2話
午前授業が終わった昼下がり。料理部の部室には、色とりどりの食材と弁当箱が並んでいた。
顧問の女性教師が声をかける。
「今日は素材自由の課題。テーマは“弁当作り”。作ったらみんなで品評して、試食しましょう」
包丁がまな板を叩く軽快なリズム、唐揚げを揚げる油のパチパチ音、弁当箱の蓋がカチッと閉まる音――部室は昼市のような賑わいに包まれた。
甘辛ダレの香り、卵焼きの甘い匂い、野菜の青臭さ、揚げ油の香ばしさが混ざり合い、空気は食欲をそそる。
机の上には部員たちの弁当がずらりと並び、彩り豊かな展示会のようだった。赤・黄・緑が鮮やかに並び、午後の光がそれぞれの弁当箱を照らしていた。
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湊は真っ白な弁当箱を前に、落ち着いた手際で「肉巻きおにぎり」を作っていた。
姿勢は端正、所作は静か。だが肉を豪快に巻きつけ、タレを絡めると汁がはみ出し、蓋が閉まりにくい。
「え、見た目は綺麗なのに、めっちゃ豪快!」
「弁当箱からはみ出してるじゃん!」
女子たちが笑い声を上げる。湊は「見た目はまだ課題だな」と心で反省しつつも、「食べれば絶対美味しい」と自負し、照れ笑いを浮かべた。
豪快さを笑われて少し恥ずかしいが、楽しそうに見られるのは悪くない――そんな複雑な感情が胸に広がった。
ふと隣を見ると、美咲の弁当が目に入った。雑な手つきなのに、色の配置は計算されていて、思わず「雑なのに計算されてる」と心の中で驚いた。
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美咲は卵焼きを焼き、野菜を切り、唐揚げを詰めていた。
卵焼きは不揃い、野菜も大きさがバラバラ。だが弁当箱の中は赤・黄・緑がバランスよく並び、色の配置は計算されていた。
「雑すぎ!」
「でもなんか映える!」
女子たちが驚きの声を上げる。美咲は「雑って言われても、色の配置はちゃんと考えてる」と心で反発しつつ、「計算してることを分かってもらえた」と胸の内で嬉しさを噛みしめた。
悔しさと嬉しさが同時に押し寄せ、複雑な感情が心に残った。
湊の弁当をちらりと見て「豪快なのに姿勢は綺麗」と感じ、少し不思議な気持ちになった。
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やがて品評の時間。机の上に並んだ弁当箱は、午後の光に照らされて鮮やかに輝いた。
「湊の肉巻きおにぎり、豪快すぎて弁当箱からはみ出してるけど、味は最高!」
「美咲の弁当、形はバラバラなのに、色合いが綺麗で食欲そそる!」
「この唐揚げ、衣がカリッとしてて映える!」
「こっちのサラダ、彩りがインスタ映えする〜」
部員たちが次々に感想を口にし、笑い声が響いた。
試食すると、肉巻きおにぎりを噛んだ瞬間、タレがじゅわっと染み出し、米のふっくら感と肉の香ばしさが口いっぱいに広がる。
美咲の卵焼きは甘さがふわりと広がり、野菜のシャキシャキ感がアクセントになっていた。唐揚げは衣がカリッと割れ、中から熱い肉汁が広がる。
「これ、彼氏に食べさせたら絶対落ちるやつ!」
「湊くん、弁当男子ってモテるんだよ〜」
「美咲の弁当、雑なのに逆に映え狙ってるでしょ!」
「写真撮ろうよ!今日の部活弁当ランキング作ろ!」
女子高生らしいノリが飛び交い、部室は笑いと熱気で満ちていった。
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午後の光が弁当箱を照らし、豪快と繊細――正反対の二人の弁当が机の上で並んで輝いていた。
家庭的な温かさと挑戦的な豪快さが、同じ机に並んでいる。
窓から吹き込む風に桜の花びらがひらりと舞い、二人の弁当の上に落ちる。
その瞬間は、豪快と繊細を結ぶ橋のように見え、二人のこれからを象徴するように静かに輝いていた。




