特別エピソード「憲兵とは」
-憲兵。
その名を聞いたことのない者は、きっとこの王都に存在しないだろう。
天龗島がまだ植民地であったころからこの島を統治し、唯一の威厳であった皇宮。
その皇宮を警備し、王都の秩序を守る宮の番人。それが皇宮警備隊。通称憲兵。
ちなみに、憲兵と王都艦隊は仲が悪い。独立革命で憲兵から島の統治権を奪い取った新参者の王都艦隊を、憲兵が歓迎するわけもないのだ。年に一回行われる、ニ組織での会議も雰囲気は最悪だという。
さて。この憲兵は、王都艦隊より階級同士の格差が顕著である。警司兵、警司長、警備監、皇宮警備隊総監。特に総監ともなると、憲兵に三十年以上の忠誠を捧げた隊員ですら、その座につくのに一苦労も二苦労も必要なのだ。
しかし、その格差をものともしない“特別階級”が、憲兵には存在する。
その名は、『勅命警備隊』。文字通り、国家の勅命で皇宮を守る者達だ。
彼らは今日も全てを捨てて、皇宮のため、皇族のために、正義を振り翳す。
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時を遡ること、数ヶ月前。王都艦隊への収集が来たとはつゆ知らず、哉兎が無邪気に港で走り回っていたある日のことである。
「…王都艦隊が新兵を60人も入隊させたぁ?」
まだ朝日の差し込み加減が弱い会議室。一人が「えぇ…意図は不明ですが…」とおどおど答える。中年や壮年の憲兵が次々在籍している中、4人だけえらく若い兵士がいた。彼らはまさに全員の視線の中心に居座り、そのうち一人が椅子ごと体をくるりと回転させる。
「うーん…やっとトロイア島との貿易が再開しようってなってるこのタイミングで?それはちょっとまずいね」
360度回転して正面を向き直した兵士が口を開いた。
久遠潤。若冠23歳にして勅命警備隊の隊長に上り詰めた、若き天才である。通常の勅命警備隊兵士の平均年齢が30後半から40代と考えると、異常に他ならない。
「でもでも、これを機に艦隊と手を組むってのもありじゃないですか?」
数人の憲兵が信じられないという形相でもう一人を見た。潤の隣に座る兵士。名前は雪城椿。
年齢20歳。本来なら「若者がでしゃばるな」と釘を刺すのが通例だが、勅命警備隊という肩書きの前ではそれすら泡になって消えるのだ。
「…馬鹿。そんなの憲兵のお偉いさんが許すわけないでしょ。なんだんかんだプライド持ってあの人たちも仕事してんだから」
「うっす!!」
もはや脊髄反射の領域で椿が声を上げた。潤が「椿くんほんと荊棘ちゃんに弱いんだから」と笑う。
白鳥荊棘。副隊長にして、潤と同期。この期の憲兵が「奇跡の世代」と言われるのも納得だ。
「どのみち艦隊の目的は、他島を味方につけることかと。人当たりはいいし、あそこの隊員」
荊棘の隣に座る、一際小柄な女子が声を上げた。天道ほむら。最年少の19歳で勅命警備隊に入隊した、潤を超えるかもしれない時期隊長候補である。
「ねー…どうしたもんか…」
潤の困り声に合わせて全員が考え込むように下を向いた。
「そういえば、今度会議あるよね。艦隊と憲兵で」
荊棘が問うと、椿が「あ、確かににそうっすね」と答えた。その場の空気が別の意味で張り詰める。
「今回の会議は面白くなりそうだね〜、艦隊にとっては裁判みたいなもんか」
潤は天井を見ながら、楽しみを噛み殺すように唇を舐めた。




