第28話 戦利品
日が暮れかけた頃。
道端で拾ったデカい麻袋に”戦利品”をたっぷり詰め込み、学校の近くまで戻ってきた。
白い校舎が、夕日に染まって見える。
腕時計を見ると、制限時間まであと30分──余裕で間に合ったな。
……だが。
「よお」
数人の男たちが、物陰から俺の前に現れた。
さっきの門番もいる。
手には、バールやバットといった凶器。
明らかに、歓迎されている訳ではなさそうだ。
「……何だ、お迎えか?」
俺が軽く言うと、男の一人がにやりと笑った。
「ある意味正確だな。まさか無事に帰ってくるとはな」
「むしろ、帰ってきて欲しくなかった、って顔だな」
「察しがいいじゃねえか」
別の男が、バットを肩に担ぎながら答えた。
要するに、こういうことだろ。
俺が時間切れになるのが、こいつらにとっては一番都合がいい。そうすれば、茜と柚葉を好きにできる。
今のこいつらにとって、それ以上嬉しいことはないわけだ。
「悪いけど、ちょーっと俺たちと特訓でもしようや」
「運動は大事だからな」
男たちが、じりじりと俺を囲み始める。
「……付き合ってやってもいいが、その前に一つだけ教えてくれないか」
俺が言うと、男たちは一瞬顔を見合わせた。
時間が稼げるなら、好都合。そう判断したのだろう。
「いいぜ。何でも聞いてくれよ」
男は薄ら笑いを浮かべながら両手を広げた。
「コインを稼ぐ条件の中に、ゾンビの撃破もあったよな?」
「ああ。周辺の治安維持も立派な仕事だからな」
門番の一人が答える。
「ただ、キリがないから報酬は少な目だ。リスクに比べて割が合わないから、あんまり積極的に狙う奴はいないな」
「確か、一体につき3枚だったか」
「そうそう」
「なるほど。それで、撃破の証拠に持って帰ってくるのが……」
「ああ、最初は頭ってしてたんだけど、さすがに邪魔だしな──今は”右耳”にしてる」
そう言って自分の耳を指差した。
「そうか、やっぱりそういうことなんだな。間違いじゃなくてよかった」
小さく頷くと、背中に背負っていた大荷物を地面に下ろす。
どしゃり、と鈍く重い音。
物資だと思っていたのだろう。男たちが一瞬、怪訝な顔をする。
俺はその袋を軽く蹴った。
ざざざ、と散らばったのは──。
大量のゾンビの耳。
「……つまり、これでいいんだな」
一瞬の静寂。
男たちの顔が、見る見るうちに青ざめていく。
一人が、我に返ったように尻餅をついた。
「なっ……!」
「何だよ、これ……」
震える声。
山のように重なった耳からは、ドス黒い血が流れ出る。
「何って、耳だろ。餃子にでも見えるか?」
準備しておいたジョークをかましてみるが、残念ながら男達は固まったままピクリとも笑わない。
俺は、淡々と続ける。
「ざっと百か二百ってとこだ。まあ、正確には後で数えてもらえばいいけど」
「……嘘、だろ……」
「に、偽物だ!」
男達が遠巻きに耳の山を指さして声を荒げ始めた。
「この事態でどうやって偽物なんか作るんだよ。余計に手間かかるわ」
「そ、それか! 大量に死んでた死体があって、そこから刈り取ってきた……とか!」
まぁ、確かにたった数時間でこれをやったと言われても、普通は信じられないだろう。
実際には、耳の回収にかかった時間が殆どだが。
「──まあ、何にせよ」
ギャーギャーと騒ぐ男達に向かって声を落とす。
「確かに、この中に生きてる人間の耳が混ざってても、区別つかないだろうな」
俺は、そう言って男たちの方へ一歩近づいた。
「……せっかくだ。もう少し足しとくか」
そして、男たちの耳を一つ一つ、ゆっくりと指さして数え始める。
「一、二、三……」
「ひっ……!」
「や、やめろ……!」
男たちが、慌てて後ずさる。
バットやバールを持っていたはずの手が、震えて武器を落とす。
「冗談だよ」
俺は、笑ってみせた。
男たちは、完全に腰を抜かしている。
「じゃ、そろそろ門を開けてもらえるか?」
「あ……ああ……」
門番が、慌てて門の方へ走っていく。
残された男たちは、ただ震えながら俺を見ているだけだった。
散らばった耳を詰め直し、再び麻袋を担ぎ上げる。




