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第43話 完璧な言い訳

『晴翔ー? だいぶ経つけど大丈夫? おーい、もしもーし』


 突然、無線から柚葉の声が響いた。


「声!? どこから!?」


 フェリが驚いて飛び退き、尻尾を逆立てる。


「気配、しなかった! 敵!?」


「ああ、いや……」


 俺は苦笑しながら、ポケットからトランシーバーを取り出した。


「これは無線機ってやつだ。離れた場所にいる人と話せる道具」


「ふしぎ……」


 フェリが、トランシーバーをじっと見つめた。小さな手を伸ばして、恐る恐る触ろうとしている。


「魔法じゃないのに、声が届くの?」


「ああ。こっちの技術だ。追々勉強しような」


 トランシーバーのボタンを押す。


「問題ない。もう少し探索してみる」


『了解ー。気をつけてね』


 柚葉の声が途切れた。


「……今の、ハルトの仲間?」


 フェリが、小首を傾げて俺を見上げる。


「仲間……そうだな」


「……女の人?」


「ああ」


「他には?」


「他には……女の子がもう一人」


 そう答えてから、少しまずいかもと思った。


「……ふぅん」


 案の定、フェリの顔が明らかに不機嫌そうになる。耳が、ぴょこんと立った。


「べ、別にそういうのじゃないぞ!」


 慌てて弁解する。


「フェリ、べつになにも言ってないし」


 フェリがぷいっと顔を背けた。

 ……やってしまった。異世界に居た頃から、フェリのヤキモチにはよく困らされたものだ。


「と、とにかく。フェリのおかげで物資は充分だ。あとは……」


 周りを見渡す。

 氷漬けになった大量の食品の山。


 毎度、これに頭を悩まされるな。


「言い訳だな」


「いいわけ?」


 フェリが不思議そうに首を傾げる。


「ああ。いいか、フェリ。ここでは、俺たちが異世界から来た事は内緒だ。今後、魔法も人前では禁止」


「なんで?」


「さっきも言っただろ? 元々魔物も魔法も無い世界なんだ。そこに急に異世界から来たなんて言ってみろ」


 一呼吸置いて、真剣な顔でフェリを見る。


「それに、突然このゾンビの山だぞ。どう思われる?」


「……たしかに。フェリたちあやしー」


 フェリが納得したように頷く。


「だろ。だから、耳も尻尾も隠しといてくれ」


「わかった」


 フェリが小さな光を手に集めて、頭とお尻に振りかざす。すると──耳と尻尾が、ふわりと消えた。これも変身の魔法だ。

 普通の、小さな女の子の姿になったフェリ。見た目は完全に人間だ。


「じゃ、あとはこんだけの物資を、どうやってここまで新鮮に保存してきたか、の話だな」


 俺は腕を組んで考え込む。


「……ハルト」


 フェリが俺の服を引っ張る。


「食べ物、これだけじゃないよ? あっちにまだいっぱいある」


「あっち?」


 フェリに手を引かれてついていく。小さな手が、俺の指をぎゅっと握る。


 売り場の端にある扉を抜けた先は──巨大な倉庫だった。

 客として来たときには滅多に見る機会のない、バックヤードだ。そこには、まだ大量の食材が氷漬けになって段ボールのまま積み重ねられていた。


「おぉ……」


 その豊富さに思わず声が出る。

 缶詰、レトルト食品、米、パスタ──ありとあらゆる食材が整然と並んでいる。

 物資を見ながら棚の間を歩いていると、ふと大きな扉が目に止まった。


「ん? これってもしかして──」


 頑丈なレバーを引いてみる。ゴウン、という重い音とともに扉が開いた。


 中は巨大な空間。新鮮そうな野菜や果物が、ぎっしり詰められていた。


「そうか、業務用の冷蔵庫!」


 売り場に並ぶ前の生鮮食品を保管しておく、業務用の巨大冷蔵庫だ。


「これは使える!」


「なになに? フェリ、偉い?」


 フェリが期待するような目で俺を見上げる。


「ああ、偉いぞ!」


 フェリの頭をワシャワシャと撫でた。


「フェリのお陰で、完璧な言い訳が見つかった」


 ◇ ◇ ◇


「柚葉、聞こえるか?」


 トランシーバーに向かって話しかける。


『聞こえるよー。どしたの?』


「朗報だ。大量の物資を見つけた。新鮮な食料もある」


『えっ、うそ!? 腐ってないの?』


 柚葉の声が、驚きで裏返る。


「ああ。業務用のデカい冷蔵庫があってな。たぶんつい最近まで予備電源で動いてたんだろう」


『マジで!? やったじゃん!』


「一旦そっちに向かって、車を搬入口につける。待っててくれ」


『りょうかーい』


 柚葉の声に混ざって、茜の声が聞こえてくる。


『晴翔さん、ゾンビとか変異体は大丈夫でしたか? 怪我、してませんか!?』


 呑気な柚葉と違って、俺を心配してくれていた様子が伝わってくる。


「ああ、ゾンビは全く問題ない。その点も合流してから伝える。それと……生存者がいたから連れて帰る」


『せ、生存者ですか!? わかりました! 気をつけて戻ってきてください』


 無線を切る。


「さてと……フェリ、戻る前に一仕事するぞ」


「? わかった。フェリ、なにすればいい?」


 フェリが、小首を傾げて俺を見上げる。


「俺は売り場にある物資を根こそぎイベントリに格納してくる。その間にフェリは店内で氷漬けになってるゾンビどもを、片っ端から爪で砕いてきてくれ」


「わかった」


 フェリが頷く。それから、少し嬉しそうに尋ねた。


「……暴れていいの?」


 本能なのか、フェンリルの姿になるとフェリはどうもテンションが上がるらしい。いつも俺やおっさんに嗜められてきた。


「ああ。今日はいいぞ。ついでに、建物に派手な爪痕をちょいちょい付けてきてくれると助かる。ただし、柱とかは壊すなよ」


「わかった!」


 フェリの目が、キラキラと輝く。

 ふぅ、と小さく息を吐くと、フェリの全身を淡い光が包んだ。

 光が強くなる。眩しいほどの輝き。


 そして──。


 みるみると、その小さな体が巨大になっていく。

 白銀の毛皮。鋭い牙。太い四肢。

 光が消えると、フェンリルの姿に変わったフェリが、俺の前に立っていた。


「ウォォォォ……!」


 低い唸り声。

 だが、その尻尾は嬉しそうにゆらゆらと揺れている。


「じゃ、頼んだぞ」


 俺が言うと、フェンリルは、散歩に出掛ける犬のように、ブンブンと尻尾を振って店内へ駆けていった。

 ドシン、ドシン、という重い足音が遠ざかっていく。


「さてと、こっちも──やるか」


 空中に手をかざし、イベントリを開く。

 空間に出来た裂け目。


 その裂け目を──めいっぱい広げる。

 収集マニアの俺が、個人的趣向のために鍛えまくったスキルだ。

 レベル99のイベントリは伊達じゃない。

 車くらいなら、余裕で飲み込める。保管容量も、ほぼ無尽蔵だ。


 凍ったままの野菜や果物、肉、魚。それから加工食品、調味料──。


 俺は次々と、商品をイベントリへ放り込んでいく。

 触れた瞬間、物体が消える。異次元へ吸い込まれていく。


 缶詰の山が、一瞬で消える。

 ペットボトルの水が、次々と消える。


 まるで魔法のようだ──いや、実際に魔法だが。


 さっさと食料品売り場の回収を済ませると、今度は他の店舗へ向かった。

 衣服、日用品、医薬品──必要そうなものを次々とイベントリへ。


 イベントリの中では時間が止まっている。

 取り出しはいつでも自由自在。


 つまり、俺自身が”ショッピングモール”となったわけだ。


 その時──。

 ガシャァァァン!


 遠くから、何かが砕け散る音が聞こえた。

 フェリが、ゾンビを砕いてるんだろう。

 ガリガリガリ……!

 壁を引っ掻く音も聞こえる。爪痕を付けてるんだな。


「……楽しそうだな」


 俺は苦笑しながら、作業を続けた。


 ◇ ◇ ◇


 数分後。

 俺は、ほぼ全ての物資を回収し終えた。


 食料品、日用品、衣類、医薬品──ありとあらゆるものが、俺のイベントリの中に収まっている。


「……よし、これで十分だ」


 イベントリを閉じる。裂け目が、静かに消えた。


「フェリ、終わったぞー」


 俺が呼びかけると、遠くから足音が聞こえてきた。

 ドシン、ドシン、ドシン……。


 フェンリルの姿のフェリが、駆けてくる。

 その体には、氷の破片がいくつも付いている。


「終わった?」


 フェリが、人間の姿に戻る。光に包まれ、小さな女の子の姿に。


「ああ、終わった。フェリはどうだ?」


「うん! ゾンビ、ぜんぶ、バラバラにした!」


 フェリが、誇らしげに胸を張る。


「おお、偉いぞ」


 フェリの頭を撫でた。


「じゃ、仕上げだ。この建物を覆ってる冷気を消してくれ」


「あ。だからゾンビ、バラバラにしたんだ。わかった」


 フェリが両手を掲げると、辺りを包んでいた冷気がグングンとその手に吸い寄せられていく。

 ものの数分もしないうちに、霜に包まれていた店内は新鮮な色を取り戻し、“正常”な初夏のショッピングモールの景色になった。


「じゃあ、戻るぞ」


「うん!」

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