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クッキングシンフォニー  作者: 双鶴


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2/12

1話

「今日は課題料理じゃなくて、自由調理にしまーす!」


顧問の女性教師が明るい声で告げると、部室が一気にざわめいた。

料理班と菓子班に分かれた新入生たちが、それぞれの調理台に散らばる。


ステンレスの調理台は蛍光灯を反射し、古い換気扇がゴーッと唸りを上げている。

だしの香りと砂糖の甘い匂いが混じり合い、部室全体に熱気が広がっていた。


「焦がさないようにねー」

「粉こぼしたら掃除も自分でだよ!」

「見た目も大事だから、丁寧にね」


女子高生らしい声が飛び交い、部室は文化祭前の準備のように賑やかだった。


---


料理班の湊は、唯一の男子として少し目立っていた。


エプロンをきちんと結び、背筋を伸ばして鍋の前に立つ。

フライパンにオリーブオイルを垂らすと、じゅっと音が立ち、青々とした香りが立ち上る。


にんにくを薄く切り、唐辛子を入れると、香ばしい匂いが部室に広がった。

湊が選んだのは「ペペロンチーノ」。


油の表面がきらめき、湯気が立ち上る。

背筋はまっすぐ、鍋を振る姿は舞のように優雅――だが、振るたびにオイルが飛び、唐辛子が跳ね、調理台に赤い点々が散った。


「え、めっちゃ綺麗なのに豪快すぎ!」

「ギャップやばい!湊くん、料理男子ってこういうのだよね〜」


女子たちが笑いながら囁き合う。

湊は「散らかしてるのに、みんな笑ってくれる。完璧じゃなくてもいいのかも」と心の中で安堵し、豪快さの楽しさに口元が緩む。


油がはぜる音がリズムのように響き、にんにくの香りが強烈に広がる。

湯気が顔に触れ、額に汗がにじむ。

赤い油の飛沫が蛍光灯の光を反射してキラリと光り、豪快さと端正さのギャップが際立った。


---


一方、菓子班の美咲は粉の袋を机にドンと置き、餡を丸め始めていた。


エプロンの紐は斜めでほどけかけ、髪を結び直す手つきも雑。

丸めた餡は不揃いで、桜葉を裏返しに巻いてしまう。


「雑すぎ!」

「葉っぱ逆だよ!」


女子たちが笑い声を上げる。

美咲は照れ笑いを浮かべながら慌てて直した。


だが調理台の上には材料が順序よく並べられ、蒸し器のタイミングや餡の冷まし方はきちんと計算されていた。


「雑って言われても、ちゃんと計算してるんだから」

美咲は心の中で反発しつつも、褒められると照れながらも嬉しさを噛みしめた。


粉が舞い、光の筋に白く浮かび上がる。

桜葉の艶が湯気に濡れて深い緑に輝き、蒸したもち米の甘い匂いが部室に広がる。


見た目は大雑把でも、香りと味はしっかり桜餅だった。


「意外としっかり者じゃん!」

「ギャップ萌え〜」


女子たちが驚きの声を上げる。


---


やがて試食の時間になった。


女子部員が湊のペペロンチーノを一口食べて、思わず声を上げた。

「辛っ!でもクセになる!男子ってこういうの得意だよね〜」


にんにくの香りが口の中に広がり、唐辛子の刺激が舌を軽く刺す。

塩気と油のコクが後を引き、食べた女子は「文化祭で出したら絶対売れる!」と盛り上がった。


美咲の桜餅を試食した別の女子が、にやりと笑った。

「形いびつだけど、味はちゃんと桜餅だね。…でも葉っぱ裏返しじゃん!」


「えー!ほんとだ!」美咲が慌てて直し、部室は笑い声に包まれた。


桜葉の塩気と餡の甘さが口の中で溶け合い、春の香りが広がる。


「文化祭で彼氏に食べさせたいって感じ〜」

「映えるやつ作ろうよ!」


女子たちのノリはさらに軽快になり、部室は笑いと熱気で満ちていった。


---


「文化祭で出すことを想像して作ってみてね。味も見た目も作品だから」


顧問の女性教師が柔らかくまとめると、部室の空気はさらに熱を帯びた。


窓から舞い込んだ桜の花びらが、ペペロンチーノの赤と桜餅の緑の上にひらりと落ちる。


油のはぜる音、粉の舞う感触、湯気の熱、桜葉の香り、そして味覚の余韻――


五感すべてが交錯する中で、豪快さと繊細さ、正反対の二人の自由調理が始まった。

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