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追放された元王子を拾ったら、人生ごと抱きつかれました  作者: くるり


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6/7

6.王冠より、愛の奴隷であることを選ぶ

翌朝、男爵家の静寂を破ったのは、整然と響く軍靴の音と、仰々しいファンファーレだった。  


門前に並ぶのは、かつてアルフレートの取り巻きでもあった近衛騎士たちと、王家の紋章を掲げた豪華な馬車。


「アルフレート殿下! お迎えに上がりました! さあ、その汚らわしい農着を脱ぎ、王都へお戻りください!」


騎士隊長が、さも「救ってやる」と言わんばかりの高慢な態度で叫ぶ。  


家の中から出てきたリサは、眩しそうに目を細めた。


「……あら、朝から賑やかね。アルフレート、お迎えよ」


リサが淡々と声をかける。  

かつての彼なら、この言葉に「俺を捨てるのか!」と絶望して泣き叫んでいただろう。  


だが、今のアルフレートは違った。


彼はリサの隣に立ち、その逞しい腕を彼女の腰に回して、騎士たちを冷酷な眼差しで射抜いた。




《セシリア視点》

騎士隊長がこれほど高慢にお迎えに来たのには、一つの「確信」があった。  

すべては、公爵令嬢セシリアの描いた筋書き通りのはずだったのだ。


彼女はアルフレートを愛していた。


だが、それは対等な愛ではない。

自分がいなければ何もできない、無能な彼を膝元で飼い慣らすための「支配」としての愛だ。  

一度彼を平民に落とし、どん底の絶望を味わわせれば、必ず泣きついて自分に縋ってくる。

そう信じて、彼女はあえて追放を主導し、彼が公爵家に助けを求めてくるのをずっと待っていたのだ。


しかし、一ヶ月経っても、セシリアが公爵家を継ぐという大ニュースを流しても、アルフレートからは何の連絡もなかった。  

焦れたセシリアは、「私が慈悲深くも貴方を赦し、再び婚約してあげましょう」という体裁を整え、意気揚々と騎士たちを派遣したのである。





「殿下、もう十分でしょう。セシリア様は寛大です。貴方様が犯した数々の非礼を水に流し、再び婚約者として迎え入れると仰せだ! さあ、感謝して跪き、王都へ戻るのです!」


騎士隊長の声には、「もう降参してセシリア様の元へ帰れ」という嘲笑が含まれていた。  

だが、アルフレートの反応は、彼らの予想を遥かに超えるものだった。


「……セシリアが、俺を赦すだと?」


アルフレートは、心底おかしいというように肩を揺らして笑った。


その笑いは、やがて冷酷な拒絶へと変わる。


「あの女は、まだ勘違いしているのか。……あんな、自分より劣る存在を欲しがるだけの歪んだ愛など、俺にはもう必要ない」


「な……殿下、何を!? セシリア様の加護がなければ、貴方はただの平民として野垂れ死ぬだけだぞ!」


「野垂れ死ぬ? 結構だ。リサが横にいてくれるなら、路地裏の溝で死ぬのだって悪くない」


アルフレートはリサの肩を抱き寄せ、騎士たちに言い放った。


「セシリアに伝えろ。……俺は今、人生で初めて、支配ではなく『必要』とされているんだ。俺の顔をドタイプだと言って、中身の空っぽな俺に価値をくれたのは、彼女だけだ。……公爵位も、王位も、あの女の憐れみも、すべてドブに捨てておけ」


「殿下! 正気ですか!? 相手はこんな家畜の臭いがするような小娘ですよ!」


その瞬間、アルフレートの理性が弾けた。  


彼は騎士隊長の喉元を掴み上げ、地面から数インチ浮かび上がらせた。その瞳は、もはや人間のそれではない。


「……二度と、その汚い口で彼女を侮辱するな。セシリアに、俺はもうお前の『玩具』じゃないと教えろ。俺は、リサという一人の女性のために、俺自身の意志で、彼女の奴隷ものであることを選んだんだ」


騎士隊長は恐怖に顔を歪めた。  


セシリアが望んだ「折れたアルフレート」など、どこにもいない。


そこにいたのは、愛に狂い、愛のために強くなった、かつてないほど凶暴な男だった。


「リサ、終わったよ」


騎士を放り捨てたアルフレートが、リサに向ける表情は、先程の猛獣とは打って変わって、甘えるような、けれど熱い執着に満ちたものだ。


「……セシリアも、王宮も、もう関係ない。俺は、お前がいい。お前にふさわしい男になる。だから……ずっと俺を見ててくれ、リサ」


リサは溜息をつき、彼の頬に付いた土を乱暴に拭った。


「……わかったわよ。自立するって言ったそばからそれなんだから。さあ、冷めないうちに芋粥を食べなさい。これからはもっと厳しく働かせるから、覚悟してね」


「……! うん、喜んで!」


王都からの騎士たちが呆然と立ち尽くす中、アルフレートはリサの細い腰を抱いて、一歩も譲らぬ「二人の城」へと戻っていった。  


セシリアの支配から、完全なる共依存の愛へ。  


アルフレートにとって、それは地獄から天国への「最高の転落」であった。

次で終わると思います。

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