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クッキングシンフォニー  作者: 双鶴


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5話

冬の午後、障子越しに差し込む陽射しは淡く、畳の青い匂いと混じり合いながら茶室を静かに照らしていた。料理部に届いた茶道部からの依頼は「茶会で出す生菓子を作ってほしい」というもの。部員たちは一瞬息を呑み、次の瞬間にはざわめきが広がった。期待と緊張が入り混じり、胸の奥で小さな太鼓が鳴り響くようだった。


台所に立つと、蒸し器から立ち上る白い湯気が頬に触れ、ほんのり温かさを残す。白玉粉の甘い香りが空気に溶け込み、餡をすくう木べらの「すっ」という音が静けさを切り裂く。指先に伝わる練り切りの柔らかさは雪を握ったようにしっとりとしていて、ほんの少し力を加えるだけで形を変える。その感触は、作り手の心の緊張をそのまま映し出すかのようだった。


「茶会では季節感が大事だよ」

湊が静かに助言する。茶道の経験が豊富な彼の声は、自然に場の空気を引き締め、部員たちの背筋を伸ばさせる。

「冬なら梅や椿をモチーフにするといい。色は淡く、形は簡潔に」


美咲はその言葉を胸に、赤い練り切りを指先で花びらに見立てる。指に残る温かさ、餡の甘い香りが鼻をくすぐり、緊張で呼吸が浅くなる。だが湊の助言を思い出すと、少しずつ落ち着きを取り戻した。完成した菓子を見つめると、光沢のある表面が蛍光灯を反射し、小さな宇宙のように季節を閉じ込めていた。


一方、湊は生菓子作りには加わらず、茶室に飾る生花に取り組んでいた。花器に水を注ぐ「ぽたり」という音が響き、椿の清らかな香りが畳の匂いと混じり合う。白椿の花びらは絹のように滑らかで、松の枝を切るときの「ぱきっ」という抵抗感が指先に伝わる。湊は角度を整え、余白を生かすように花を配置した。彼の動作は一つひとつが慎重で、まるで茶室そのものに呼吸を与えるようだった。


「茶室は余白が大事。花は飾りすぎない方がいい」

その言葉に茶道部員たちが頷く。先輩たちも「料理部がここまでできるとは」と感嘆し、茶道部員の一人は「菓子と花が揃うことで茶席が完成する」と目を輝かせた。


机には淡い桃色の梅、深紅の椿、雪を模した白い練り切りが並び、床の間には湊の生花が静かに佇んでいた。甘い香りと清らかな香りが混じり合い、茶室全体を満たす。障子から差し込む冬の光が菓子と花を照らし、視覚と嗅覚が同時に刺激される。畳の感触が足裏に伝わり、茶室の静けさが心を包み込む。


「すごい…」

美咲は完成した菓子を見つめ、背筋が自然に伸びた。指先に残る甘い香りと、舌に広がる上品な味わいを想像しながら、小さな自信が芽生える。抹茶の苦みと練り切りの甘さが溶け合う瞬間を思うだけで胸が熱くなった。


茶道部の顧問が静かに言った。

「菓子と花、どちらも季節を映すもの。今回の茶会は、きっと素晴らしいものになるでしょう」


生菓子は季節を閉じ込めた小さな宇宙、生花は余白を支える静かな力。和と洋、豪快と繊細――二人の持ち味が茶室で交差し、ひとつの空間を作り上げていた。美咲は「自分も茶道の精神に触れた」と感じ、湊は「料理と花、どちらも季節を映す」と心で呟いた。

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