第46話 特別な避難所
日が暮れて──。
校庭には、焚き火が焚かれていた。
避難所のささやかなパーティー。
設備は何もかも足りない。食器はプラスチックのコップと紙皿、調理器具も限られている。
だが、久々の大量の物資に、皆が喜んでいた。
「うわぁ、お肉! お肉だぁ!」
子供たちが、焼かれた肉を見て歓声を上げる。
「ほら、熱いから気をつけなさい」
母親と思われる女性が優しく声をかける。
大人達は集まって、ビールを開けながら盛大に笑い合っている。
キンキンどころか、全く冷えてもいない、常温のビール。
普段なら絶対に飲みたくはないが、それでも皆んな、紙コップを高らかに掲げて乾杯している。
「久しぶりだなぁ、こんなに賑やかなの」
柚葉が焚き火を眺めながら呟く。
「そうですね」
茜も、柔らかく笑う。
俺たちは、焚き火から少し離れた場所に座って、人々の賑わいを眺めていた。
茜、柚葉、そして──フェリ。揃って振舞われた料理に箸をつける。
「フェリちゃん、これ食べてみて」
柚葉が焼きそばをフェリに差し出した。
「……これ、なに?」
フェリは紙皿に乗った紐状の食品を、不思議そうに見つめる。
「焼きそばだよ。ん〜、ジャパニーズ焼きパスタ?」
「ぱすた……?」
フォークで麺をすくい、恐る恐る口に入れる。
そして──目を見開いた。
「おいしい!」
「でしょ?」
魔法で見えないが、きっと尻尾をブンブンと振ってるはずだ。
そのリアクションを見て柚葉が、嬉しそうに笑う。
「はい! これはおにぎり。焼きそばにはやっぱりお米だよ!」
「おにぎり……? 何これ、白いつぶつぶ。固まってる」
「お米。日本の主食。……って、さすがにお米は見たことない?」
「に、日本に来てすぐだったらしいから! ロシアで米は珍しいんだろう」
慌ててフォローに入る。
確かに、異世界に米は無かったな。最初の頃はパンに飽き飽きしたもんだ。
「ロシアって、お米食べないの?」
「あー、地域によるらしいぞ。フェリが住んでたのは、奥地だからな」
「へえ、そうなんだ」
俺の適当な返しに、柚葉が納得したように頷く。
それに合わせて、フェリもコクコクと、とりあえず頷いた。
「それにしても、本当に良かったですね」
茜が、周りを見渡して呟く。
「みんな、笑顔です」
「ああ」
確かに──昨日までの殺伐とした空気が、嘘のように消えていた。
歪みあっていた男たちも、怯えていた女性陣も、泣いていた子供達も。今だけは心からパーティーを楽しんでいるようだ。
◇ ◇ ◇
「ところでさ。晴翔たちは、これからどうするの? ここ出て、行き先とか決まってるの?」
一通り夕飯を食べ終わり、柚葉が俺を見る。
パーティーのついでに聞いて回ったが、妹……遥と、茜の兄の情報は無かった。少なくともこの周辺には居ないようだ。
となると……
「朝日山自衛隊基地を目指す」
「そいえば、前に言ってたね。何でそんな遠い所……?」
柚葉が紙コップに入ったジュースを机に置きながら俺と茜を見る。
「茜の両親が向かったらしい。今ある手掛かりはそれだけだからな」
隣に座る茜を見ると、俯いたまま小さく頷いた。
「──え、お兄さんたち。自衛隊基地に行くつもりなの?」
ふいに、となりのテーブルに居たおばちゃん達の一人が声をかけてきた。
「多分、無事に着いたとしても、入れてもらえないと思うわよ」
「……どういうことだ?」
「私もここに来る前、人から聞いた話なんだけどね」
話好きの血でも騒いだのか、おばちゃんは椅子に座り直して、ずいっとこちらに身を寄せた。
「その人、自衛隊基地の方から来たんだって。最初は基地の方に逃げたんだけど──銃を持った人が門の前に居て、ここは政府指定避難所だから一般人は入れないって」
「……入れない?」
「そう。政府から指示を受けて来た人以外は、他の避難所に行けって。追い返されたって」
「──はっ!? 何それ」
テーブルの向こうで話を聞いていた柚葉が、怒ったように声を上げた。
「ゾンビだらけで命からがら逃げてきた人を、追い返したの?」
「そう言ってたわよ。私も信じられなかったけど。何でも、政治家とか医者とか技術者とか、国にとって大切な人だけ集めた、特別な避難所なんじゃないかって」
「ひどい……!」
柚葉の顔が、怒りで紅潮する。
「そんなの、おかしいでしょ! 自衛隊なら、国民みんなを守るべきなのに! 差別は良く無い! ねっ!」
それを差別と言うのかは分からないが。
椅子から立ち上がって茜にも同意を求める柚葉だったが……
「……そ、そうですね」
茜の表情は、どこかぎこちない。
僅かに視線が泳いでいる。
「……茜?」
俺が声をかけると、茜はハッとして顔を上げた。
「あ、はい。何でもないです」
「そう、か……?」
基地に向かったはずの両親が、追い返されてるんじゃないかと不安なのか?
いや、それにしては何か引っかかるような態度。
けれど、そこからヒートアップして金持ち批判を始めた柚葉を宥めるうちに、茜はいつも通りの笑顔に戻っていた。




