4話
和菓子屋を出た帰り道。
美咲は湊に振り返り、少し照れたように言った。
「今日はありがとう。御礼に、ファミレスのイタリアン行かない?」
湊は意外そうに目を瞬かせる。
「ファミレス?」
美咲は笑って肩をすくめた。
「すごいイタリアンもいいけど、みんなが楽しめる料理も大事だと思うんだ」
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店に入ると、トマトソースの甘酸っぱい香りと焼き立てピザの香ばしい匂いが漂っていた。
炭酸の泡が弾ける「パチパチ」という音、ピザを切るナイフの「サクッ」という音、フォークが皿に当たる軽快な響きが店内を満たす。
照明は明るく、少しざわついた空気が逆に心地よい。
湊は湯気を立てるペペロンチーノを注文し、美咲はチーズがとろけるマルゲリータを選んだ。
テーブルに運ばれてきた瞬間、黄金色のオリーブオイルが艶やかに光り、唐辛子の赤が鮮烈に映える。
ピザの表面ではモッツァレラが糸を引き、バジルの緑が鮮やかに彩りを添えていた。
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そこへ偶然、料理部の女子先輩たちが入ってきた。
「え、湊と美咲?デート?」
「ファミレスでイタリアンって、青春だね〜」
二人は顔を赤らめ、美咲は「ち、違います!ただの御礼!」と慌てて否定し、湊は苦笑いを浮かべた。
しかし先輩たちは楽しそうに席を隣に取り、自然に混ざってきた。
「じゃあ私たちも一緒に楽しもうよ!」
「ピザはシェアするのが正解!」
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やがてテーブルの上は、次々と運ばれてくる料理で賑わった。
カルボナーラの濃厚なソースが麺に絡み、黒胡椒の刺激が鼻をくすぐる。
ラザニアにナイフを入れると層がほろりと崩れ、ミートソースの旨味とチーズの香ばしさが一気に溢れ出す。
シーフードパスタからはアサリやエビの潮の香りが漂い、オリーブオイルの艶が照明に反射していた。
サラダのレタスはシャキシャキと音を立て、トマトの瑞々しい酸味が口の中を爽やかに洗う。
ガーリックトーストをかじれば、表面はカリッと香ばしく、中はふんわり。ガーリックの香りが一気に広がり、バターのコクが後を追った。
「カルボナーラ、濃厚すぎて幸せ!」と先輩の一人が笑い、
「ピザはやっぱりみんなで食べるのが一番!」と別の先輩が仕切る。
「青春だね〜」と茶化す声に、美咲は顔を赤らめながらも笑い、湊は「確かに」と頷いた。
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食後、テーブルにはピザの欠片や空になったグラスが残り、それが「みんなで楽しんだ証」となっていた。
美咲は「こういう時間も料理部の一部なんだ」と心に刻み、湊は「次は部室でみんなで作って食べよう」と未来への約束を置いた。
夜のファミレスの灯りの下、料理部の仲間たちが笑顔で料理を囲む。
豪華さではなく、気楽さと共有が温かさを生む。
その光景は、二人の関係をさらに自然に近づけるように見えた。




