第35話 俺と“大佐”の出会いだった。
物陰に隠れながら、街を進む。
元々、ほとんど外に出なかったからか。街の変わりように、さほど驚きはない。
(……何か、逆に現実味無いな)
ずっとやっていた、ホラーシューティングゲームのおかげか。
この状況にも、意外と冷静でいられる。
体力も、問題ない。
暇つぶしに、いつも部屋で筋トレをしておいてよかった。
腕立て伏せ、腹筋、スクワット。
それが、こんな形で役に立つとは。
(とりあえず、物資を探さないと)
物資調達とくれば、目指すはサバイバルの定番──ショッピングモール。
ゲームでも、映画でも、生存者が向かうのは、決まってショッピングモールだ。
食料も、水も、道具も──全部揃っている。
行くしかないだろう。
◇ ◇ ◇
街を進んでいると、迷彩柄のトラックがふと目についた。
自衛隊のものと思われる、大型のトラックだ。
(もしかしたら、救助隊か?)
人の居るところに行くのは、正直気が引けた。
だが、少なくとも情報くらいは手に入るかもしれない。
俺は、慎重にトラックに近づいた。
「……誰か、いますか?」
小さく声をかける。
だが、返事はない。
トラックの周りを見渡すが、誰もいない。
(……逃げたのか? それとも──)
荷台を覗いてみる。
そして、息を呑んだ。
「……マジか」
そこには、ネットの動画で見たことのある……いや、ネットでしか見た事のない代物があった。
89式自動小銃。
自衛隊の制式採用銃だ。
手に取ってみると、想像していたよりもずしりと重い。
金属の冷たさが、手のひらに伝わってくる。
(……本物だ)
意外とこういう系の動画は好きで見ていた。
ミリタリー系のYouTuberが、銃の構造や撃ち方を解説している動画。
何度も、繰り返し見ていた。時間は無限にあったから。
確認してみると……弾もちゃんとある。
追加のマガジンも数本。
動画を真似て、肩で構えてみる。
鏡はないが、意外と様になってるんじゃないか?
何度も銃を構え直したりしていると……その時。
「──おい! 人間か!? 誰かいるのか!?」
男の声が、響いた。
俺は、反射的にそちらを見た。
声の方向……少し離れた場所。
建物の近くで、ガタイの良い男が瓦礫に足を挟まれていた。
久しぶりの“人間”との遭遇に、心臓が跳ねる。
だが、それよりも驚いたのは……その男に向かってゾンビが、迫っていた。
初めて、生で見るゾンビ。
ドス黒い灰色の肌。
よろよろとした歩き方。
そいつが涎を垂れながら、確実に男に向かって進んでいる。
思わず、腰が引ける。
「助けてくれ!」
男が、叫ぶ。
(む、無理に決まってるだろ!)
だが──。
「頼む! せめて銃を!!」
男の、必死の叫び。
けれど──走って持っていくより前に、男は今にもゾンビに喰われそうだ。
(……どうする)
考える暇もない。
ゾンビが男にあと数歩というところまで迫っている。
「──どうやって撃つ!?」
俺は、思わず叫んでいた。
「……! 側面のセーフティを外せ! レバーを下げろ!」
男が、必死に叫び返す。
「それから、引き金を引くだけだ!」
言われた通りに、手探りでセーフティを探す。
レバーを、下げる。
カチャ、という音。
そして──ゾンビに狙いを定める。
手が、震える。
心臓が、バクバクと音を立てている。
(……落ち着け)
深呼吸。
ゲームと同じだ。
敵を、照準に捉えて──。
引き金を、引く。
パン!
炸裂音が、響いた。
反動で銃口が大きく跳ね上がる。
「っ!」
手が痺れる。
弾は──大きく逸れた。
ゾンビは……まだ倒れていない。
(くそ……!)
もう一度、狙いを定める。
今度は、ゾンビの頭に向かって──セミオートで、連射。
パパパパパパパ!
銃声が、連続で響く。
反動で、狙いが定まらない。
だが──。
数発が、命中した。
ゾンビの頭が吹き飛び、そして──地面に、倒れ伏した。
マガジンが空になったのか、カチャ、という空撃ちの音が響く。
「……っ、はあ、はあ……」
息が、荒い。
手が、まだ震えている。
耳が、キーンと鳴っている。
だが──。
(……やった)
俺は──ゾンビを、倒した。
初めて、戦った。
初めて、勝った。
「お、おい! 大丈夫か!?」
男の声で我に返る。
俺は、男の方へ走った。
これが、俺と“大佐”の出会いだった。




