表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/48

第5話 レアアイテムは伊達ではない

(さて……それにしても、どう助けるか)


 女の子は完全にパニック状態で、ゾンビに追われながら道の向こうに走って行く。


 魔法を使えば一瞬だ。

 だが──


(助けた“後”にどう説明する?)


 銃すら見る機会のない現代日本で、謎の兵器でゾンビを焼殺は……言い訳できないな。


 剣を振るうのも手だが……。


(いや、剣の方が逆に無理あるか。どこで手に入れたんだって)


 助けた相手に恐れられ、怪しまれたら意味がない。


(いっそ素手で殴り飛ばして……)


 いや、目の前でゾンビの頭をグーパンで吹き飛ばしたら……今度は俺が化け物扱いだ。


 参ったな。人の目があると突然やり辛くなる。


(……目立たず、現代でもギリギリ説得できる武器となると)


 悩んでいる間に女の子はどんどん走って行ってしまう。


(しかたない。一か八か!)


 イベントリに手を突っ込み──取り出す。


「“エルヴンボウ”」


 白銀に輝く、細身の美しい弓。

 エルフの里で聖樹から削り出された伝説級の霊弓だ。


 構えて弦を軽く弾くと──

 魔法の光矢が、すっと現れる。


 矢筒など不要。魔力一つで無限に矢を生む。


 女の子を追うゾンビの頭部に狙いを定め──


「……ッシ」


 弦を絞り、放つ。


 光矢は空気を裂き──飛翔しながら五本に分裂。


 寸分の狂いもなく、ゾンビたちの脳天を正確に撃ち抜いた。


 ゾンビたちは頭部を失い、ぐらりと前のめりに倒れる。


 この威力。

 この精度。

 レアアイテムは伊達ではない。


「いやぁぁぁ!!」


 しかし女の子は、背後で何が起きたかわからないのか、ひたすら前だけを見て走り続けていた。


「おい! もう大丈夫だから落ち着け!!」


 声を張るが、完全に耳に入っていない。


 そして──


「キャァッ!」


 道に落ちていた散乱した荷物に足を取られ、勢いよく前のめりに転んだ。


「だ、大丈夫か!?」


 慌てて駆け寄る。


 転んだ衝撃で手のひらを擦りむき、目には涙を浮かべている。

 後ろで結んだ髪が泥でばさっと広がり、肩が震えていた。


「ひ、ひぃっ……ごめんなさい、ごめんなさい……!」


「いや謝る必要はないって! 落ち着け、大丈夫だ。もう追ってこない」


 俺は手を差し出し、ゆっくりと声をかける。


「ゾンビは全部倒した、もう安全だ」


 女の子は震えながら俺の顔を見上げた。


「……た、助け……て、くれたんですか……?」


「まぁ、一応な」


 その瞳に、恐怖と安堵が入り混じった光が宿る。


 山の静寂の中──この世界で最初の“生存者”と出会った。



 ◇ ◇ ◇



 女の子を連れて、とりあえず近くに見つけたパーキングエリアまで移動した。

 トイレと小さな休憩スペースがあるだけの、簡素な駐車場だ。

 だが山道よりは見晴らしが良く、周囲の状況を把握しやすい。


 車は数台停まっているが、人の姿はどこにもない。

 ゾンビの気配も、今のところ感じられなかった。


「……よし、一旦落ち着こう」


 木製の屋根とベンチ、テーブルがあるだけの簡素な休憩エリアに腰を下ろす。

 女の子──さっき助けた女子高生は、疲れ切ったように大きく肩を落とした。


「ほら、良かったら」


 リュックからペットボトルの水を取り出し、彼女に差し出した。

 自分も一本開け、口をつける。


「……え? いいんですか?」


 驚いたように目を見開く。


「あぁ。走ってきたなら喉乾いてるだろ? 開けてない新品だから、心配するな」


「い、いえ! とんでもないです。助けていただいた上に……貴重な水まで……」


 確かに……水はこの状況では命綱か。

 街が壊滅しているなら、インフラも停止、浄水場も止まっているはず。


 俺はイベントリに水の代わりになるものが大量にある。

 最悪、土の魔法で湧き水を探したり、水魔法で大気中から水分を集めればいい。

 水の価値をそこまで深刻に考えていなかった。


(……なんの見返りもなく物資を渡すと、逆に警戒される可能性もあるか)


 そう思い、少し言葉選びを変える。


「気にするな。困った時はお互い様だ。……代わりってわけじゃないけど、情報が欲しい」


「……情報、ですか?」


 女の子は不安げに俺の顔を見る。


「ああ。実は……信じられないかもしれないけど、事故で一月くらい前から入院しててさ。ついさっきまで昏睡状態だったんだ。あの病院から出てきたところなんだよ。だから今の状況が全く分かってない」


「こ、昏睡!? 動いて大丈夫なんですか!?」


 この状況でも人を気遣えるあたり、根が優しい子なのだろう。


「あぁ。多分だけど。身体の不調はないし。意識がなかっただけで、容態は安定してたんだろうな」


 まぁ、普通に考えれば、トラックに跳ねられてこれで済むわけがない。

 “女神”が何か上手い事してくれたんだろうな。


「そ、そうですか……それなら良かったです」


 女の子は胸に手を当て、ほっと息をついた。


「じゃ、取引成立だな」


 ペットボトルをもう一度差し出す。


「はい! 私に分かることなら、何でも……」


 女の子は深々と頭を下げ、水を受け取った。


「じゃあまずは……君の名前から。ちなみに俺は春日(かすが) 晴翔(はると)だ」


「え?」


 状況が状況なので、“自己紹介”という概念が一瞬すっ飛んだのだろう。

 しかしすぐに、彼女は少し照れたような笑顔を見せた。


「秋山……秋山(あきやま) (あかね)です」


「そうか。よろしく」


 俺から手を差し出した。

 少女──茜もおずおずと手を伸ばし、握手を交わす。


 その手は少し震えていたが、温かさが確かにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ