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クッキングシンフォニー  作者: 双鶴


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9話

三年生の引退イベント。料理班も菓子班も垣根をなくし、全員で一つのテーマに取り組む日がやってきた。湊と美咲が考案した「香りが食欲を刺激する料理」が、長いテーブルに次々と並べられていく。


焼きたてのパンからは、香ばしい小麦の匂いがふわりと広がる。表面はパリッと音を立てて割れ、中から湯気とともに甘い香りが立ち上る。指先でちぎると、柔らかな生地がもっちりと弾み、口に含めば小麦の甘みが舌に溶けていく。観客の一人が「パンだけで幸せになれる」と笑い、場の空気が温かくなる。


カレーの鍋は、スパイスの層が空気を支配していた。ターメリックの鮮やかな黄色、クミンの香ばしさ、クローブの深い香りが混ざり合い、鼻腔をくすぐる。煮込まれた野菜がとろりと溶け、肉の旨みと一体になって、湯気の中で踊っていた。スプーンを入れる音が響くたび、香りがさらに広がり、観客の視線が鍋に集まる。


タンドリーチキンは赤みを帯びた焼き色が美しく、表面からは香辛料の刺激的な香りが立ち上る。肉を切ると、じゅわっと肉汁が溢れ、ヨーグルトの酸味とスパイスの香りが鼻を突き抜ける。噛めば外は香ばしく、中は柔らかく、舌の上で熱と香りが重なる。先輩の一人が「この香りだけで食欲が止まらない」と笑い、後輩たちも頷いた。


スパイシーえびマヨは、ぷりぷりの海老に絡んだソースが甘くも辛く、鼻に抜ける香りが食欲を煽る。衣のサクサクとした音と、海老の弾力が口の中で交差し、後からじんわりと辛さが広がる。観客の子どもが「おいしい!」と声を上げ、場がさらに和やかになる。


豚肉と新じゃがのサブジ風は、クミンとマスタードシードが油の中で弾ける音を立て、香ばしい匂いを放つ。じゃがいもはほくほくと柔らかく、豚肉の旨みとスパイスの香りが絡み合い、口に入れると温かさが広がる。湊は「香りが料理の記憶を呼び起こす」と心の中で呟き、美咲は「家庭の温かさを感じる」と思った。


豚生姜みそ茶漬けは、湯気とともに生姜の爽やかな香りが立ち上り、味噌の深い香りが鼻を包む。熱いだしを注ぐと、ご飯がほろりと崩れ、豚肉の旨みが溶け出す。口に含めば、温かさと香りが一体となり、心まで満たされる。先輩が「受験勉強の夜に食べたら元気が出そうだ」と語り、後輩たちが笑った。


サーモンのねぎ味噌しそバターパスタは、バターが熱で溶ける音とともに、ねぎ味噌の香りが立ち上る。しその爽やかな香りが鼻を抜け、サーモンの脂が舌の上でとろける。麺をすする音が心地よく、香りと味が一体となって広がる。美咲は「香りが重なり合う瞬間が音楽みたい」と感じた。


ツナとみょうがの冷や汁は、冷たいだしの中でみょうがの香りが爽やかに立ち上り、ツナの旨みが溶け込む。口に含めば、冷たさと香りが一気に広がり、夏の風のように爽やかに喉を通り抜ける。観客の一人が「香りで季節を感じる料理だ」と呟き、場が静かに頷いた。


テーブルに並んだ料理から立ち上る香りは、まるで交響曲のように重なり合い、会場全体を包み込んだ。三年生の先輩たちは一皿一皿に込めた思いを語り、料理への愛情を笑顔で伝える。


「料理って、香りだけで人を幸せにできるんだよ」

「食べてもらう人の顔を思い浮かべながら作るのが、一番楽しい」


その言葉に、湊と美咲は胸の奥が熱くなる。和気藹々とした雰囲気の中で、二人は「料理を通して人を笑顔にする」という意味を改めて感じ取っていた。香りに導かれたこの一日が、二人の心に深く刻まれていく。


イベントが終わり、片付けの時間。湊は「香りが人の心を動かす力を、今日確かに見た」と思い、美咲は「料理は思い出になるんだ」と感じていた。二人の心に残った余韻は、次の季節へと続いていく。


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