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第29話 ただ──勇者だった事はある

 校門近くのベンチに座って茜と柚葉は、鉄板で補強された鉄の門をじっと見つめていた。


 時刻は18時少し前。タイムリミットまであとわずか。遠巻きに二人を見ていた男達が集まってくる。


 その一人が、声をかけた。


「残念だったねぇ。あいつ、間に合わなかったな」


 ニヤニヤと笑う男。


「……まだ、時間はあります」


 茜は前を見たまま、静かに答える。


「ふぅん」


「ところでさ」


 男の一人が、すっと茜の隣に座った。


「茜ちゃんって、処女?」


 その問いに、茜は驚いて息を呑み、柚葉の方へ逃げるように身を寄せる。


「ちょっと! やめなさいよセクハラ!!」


 代わりに柚葉が怒鳴った。


「まぁ、そう言うなよぉ」


 そう言って男はまた茜に擦り寄る。


「──順番、俺が最初に決まったから。ヨロシクね」


 ネットリと笑いながら、男は茜に顔を寄せた。吐き気を催すほどの酒臭い息が、茜の頬にかかる。


「だからっ! まだ時間はあるって──」


 男を押し除けようと、茜の方へ身を乗り出す柚葉だったが──


「なぁ、柚葉」

「お前の相手は俺たちな」


 そう言って二人の男がその腕を掴んだ。力任せに引っ張られ、柚葉の体がベンチから引き剥がされる。


「いっぺん複数プレイってやってみたかったんだよなー!」

「茜ちゃんも次はみんなでやろうね」


 青ざめる二人。


「お前らはもう俺たちのモノなんだから。拒否権は無いぞ!」


 男の手が茜の肩に伸びる。もう一方の手が、彼女の顎を掴もうとした。


「や、やめ──」


 茜の震える声が、恐怖で途切れる。柚葉は必死に腕を振りほどこうとするが、男たちの力は強い。


「さぁて、じっくり楽しもうか!」


 男たちの下卑た笑い声が、夕闇に響く。


 その時──


 ギィィィィ……!


 突如として、重い鉄の門が開かれた。


 ◇ ◇ ◇


 門を潜ると──茜と柚葉が男達に囲まれていた。


「おい、何やってんだ」


 俺が睨むと、男達は幽霊でも見たかのように、怪訝な顔をこちらに向けてくる。


「──晴翔さん!」


 男達がを振り払って、茜が駆け寄ってくる。


「おかえりなさい! 怪我は……大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない」


 俺が答えると、茜はほっとしたように胸を撫で下ろした。


「よかった……」


「……本当に、帰ってきたんだ」


 柚葉が、信じられないという顔で俺を見る。


「当たり前だろ」


「だって……ギリギリだったし」


 柚葉の目が、わずかに潤んでいる。


「あぁ。余裕を持って戻ってきてたんだけどな。すぐそこで、熱烈なお出迎えに遭って」


 そう言って背後に目を向けると、先程の男達がすごすごと中に入ってくる。


「なっ……てめぇら!」

「なに連れて帰ってきてんだよ! コイン、返せよ!!」


 中に居た男達が一斉に取り囲み、小声でなにやら揉めている。


「ま、まて! あいつ、何か……やべえって! 俺、もう知らねぇから!」


 そういって、さっき俺を襲った男達は、コインを地面に投げ捨てるようにばら撒くと校舎の方へ走っていった。


「──あんたたち! どういう事!?」


 そのやり取りを見ていた柚葉が声を荒げる。


「あ、は? 何の事だ?」


 しらばっくれる男達。

 その時──。


「おじいちゃん!」


 子供の泣き声が響いた。

 皆が、反射的にそちらを見る。


 門の所で、小さな女の子が──老人に抱きついていた。母親も駆け寄ってきて、三人で抱き合っている。


「……あの人」


 茜が、驚いたように呟く。


「帰る途中で見つけたから、連れてきた」


 俺が言うと、柚葉が目を丸くした。


「嘘……無事だったの?」


「ああ。目的地よりだいぶ手前で奇襲されたらしくてな。若い奴らは散り散りに逃げたらしい。おそらく、死んだだろう」


「……」


「あの人は、混乱の中、近くに物置を見つけて隠れられたらしい。その後もじっと息を潜めてたのが幸いだったようだ」


 そう説明していると、老人がゆっくりとこちらへ歩いてきた。


「晴翔さん……本当に、ありがとうございました」


 深く、深く頭を下げる。


「いや、たまたまだ」


 俺が適当に答えると、母親と孫娘も駆け寄ってきた。


「本当にありがとうございます!」


 母親が、涙を流しながら頭を下げる。


「お兄さん、すごい!」


 孫娘が、目をキラキラさせながら俺を見上げた。


「もしかして、お兄さんて……」


 何やら一所懸命に、手に持っていた漫画のページを開く。そのページにはゴテゴテとしたスーツに身を包んだ人物が。


「ヒーローなの?」


 その質問に、思わず笑ってしまった。


「いや。残念だけど、ただの一般人だ」


 俺は、軽く首を横に振る。

 女の子は漫画を握りしめて、残念そうに口をつぐむ。


「ただ──勇者だった事はある」


 そう答えると、女の子はポカンと口を開けた。

 その頭をポンと一度だけ撫でて、その場を去る。


 背後で


「ねぇ、ママ。ゆーしゃってなに?」


「え、えとね。勇者っていうのは、ゲームとかに出てくる偉い人で……お兄さんの冗談よ」


 そんな会話が聞こえてきた。

 小さな子供相手に、嘘はいけないからな。

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