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第37話 ……追いかけ回してた?

「……話はそれだけか?」


 俺が問いかけると総理は軽く手を広げた。


「まぁ、聞きたかった事はそれだけだが──実は頼みがある」


「──その前に」


 俺は手を挙げて総理の話を遮った。


「そっちの質問に答えたんだ。俺の質問にも一つ答えてくれるか」


 俺が言うと、総理が肩をすくめた。


「もちろん。何が聞きたい?」


「お前らが言ってる……変異体って、何だ?」


 その質問に、総理が一瞬、動きを止めた。

 僅かな沈黙。

 それから、少し驚いたような顔で俺を見る。


「そうか。君は知らないのか」


「知らないから聞いてる」


 今度は俺が肩をすくめて答える。


「……なら、話しておこう。俺がしたかった“頼み”にも関係する事だ」


 総理が椅子に深く座り直す。何か重要な話をする前の、改まったような仕草だ。


「さっき話しただろ? ショッピングモール」


「ああ」


 確かに、この辺りには巨大なショッピングモールがある。地域最大級の商業施設だ。


「あそこなら物資は豊富だ。食料も、日用品も、医薬品も──まだまだ残っているはず」


 総理の声が、少し遠くなる。


「だから、一度かなりの装備と人員を出して回収に向かわせたんだ。武装した男を十人以上、トラックも二台用意して」


「……で?」


「けれど、さすがに巨大商業施設だ」


 総理が苦い顔をする。


「駐車場から既にゾンビの山だったよ。建物の中も、恐らく数百──いや、千を超えるゾンビがいたかもしれない」


 まぁ、それはそうだ。体育館ですら百体を超えるゾンビが居たんだ。

 あの規模の商業施設、しかも連休中となると、かなりの人混みだっただろう。そこでパンデミックが起きたとすると、感染規模は甚大なはずだ。


「しかも、問題はそれだけじゃない」


 総理の表情が、さらに暗くなった。


「……見たそうだ」


「何をだ?」


 勿体ぶった総理の言い方に少し苛立ちを感じつつも、思わず身を乗り出して尋ねる。


 総理が一拍置いてから、静かに言った。


「巨大な、犬の化け物」


「……犬?」


「ああ。犬だ」


 総理が机の上のメモ用紙を取り、ペンで何かを描き始める。


「戻ってきた回収隊の証言によれば──体長は車ほどもあって、全身が長い毛に覆われていたらしい」


 ペンが紙の上を走る。大まかなシルエットが浮かび上がってくる。

 長く垂れた耳。足元まで伸びる長い体毛。


「そして──冗談に聞こえるだろうが。辺りを覆い隠す程の霧を携えていたらしい」


 その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

 今朝見た、あの悪夢が蘇る。


「それが──変異体だ」


 総理が低い声で言う。


「その巨大な犬が……ゾンビを追いかけ回していたそうだ」


「……追いかけ回してた?」


 一瞬聞き流しそうになり、慌てて問い返した。


「ああ」


 総理が頷く。


「襲ってきたんじゃないのか?」


「いや、こちらには目もくれず、ゾンビを蹴散らしていたらしい」


 総理の声が、やや戸惑いのトーンを帯びる。


「まるで遊んでいるかのようだったと──報告にはあった。おそらく、人間もゾンビも見境ないんだろう」


 何となくだが……嫌な予感がする。


(ゾンビを追いかけ回して遊ぶ……デカい犬)


「ここからは我々の推測だが」


 総理が続ける。


「ゾンビ以外にも、おそらく化け物はいる。ゾンビ化は未知のウィルスによるものだろう。だとすると、他にも何が現れるか分からない」


 総理の指が、机の上でリズムを刻む。


「我々は、ゾンビとは明らかに異なる存在──それを”変異体”と呼んでいる」


「……分かった。十分だ」


 俺は話を遮った。聞きたかった変異体については十分だ。


「とすると、頼みってのは……」


「ああ」


 総理が真っ直ぐ俺を見た。


「君ほどの強さがあれば、変異体を倒せはしくとも、避ける術はあるんじゃないか?」


 一拍。


「──ショッピングモールから、物資を回収してきて欲しい」


 まあ、そういうことだろうな。

 予想通りの依頼だ。


「大佐の恐怖政治が揺らいだ今、事態を安定させるには十分な物資で生活に余裕を持たせるしかない」


 総理が真剣な顔で言葉を続ける。


「元々、あそこからの物資回収は我々の第一目標だった。だが──変異体の存在で、近づくことすらできなくなった」


 総理が深く息を吐く。


「頼む、力を貸して欲しい。こちらからも、可能な限り協力はする」


 その言葉には、切実さが滲んでいた。

 俺は、少し考える素振りを見せた。


(ショッピングモール、か)


 確かに、あそこなら物資は豊富だ。道具、医薬品、衣類──イベントリに足りていない“現代日本”の物資が大幅に揃う。

 それに──。


(霧を纏う巨大な犬の変異体……確かめておく必要がある)


「……いいだろう」


 俺は短く答えた。


「ただし、条件はある。まず、俺の妹と茜の家族の情報。それと、俺たちのここからの出国税の免除。本人が望めば柚葉の分もだ」


「ああ、約束しよう」


 総理が即答する。


「──なら、話は決まりだ」


 総理が向かい合って手を差し出してくる。

 俺は黙ってそれを取った。ここは、一時共闘といこうじゃないか。

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