第32話 長い一日だった
購買を出ると──茜と柚葉が、青ざめた顔で待っていた。
「は、晴翔さんっ!?」
茜が、俺の姿を見た瞬間、駆け寄ってきた。
その顔は──今にも泣き出しそうだった。
「ど、どうした? 何かあったか?」
俺が尋ねると、柚葉が息を切らしながら言った。
「それはこっちのセリフよ!」
柚葉が、俺に迫る。
「銃みたいな音が……! 中で何があったの!?」
ああ──そうか。
部屋の近くにいた二人には、発砲音が聞こえたんだ。
「晴翔さん、怪我は……!」
茜が、手を震わせながら、俺の全身を確認し始めた。
服を引っ張り、腕を掴み、必死に傷がないか探している。
「どこか撃たれてませんか!? 血は……出てませんか!?」
「茜、落ち着け」
「落ち着けるわけないじゃないですか! 銃の音がして……それで、晴翔さんがなかなか出てこなて……!」
茜の目に、涙が浮かんでいる。
「わ、私も、助けに行こうとしたんたんだよ……!」
柚葉も、震える手で俺の背中を確認しようとしている。
「で、でも。茜が、かえって邪魔になるかもしれないからって、必死で止めて……!」
ああ。しまった。
あまりにも呆気なさすぎて、二人のことを考えてなかった。
外で待っている二人にとっては──銃声が聞こえて、それから何の音もしなくなったら、最悪の状況を想像するのは当然だ。
「あ、あー」
俺は、できるだけ軽い口調で言った。
「報酬の量でちょっと揉めてな」
「……揉めた?」
「ああ。それで、大佐が威嚇のつもりで空砲を撃ったんだ」
完全に嘘だが──真実を言うわけにはいかない。
「いやー、さすがにちょっとビビったよ」
わざとらしく笑ってみせる。
「でも、話もついたし、大丈夫大丈夫」
「……本当ですか?」
茜が、不安そうに俺を見上げる。
「本当に、怪我してませんか?」
「ああ、本当だ。ほら」
俺は、両腕を広げて見せた。
「どこにも傷はないだろ?」
茜が、じっと俺を見つめる。
それから──ようやく、ほっとしたように息を吐いた。
「……そ、それなら良かったですけど」
茜が、少し涙声で言う。
「もう、無茶しないでくださいね」
「ほんと、ビックリさせないでよ!」
柚葉も、俺の腕を軽く叩いた。
「私たち、本気で心配したんだからね!」
「悪い、悪い」
俺は、二人に頭を下げた。
「次からは、ちゃんと考えて行動するよ」
茜が、まだ不安そうな顔をしている。
柚葉も、完全には納得していない様子だ。
だが──とりあえず、二人は安心してくれたようだ。
「……で」
柚葉が、恐る恐る尋ねた。
「報酬は……ちゃんと貰えたの?」
「ああ」
俺は、やたらと重い袋を、床に置いた。
じゃらじゃら、と重い音。
「500枚ちょいだ」
「──えっ!?」
柚葉が、目を丸くした。
「500枚って……嘘でしょ!?」
「本当だ」
「一日で……500枚も!? ちょ、何拾ってきたのよ!?」
柚葉が、信じられないという顔で俺を見る。
茜も、驚いたように目を瞬かせている。
「すごい……です」
「まあ、ちょっと張り切りすぎたかもな」
俺は、軽く肩をすくめた。
確かに、500枚は多すぎた。
週に必要なのが50枚程度なら、10週間分だ。
いくらなんでも、目立ちすぎる。
(……まあ、いいか)
どうせ、もう目立ってしまったんだ。
今更、控えめにしても意味はない。
「とりあえず、飯でも食いに行こう」
俺が言うと、茜と柚葉が顔を見合わせた。
「……はい」
「うん」
二人とも、まだ少し不安そうな顔をしている。
だが──俺が無事だと分かって、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
三人で、炊き出しの場所へ向かう。
夕日はとっくに沈み、夜の帳が校舎を包む。
長い一日だった。
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