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──2章“深淵”前編



どうもブラックす(´・ω・)



ちょっと長くなってしまったので前編後編の二部に分けました


いずれ結合するかもしれません




さて、物語について



ある田舎の寒村の


冷たい泥の中から始まるお話─────



駄文ですがどうぞ(;´д`)




…………印旛郡、橘村名主、山村某がここに記す……………



──ある雨少なき年の四月。


畑が乾いている。

種を撒いたばかりだというのに、雨の無い日が三週ほど続く。

仕方ないので村の裏手にある「不忍池」から水を引く。

小さな池だ。

長くは続かない。



──雨の少なき年の五月。


結局この一ヶ月ほとんど雨が降らない。

不忍池の水は残り少ない。

村が祭る水神様の祭りを行うことが寄り合いで決まった。


雨乞いだ。



──雨の少なき年の6月。


梅雨だというのに雨が降らない。

否、曇っているのに雨は無い。

奇妙だ。

水神様の祭りは無事に終わった。



──雨の少なき年の6月、追記


夢を見た。

水神様の祠と対峙している。

祠の中から黒い影が出てきて話し掛けてくる。


“生け贄を捧げよ。されば恵みもたらさん。”



そこで夢から覚める。

黒い影は最後に笑いを浮かべた気がした。



──雨の少なき年の6月、追記


水神様に生け贄を捧げる。


村の孤児の娘が選ばれた。

私の息子がよく遊んでいた子だ。

忍びないが村のため。

仕方ない。

生け贄の儀式は滞りなく終わった。



──雨の少なき年の七月。


名主に代わり、若頭の不肖、私が記す


嵐が来ました。

村でも被害が出ました。

季節外れの大嵐です。


翌朝村の裏手に出ると大きな池が出来ていました。

みんな驚きました。


しかし名主様はどこへ行かれたのでしょうか。

昨日の晩に見たのが最後でしたが……


それから雨が普通に降るようになりました。


名主様は帰ってきませんでした。







(ある村の旧家の記録)





───深きわだつみの淵より


───水濁る泥の底で






………冷たい。



………苦しい。



………重い。



幾度となく繰り返される感情。

とうの昔に果てた躰。


ただその思いだけが其処に“在る”




真っ暗な世界。

私以外誰もいない。

この想いを知る人は居ない…………





不意に何かを感じた。

孤独な真っ暗な世界に何かが居る。


「…………望め、その想いを糧に………」


“そいつ”は見通せない闇の中で笑っている気がした。





………嗚呼


私の心に何かが灯る。



ニ ク イ


ネ タ マ シ イ


ア タ タ カ ク ナ リ タ イ


何デ皆ハ外デ、アタシハ此処ナノ?


何でアイツジャナクテアタシナノ?


教エテヨ……………




「………その願い叶えよう、その業に免じて………」










……………暖かく、軽くなった気がした。






───田園地帯のある村。




「………都市部郊外で多発した連続失踪事件は△△日の大学生の犠牲者を最後にぷつりと止んでいます。専門家によれば………


 ………次のニュースです。××県印旛市橘町で○□日、帰宅途中の女子児童が何者かに連れ去られるという事件がありました。警察に大規模な捜索の結果、付近の不忍貯水地で水面に水死体が浮遊しているのを発見、同日中に女子児童の母親により本人と確認されました。××県警によると………


 ………事件が起こった印旛市橘町では、近日中に名物水神祭の開催されており、警察による捜査が続いています。」



────ピッ


私はテレビのニュースが一段落したところで電源を切った。


「おじいちゃん、今年も水神様のお祭りやるんだよね?それとも今年は出来ないの?」

一緒にテレビを見ていた今年で七才になる私の孫は、心配そうな顔をしながら上目遣いで聞いてきた。



「ああ………水神様のお祭りは大切な行事だからな。滅多なことでは中止にはならん。安心して良いぞ。」そう言ってやった。


水神祭は約200年前から続く伝統だ。

途中戦争で一旦開催が途切れたが、戦後すぐの60年前に再び始められた。

私が10か11の時だ。



「わぁーい♪やったぁ♪今年も○×ちゃんと遊ぶんだ!」

私の言葉を聞いた孫は仲のよい友達の名前を出しながらニコニコ笑う。



「そうか、そうか、よかったな…………ッ!?ゴホッ、ゴホッ!!」

孫の頭を撫でながら言おうとした台詞は、突然の咳に遮られた。


「!?、おじいちゃん大丈夫!?」

驚いた孫が心配してくれた。


今年で齢、70過ぎとなる。我ながら自分の体を労ってきたつもりだったが、最近あちらこちらでガタが来はじめている。

そろそろ年貢の納め時かもしれない。




────ドタドタッ




板張りの廊下を誰かが走ってくる。

間もなく襖が勢いよく開いた。



「おい!?親父大丈夫かっ?」

急いで駆け寄り、背中を擦ってくれたのは私の自慢の息子だ。

十数年前に結婚したこいつは今では一児の父となり、立派な親父と化した。


妻に先立たれた私はこの息子夫婦のところに厄介になっている。



「あ……ああ、大丈夫だ。心配かけてすまんな。」

やっと落ち着いた私は掠れるように呟いた。



「ほら、おじいちゃん具合が悪いからママのとこで遊んできな。」


「はぁーい♪」

息子は孫に言う。



───タタタタッ


軽快に駆けていく娘の足音を聞きながら、息子は後ろ手で襖を閉めた。




「…………なあ、親父。聞きたいことあんだがいいか?」

さっきとは違い、真剣な口調で話してきたので、私には息子が何を言いたいのかわかった気がする。



「………何だ?」

無愛想に返してみた。



「最近噂になってるあれって、親父が昔に話してくれた人身御く────


「その話は無しだ。今はもう話したくない。」


やはりか……………。

思った通りの話題だった。


「───ッ!! やっぱり親父はなんか知ってんだろ!?教えてくれよ!!」

年柄もなく興奮して騒ぐ息子に、私は冷静に言った。


「私が子供の頃に祭りが復興した。その時の雨乞いの儀式で雨が降った。村の娘が生け贄に出された。それだけだ。」


「──違う!!親父はもっと何か知ってるはずだ!!だってあんたは名主の子供だったんだんだ。だから──」



「───だからどうした?」



「───くそっ、もういい!!」


襖を乱暴に開けると、息子は出ていった。物凄い勢いで閉めたので大きな音がした。





(…………あそこまで必死なのも当然か……)




水死体で発見された女子児童は私の孫、つまりは彼の娘と同い年の子だ。


息子が心配するのも頷ける。




そんなことを考えながら、私は息子が乱暴に閉めた襖をぼんやりと眺めていた。






───印旛市橘町山中───





───ピタッ、───ピタッ





私の躰から滴る、濁った水滴が延々と小さな音を立てる。



──サ ム イ



──サ ビ シ イ



吹き抜ける外気は私の肌に突き刺さる。



黒い影にしか見えなかった“ソイツ”に助けられ、もう見ることはないと思っていた、「ソト」に連れ出された私は嬉しかった。



懐かしい風景。



少し変わってしまったけれど人の気配のする町。




──ただ、あの時に在って今はないもの──



孤児だった私と遊んでくれた“彼”は見つけられない。



───寂しかった。






だから貯水池のほとりで一人で遊んでいた小さな子を声をかけた。



──ネ エ 、




──ア ソ ボ ウ ヨ ?




──何して遊ぶの?




──ミ ズ ア ソ ビ シ マ シ ョ 。





………その子はすぐに冷たくなり動かなくなってしまったけど、楽しかった。





──ダ ァ レ カ サ ン ?



──モ ッ ト モ ッ ト ア ソ ボ ウ ヨ 。





次なる“遊び”相手を探して私は町に向かった。








町は大いに賑やかだ。


派手な神輿が町中の通りを練り歩く。



今年も水神祭りは無事開催されている。



辺鄙な片田舎のこの町にも、この時だけは多くの観光客で溢れるのだ。


通りを走り回る子供たちや昼間から酒を飲んで赤くなってる大人もいる。




通りの両側は屋台で埋め尽くされ、何やらいい匂いが漂ってくる。


人々も浴衣や甚平を着て縁日を心から楽しんでいるようだ。



「お父さん、○×ちゃんと一緒に遊びに行っても良い?二人で行きたいの♪」

人混みの中に孫は親友の姿を見つけたらしく、父親にそう言った。



「そうだなぁ………5時までには帰ってくるんだぞ。」


「はぁーい♪行こっ、○×ちゃん!」二つ返事で了承されると孫は友達に呼び掛けて走って行った。





〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪



太鼓と笛の音に合わせて、水神を模した山車(だし)が進む。


色鮮やかな巨大な龍の姿は山の方に行く。不忍貯水池の方に水神様の本殿があるのだ。小さな社と祠があるだけだが、町の人には大事にされている。



孫とその友達の小さな背中を見届けて家に帰ろうかと思い始めていた私は突然悪寒を感じた。





─────視界の隅にいるはずの無い姿をちらりととらえたのだ。




ほんの一瞬。




目の大きさの目立つあどけない横顔。




少し長めに伸ばしていた髪の毛。




いつも着ていた藍色の小袖。



ほんの、ほんの一瞬であの娘は人混みの中に消えたが決して間違えることはない。



しかしいる筈がない。



彼女はとっくの昔に………………………………………………



「おい、ちょっと先行ってるぞ。」



「………ん?ああわかったよ。ゴクゴク」

息子は仕事仲間と飲んでいるらしく、適当な返事を返してくる。



その姿に呆れながら別れを告げた。




向かう方向は家路ではなく、本殿。





遠い昔に失ったはずの彼女を探しに、私は老いた体に活を入れて人混みに身を投じた。





近いうちに後編を投稿します(´・ω・)



主観がちょくちょく変わりますが分かりにくいようでしたら改善します(汗)

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