6話
定期試験の結果が張り出された廊下。
「105人中、美咲が1位!」とざわめきが広がる。
一方で湊の名前は下の方にあり、98位。料理部顧問の先生は厳しく告げた。
「追試に合格するまで、部活参加は禁止だ」
湊は肩を落とし、悔しさと焦りを隠せない。仲間たちが心配そうに見守る中、美咲が一歩前に出る。
「放課後、図書館で勉強しよう。私が教えるから」
その声は真剣で、けれどどこか優しくて、湊の胸に小さな灯りをともした。
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夕暮れの図書館。
窓から差し込む橙色の光が机の上に広がり、紙の匂いと静かな空気が漂う。
二人きりで座るのは初めて。心臓の鼓動がやけに大きく響き、互いの息遣いまで聞こえてしまいそうだった。
「ここは公式を覚えるより、仕組みを理解した方がいいよ」
美咲はノートに図を描きながら説明する。ペン先が走る音が静寂に溶ける。
湊は真剣に聞いているが、ふと視線が美咲の横顔に吸い寄せられる。頬に落ちる光、ペンを走らせる指先。いつも部活で見ているはずなのに、今は違って見えた。
美咲もまた、湊が自分をじっと見ていることに気づき、ペン先が少し震える。
「な、何?」
「いや…集中してるなって」
互いに意識しすぎて、言葉がぎこちなく途切れる。沈黙が甘く重く、心臓の鼓動だけが響いていた。
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距離はわずか数十センチ。机の下で膝が触れそうになり、二人は同時に小さく息を呑む。
美咲の吐息が湊の耳に届き、湊の呼吸が美咲の胸を震わせる。
視線が交わるたびに、慌てて逸らす。逸らした先では、互いの指先や唇の動きがやけに鮮明に映る。
その度に胸が跳ね、落ち着かない。
やがて時間が過ぎ、問題集のページが埋まっていく。
「できた!」湊が解答を導き出すと、美咲は笑顔で頷いた。
その笑顔に、湊の胸が跳ねる。近すぎる距離、机の下で指が触れそうになる瞬間。
「その調子なら追試も大丈夫」
美咲の声は励ましなのに、どこか照れを含んでいた。
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試験当日。湊は緊張しながらも、図書館での勉強を思い出し、答案を書き進めた。
結果は合格。顧問の先生も「これで部活に戻れるな」と微笑んだ。仲間たちも安堵の笑みを浮かべた。
だが、二人の間には新しいぎこちなさが残っていた。
図書館での静けさ、互いの視線、心臓の鼓動――あの時間を思い出すたびに、言葉が少し不自然になる。
それでも、美咲は心の中で呟いた。
「これからも一緒に頑張ろう」
湊もまた、照れくさそうに笑いながら、同じ思いを抱いていた。
二人の間に流れる空気は、勉強以上に甘く、危うく、そして確かに青春のトキメキを刻んでいた。




