り切り、内心は表面に出さずに、シスに応える。
「そうか。この街にいたら、また会うこともあるかもな」
そう言って、腰に括り付けた袋から白い硬貨を5枚程取出し、シスに差し出す。
「これまで色々教えて貰ったからな。その報酬だ。」
「……」
シスは無言で硬貨を受け取ると、俺に背を向けて、去って行った。
…………失恋、って、こんな気分なんかな。
シスの遠くなる背中を見ながら、俺はそんなことを考えた。
頭を振るい、そんな考えを思考から追い出す。
いま考えるべきコトは、そんなことではない。俺には、金が必要だ。いまシスに白い硬貨を5枚も渡してしまったせいで、所持金は物凄い少ない。仕方ない。男とは見栄を張りたがる生き物なのだ。
宿に泊まれそうな金はあるものの、かなり短い期間しか泊まれないと思われる。
そして飯まで食ったら、恐らく、無一文。
そんなおぞましい想像に身震いする。
そこでふと気付く。
虎の頭、龍の鱗と角が、未だにシスの手元に在ることに。
やってしまった、と頭を抱える。あれが今のところ、唯一の資金源だったのだ。
だが、なんだかわざわざ追い掛けるのも男らしくない。おまけに、失恋(だと俺は思っている)までしているのだ。尚更、追い掛け難い。
となれば、働くしかない。
───いや、あるじゃないか、ファンタジーの王道仕事斡旋所、『冒険者ギルド』が。
俺は、訪れた金の気配に失恋のことを少し忘れて、人知れずほくそ笑むのだった。
────────────
俺はいま、冒険者ギルドの建物の前に来ている。
あの後、適当に通行人を捕まえて冒険者ギルドまでの道程を教えてもらい、散々迷った挙げ句、今に至る。
───それにしても、冒険者ギルドの建物は、俺の想像していたものと変わらなかった。
木材のみで造られた建物。
剣が交差しているイメージが写された看板。
建物の中から漂ってくる酒の臭いと喧騒。
全てが、俺のイメージしていたものと同じだった。
俺は、進学して、初めて登校する学生のような感情を胸に抱きながら、冒険者ギルドのドアをくぐった。
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