夜に遭遇
今回はかなり短いです。
商人は、髑髏のロゴがプリントされた旗を持って馬車に戻って来た。
この旗を冒険者ギルドとやらに見せると、盗賊を倒したことになるんだとか。
だったら盗賊生かしとく意味なかったじゃん、とか思ったけど、あの様子ではその内魔物に食われて終わりだろう。
シスは、またいつもの無表情に戻っていた。可愛い。頬擦りしたい。
……おっと。
つい内なる欲求が。
商人にはえらく感謝された。報奨金は全額くれるという。当たり前だ。
シスと一緒に馬車に揺られていると、夜になった。一度俺とシスは馬車を降りて夜営の準備を始めた。また簡素な食事をとり、横になる。商人も自分で小型のテントを張って夜営していた。やはり商人もこちらに負けず劣らず質素な食事だった。
食事を終えた商人は、こちらに来て、言った。
「見張りは立てないんだな」
寝ようとしている所に来るものだからちょっとイラッときて、ぶっきらぼうに返す。
「優秀なモンでね」
「そうか。あのハゲドモ盗賊団を倒したんだ。大丈夫だと思うが、気は張っておいてくれよ。ここは稀に下級の龍種が出るんだ」
下級とはいえ、龍と言うからには強いんだろう。
安心しろ。夜なら俺は例え魔王にすら負けないからな。いや慢心とかではなく事実だ。
例のごとく闇魔法を薄く広げて索敵。今夜も忙しくなりそうだ。
商人は、落ち着き払った俺の態度から、大丈夫というのを悟ったらしく、自分のテントに戻って行った。
そして俺の意識も、暖かい毛布に包まった瞬間、ゆっくりと沈んで行った。
────────────
索敵範囲に何かが引っ掛かった。毛布を名残惜しむ身体を無理やり起こし、今まで何度魔物が索敵に掛かったか思い出す。
───今夜は5回引っ掛かったため、これで6回目。かなり眠いが、安眠しているシスの為だと思えば頑張れる。
空はまだ暗く、沢山の星がキラキラと輝いている。まだ夜は明けなさそうである。
索敵に掛かったのは1体。そこそこ大きい。商人の言っていた龍種とやらか。
見てみたい、と思った。今までは、その場から動かずに少し魔物に意識して串刺しにしていたが、龍種と言うのがどういう格好なのか興味を持った。
立ち上がり、龍のいる方へ歩き出す。
70m程歩き、俺の目に飛び込んで来たのはまさしく、『龍』だった。10m程の細長い蛇のような形状の体躯をうねらせ、こちらを見据えている。
確かに、商人が念を押す程の威圧感と強者の気配はする。だが、それだけ。夜を支配する俺の敵では無かった。
興味を失い、腕をけだるげに振るう。眠い。早く殺して寝よう。
龍は無数の闇の杭に貫かれ、断末魔の叫びを挙げることもなく絶命した。
適当に鱗と角を闇魔法で剥ぎ取り、寝床に戻──ろうとして商人の馬車が目に留まる。
今はかなり寒い。
ふと、馬車の中の奴隷の事が気になった。
だが、そんな考えを頭を振り思考から追い出す。あの中には犯罪者もいるかもしれないのだ。だとしたら、いま馬車の中で凍えているのも当然の報い。俺のふざけた偽善で同情などするべきではない。
自分の寝床に戻り、毛布をかぶる。そして、再び俺の意識は浅く沈んでいくのだった。
次回は長くするつもり、です。
次は月曜に更新したいな。