第67話 ロゼリアって、意外と不器用だったり?
人の居なくなった高層マンション。
その一室のベランダで閃光が走った。
バリバリバリッ!
雷だ。紫電の光が迸り、轟音が響いた。
「これでどうだ?」
「……んー。ダメっぽいね。何か焦げてるし」
広いベランダにしゃがみ込む人影は、遥と、そして魔王ロゼリアだ。
その眼前には、大型のポータブル電源が置かれている。焦げている。黒煙が立ち上っていた。
「また一台壊れちゃったね」
「ふむ、これでも強すぎるのか?」
「うーん、そうみたい。AC100Vらしいんだけど」
「そのエーシーというのが何かも分からない上に、100Vというのもさっぱり感覚が掴めん」
ロゼリアが不満げに言う。緋色の瞳が焦げたバッテリーを見つめていた。
「あ、ACはアレだよアレ。交流。昔学校で習ったもん」
「すまないが、山を穿つとか、街を焼き払うとか、そういう形容で説明してもらえないか?」
「えー……」
そもそもバッテリーを充電するのに雷を撃ち込むこと自体が既に間違っているのだが、そんなことは分からない二人は、諦めて部屋へと戻る。
室内は広い。4LDKの高級そうなマンションの一室だ。大きな窓からは街が一望できる。きっと夜には見事な夜景が見えたはずだが、残念なことに、今はそれも期待できない。
「それにしても、困ったなぁ。これじゃいつまで経っても電気使えないよ」
遥が立派なダイニングチェアに座りながら頬杖をついた。
「なにも、その”電気”というものに拘る必要はないのではないか?」
ロゼリアも椅子を引き、向かいに座る。ゴシックロリータのドレスが椅子に広がった。
「だって、快適ライフといったら、まずはライフラインの水・電気・ガスだよ!」
「……悪いが、水、以外分かりかねるな」
ロゼリアが溜息をつく。
「電気はね、灯りとか、冷蔵庫とか、エアコンとか、色々動かせるの」
「ふむ。つまり、生活を便利にする何かか。具体的にはどう快適になるのだ?」
「そうだなぁ。例えば、夜でも明るかったり、部屋を涼しく出来たりとか」
「ふむ」
そう言ってロゼリアは立ち上がると、手を軽く上げた。
瞬間、二つの魔法の球体が浮かび上がる。
一つは眩い光を放ち、部屋全体を昼間のように照らした。
もう一つからは冷気が溢れ出す。部屋の温度が一気に下がる。寒いくらいだ。
「これではダメなのか?」
「だ、ダメくはないけど、ずっと魔法使ってるとロゼリア疲れるでしょ?」
「心配には及ばない。この程度の魔法なら魔力を消費しているうちに入らない」
ロゼリアが涼しげに言う。光の球体がゆらゆらと浮遊していた。
「んー、でもそれだと、なんかある度にロゼリアにお願いしないといけないし」
「……ふむ。それもそうだな」
ロゼリアが手を払うと、球体が消えた。光も冷気も一瞬で霧散する。
「遥、電気も良いが食料はどうする? 途中見つけてきた物資も、だいぶ少なくなってきたが」
「それもそうなんだよね。毎日食べ物探してお店とか落ちてる荷物漁る生活は辛いなぁ」
遥がテーブルに突っ伏す。
「やはり森や海岸に拠点を構えるべきではないか? 物流が途絶えている以上、街中では徐々に周辺の物資が無くなっていくぞ」
「う……。山とか海とか、快適ライフからどんどん遠くなってくよ……。だいたい、虫出るとこイヤだし」
「……ふむ」
ロゼリアも少し困ったように脚を組み替えた。ドレスの裾が揺れる。
「──ここはやはり、勇者……ハルトと合流した方が良いのではないか? 奴ならインベントリという魔法に、異世界の物資を大量に保持しているはずだ」
「えぇー! それは最後の手段! JKにニヤついてるお兄ちゃんなんて知らない! 一人でもやっていける所見せたいんだもん! それに、お兄ちゃんと一緒だとロゼリアも困るでしょ! ならロゼリアと一緒にいる!」
遥が顔を上げて、強く主張する。
「──そうか」
ロゼリアは少し呆れながらも、それでも口元を綻ばせた。
「まぁ、今日はそろそろ日が暮れる。せっかく風呂があるんだ。湯でも沸かそうじゃないか」
そう言ってロゼリアは浴室の方を見た。立派なバスルームに大きなバスタブが見える。このマンション、幾らするかは知らないが、かなり設備が充実している。
「えっ! お風呂沸かせるの!?」
遥の目が輝く。
「多少手間だが、水を溜めて、炎の魔法で加熱すれば可能なはずだ。調整はいるが、まぁ一瞬で蒸発するということはなかろう」
「すごい、すごい! お風呂! いつぶりだろう? さっそくやってみよ!」
「まぁ、慌てるな。さすがにこの桶を一杯にする程度の少量の水だけを出すということは出来ない」
「さっきの雷と一緒かぁ。ロゼリアって、意外と不器用だったり?」
遥が意地悪く笑ってみせる。
「……そうだな。なら、夕食の準備は”器用な”遥に任せるとしよう」
「えー! ちょ、ごめんて。怒らないで」
ロゼリアは意にも介さないといった様子で微笑を浮かべると、再びベランダへ出た。
「遥、ありったけの水を汲める物を集めてくれ」
「え? 何するの?」
「街を濁流に沈める魔法があるが……調整すれば大雨程度には抑えられるはずだ」
「……え、ホントに?」
「試してみよう」
ロゼリアが両手を広げる。緋色の瞳が妖しく光った。
「待って待って! バケツ持ってくるから!」
遥が慌てて部屋の中を駆け回る。
夕日が二人を照らし、静かな空に賑やかな声だけが響いた。




