表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/99

第87話 彼女は何者なんだ?

 朝食は缶詰とレトルトのご飯だった。それでも茜が手を加えると、不思議とちゃんとした食事になる。


「……本当に、良かった」


 能彩が湯気の立つコップを両手で包みながら、ぽつりと言った。


「うん。ほんとにね!」


 柚葉も頷く。昨日あれだけ泣いていたのに、もう食欲は戻ったようだ。切り替えが早いのか、前向きなのか。


「皆に心配かけてしまって……ごめんなさい」


「ちょっと! 茜がもう謝んないでって言ったんじゃん」


 柚葉が軽く肘でつつくと、茜が苦笑した。


「俺の方も、黙って出て行って悪かった。まさか追ってくるとは思わなくて」


「そ、そうだよ! そもそもといえば晴翔が悪い!」


「心配したんですよ」


 勢いのついた柚葉と茜に、左右から同時に詰められる。能彩もうんうんと何度も頷いていた。

 フェリは俺をちらりと見て、またご飯に向き直った。


「……分かった。今度からはちゃんと相談する」


「絶対ですよ」

「絶対ね」

「は、はい、絶対に……!」


 三人に口々に念押しされる。


「分かった、分かった。──それで、基地の件だけど」


 これ以上責められないうちに、話題を切り替えてみた。


「事故があったのは本当みたいだ。被害もかなり大きいようで、隊員が散り散りになってた。道中で話を聞いて引き返してきたから、基地の中までは確認できてない」


「そっか……」


 柚葉が少し神妙な顔になった。

 しばらく沈黙が続いて、柚葉が何かを思い出したように顔を上げた。


「そういえば茜、昨日……お兄ちゃん見たって言ってなかったっけ」


 全員の視線が茜に集まる。


「……本当か?」

「はい。でも……急いでたし、遠かったので。見間違い、かもしれないです」


 茜が視線を落とした。


 ◆ ◆ ◆


「見えてきたぞ」


 通りの向こうに、学校の校舎が見えてきた。


「はい」


 後ろをついてきた蒼が立ち止まる。

 ……それにしても、ただの大学生の割にタフな奴だ。


 街中でΣに出くわした時は流石にダメかと思ったが、それでも何とか切り抜けた。

 逃げる最中も、常に相手との間合いや進路を確認し、判断も的確だった。

 最終的には、Σが突然どこかへ行ってくれたおかげで命拾いしたが……おそらく、基地から何か指令でも入ったんだろう。


 何にせよ、勘も運も良い奴だ。


 ……


 暫く歩くと、見慣れた校門の前に出た。

 地面に爆発痕がある。手榴弾か何かか。ここでも、激しい戦闘があったらしい。


 門番が俺に気づいた。


「──大佐……野田!? おい、すぐに総理に報告を!」


 一人が駆けていく。残った門番が、俺たちに銃口を向けた。


「俺たちを売った裏切り者が、何の用だ!?」


 無言で両手を上げる。


「えっ、裏切り者って?」


 蒼も手を上げながら、こっちを見た。


「……こっちにも事情があるんだ。いいから黙ってろ」


 小声で返す。


「用があるのは俺じゃない。こっちだ」


 門番たちに向かって蒼を目で示すと、蒼が一歩前に出た。


「……妹を、探してるんです。名前は、秋山 茜」


 その名前を聞いて、門番たちがざわついた。まぁ、当然の反応だろう。


 そこで、ギィと重い音を立てて門が開いた。

 その向こうに立っていたのは──総理だった。


「久しぶりだな、大佐。まさかまた会うとは思わなかったよ」


「あぁ……」


 久々の再会だが、お互いに無事を祝う気は無いようだ。


「まったく。“秋山 茜”。彼女は何者なんだ? 君が出て行ったとたん、変異体が彼女を追ってここに来たかと思えば。今度は彼女が探していた兄を連れて、君が返ってくるとは」


「茜は──ここにいるんですか!?」


 蒼の声に、切迫したものが混じった。


「……まぁ、とりあえず入りたまえ」


 総理が目で合図する。

 招かれるまま、校門をくぐった。


 ここを離れて一週間ほどしか経っていないというのに、中の様子が変わっている。

 校庭では走り回る子供。それを見守る母親。隅には立派な畑まである。

 年寄りや女共が率先して動いているようだ。


 春日 晴翔……。たった一人の男の影響で、こうまで変わるものなのか。……まぁ、俺にとっては最早どうでもいい事だ。


 中にいた連中が、一斉にこちらを見た。懐かしい顔ばかりだ。ただ、どの顔にも同じものが浮かんでいた。


 恨み、だ。


 俺は視線を受け流しながら、黙って歩いた。


 ◇ ◇ ◇


 校長室に通された。


 以前は、幹部連中がたむろしていたものだが、顔ぶれが随分変わっていた。あの時いた連中は見当たらない。あの後、色々あったんだろう。


 総理が正面に座る。


「まず初めに言っておくが……残念だが、秋山 茜はここにはいない」


 蒼の表情が曇る。


「彼女自身の意志で、ここを出た。男と一緒にね」


「……男?」


 分かりやすく動揺する蒼。総理もそれを察したらしい。


「安心したまえ。君が想像するような話ではない」


 総理が薄く笑った。


「ここを救ってくれた英雄だ。……勇者、なんて呼ばれていたな。他に数人の仲間を連れて、元々の目的のために出ていっただけだ。つまり……君や、ご両親を探しに、基地へ向かった」


 一瞬の間。


「……まさか入れ違いに、なるとは」


 蒼が小さく息をついた。安堵と苦さが混じったような顔だ。


「残念だけれどね。……で、次はこちらの質問だ。君はどこから来た? 何故、彼……野田と一緒なんだ?」


 蒼が簡潔に説明した。

 自衛隊員により基地に連行されたこと、父親も基地に居ること、事故と、それに乗じて脱出したこと。


 総理は相槌を打ちながら、静かに聞いていた。


「……なるほど」


 腕を組んで、考え込む。


 俺は補足するように口を開いた。

 基地で見たこと、聞いたこと。変異体の実験、Σシリーズの存在。基地が生きた人間を素体候補として扱っていた可能性。


「……俄には信じがたいが」


 総理が眉を寄せる。


「事実だ」


 そこで蒼が、何かを思い出したように顔を上げた。


「……そうだ。あの、ここにパソコンはありませんか?」


「あるにはあるが。学校だからな、大したものじゃないぞ」


「これを」


 蒼がポケットからUSBメモリを取り出した。小さな、何の変哲もないものだ。


「基地で研究をしていた父から、渡されたものなんです。おそらく……このパンデミックに関わる情報が入っているんじゃないかと」


 総理の目が、僅かに見開いた。

 すぐに部下に目配せする。


「食堂のポータブル電源のところにノートパソコンを持ってきてくれ。急いで」


「はっ」


 部下が駆けていく。


「我々も食堂へ向かおう」


 総理が立ち上がった。

 俺たちはその後に続く。


 廊下を歩く間、すれ違う連中が揃って俺を見る。恨みのこもった目だ。まぁ、もう慣れたが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ