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第27話 ゾンビなんて、今更何体いてもザコだしな

 門をくぐり、廃墟と化した街に出る。


 改めて辺りを見渡すが──当然、人影はない。


 あるのは、窓の割れたビルと、ゴミが散乱した道路。そして、そこらじゅうから漂ってくる、ゾンビの気配だけだ。


 耳を澄ませば、遠くから低い呻き声が聞こえてくる。近くにも、建物の陰に何体かいるようだ。


(……さて、どうするか)


 門番たちに言われたことを思い出す。

 制限時間は18時。今が14時だから──4時間程度か。


 とりあえずの目標は、出国税二人分の1万枚。だが、一発で稼ぐのは難しいだろう。

 とりあえず余裕をもって数日分、100枚から200枚は稼ぎたいところだが。


 柚葉から聞いた話だと、賞味期限の長い保存食で一個10枚。ギリギリ食えそうな野菜だと数枚程度らしい。

 つまり、保存食なら10個から20個見つければいい計算だ。


 ……と、ここで気づく。


(──そういえば、俺、物資の探知スキルなんてないな)


 異世界では、パーティにやたら口煩いシーフの仲間がいた。彼女がいつも宝箱や隠し通路を見つけてくれたおかげで、俺はただ戦うだけでよかった。


 だが、今は違う。

 物資のありそうな店を、一軒ずつ回っていくしかない。

 その店舗の在処も、柚葉を頼りにしてたのだが……。


(……カッコつけて出てきたものの、意外とまずいな)


 いざとなれば、一旦帰ってもいい。

 だが、あいつらのことだ。出る度にまた新しいルールだのなんだのと付け加えてくる可能性がある。


 それに──。


(信じて待ってくれてる茜と柚葉を、がっかりさせたくはない)


 あの二人の顔が、脳裏に浮かぶ。

 茜の無邪気な笑顔。柚葉の不安そうな、それでも信じようとする目。


(……まぁ、しょうがない。不毛ではあるが、やるか)


 そう決意し街の中を歩き出す。


 ◇ ◇ ◇


 途中、襲いかかってくるゾンビを適当にあしらいながら進むと、遠くの方から──大量のゾンビの気配を感じた。

 かなりの数だ。群れがいるのか。


(確か、あそこは……)


 気配の方向へ進んで行くと、やがて大きな建物が見えた。

 白いコンクリの壁に、所々木材をあしらった屋根。市営の総合スポーツセンターだ。


 確かにここなら人が集まってても不思議じゃない。

 ゾンビの群れはこの中に居る。


(広さは十分。周りからも中の様子は見えない……打ってつけだな)


 エントランスに、静まり返った館内に、俺の足音だけが響く。


 重い鉄製の扉を開けると……居た。

 ゾンビの群れだ。

 その数……100体は優に超える。


 そいつらが──一斉にこっちを振り向いた。


 一瞬の沈黙の後、ゾンビ達は雄叫びのような唸りを上げて波となって襲いかかってくる。


「いいね。倒して回る手間が減る」


 俺は微笑を浮かべると、何もない空間に手を翳した。


 イベントリ──。

 空が避け、その中から一本の黒刀を取り出す。


「雑魚相手にはオーバースペックだが、まぁいいだろう」


 鞘から抜くと、空間その物が悲鳴を上げるように震えた。


「久しぶりに、小銭稼ぎといくか」


 迫り来るゾンビの群れを前に、ふと異世界のワンシーンが、頭をよぎった。


 ◆ ◆ ◆


 まだ旅に出て間もない頃──。


「なあ、ハルト。勇者に向いてる奴って、どんな奴か知ってるか?」


 剣士のおっさんが、スライムを切り裂きながら話しかけてきた。


「さあ。女神の加護を受けてるとか、特別なスキルがあるとかか?」


 俺は適当に答える。


「いや、それもあるが……」


 おっさんは、次のスライムを一刀両断してから続けた。


「バカみたいにお人好しで、仲間想いな甘ちゃんだ。そうでもなきゃ、世界なんてデカいものを救えっこない」


「じゃ、俺は向いてないな」


 俺は皮肉っぽく笑ってみせた。


「何を言うか。ピッタリじゃねえか」


 おっさんが、豪快に笑う。


「今もこうやって、知り合ったばっかりの女の子を助けるために、ひたすらスライム狩りだろ」


 そう言いながら、また出てきたスライムを切る。ぷるん、と崩れて消えていくスライム。


「……単に、見捨てたら夢見が悪いだけだ」


 俺も剣を振るい、目の前のスライムを斬り捨てる。


「それに、こんな面倒に付き合ってくれるおっさんも中々だと思うけどな」


 消えたスライムの跡に、ビー玉のようなドロップアイテムが残る。俺はそれを拾い上げた。


「あと何個くらいだっけ」


「100は要るな」


「うへえ~」


 思わず、うんざりした声が出る。


「頑張れ若造。修行には丁度いい」


 おっさんが、髭面で豪快に笑う。

 その笑顔が、今でも鮮明に思い出せる。


 ◆ ◆ ◆


(……あの時と同じか)


 俺は、小さく笑った。


 奴隷商に売られてた()()()を助けるために、延々とスライムを狩り続けた、あの日。


 今日は、茜と柚葉のために、ゾンビを狩る。


 やってることは、何も変わらないかもしれない。

 ただ、違うのは──。


(今の俺はもう、頼りない駆け出しの冒険者じゃない)


 剣を軽く一振りする。

 空間が裂け、光すら飲み込む漆黒が斬撃の痕を残す。


 一瞬の後──手前のゾンビが数十体、真っ二つになって崩れ落ちた。


『ゾンビなんて、今更何体いてもザコだしな』

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