第19話 避難所? みたいな感じ
女子高生は荒い息のまま、その場にへたり込んだ。
「だ、大丈夫ですか?」
茜が慌てて駆け寄り、リュックからペットボトルの水を取り出して差し出す。
次の瞬間──女子高生はそれをひったくるように受け取ると、地面に座ったまま一気に喉へ流し込んだ。
「……っ、はぁ……」
ボトルを握りしめたまま、ようやく息を整える。
「た、助かったよ。あんたたち、何者? 自衛隊……には見えないけど」
こちらを探るような、けれどどこか人懐っこい笑顔を向けてくる。
「私は──」
答えようとした茜を、俺は手で制した。
「悪いが、事態が事態だ。得体の知れない相手に、こちらも簡単に素性を明かすわけにはいかない」
女子高生は肩をすくめる。
「まぁ、そりゃそうか」
残った水をポケットにしまい、彼女は近くに停まっていた車のボンネットに腰掛けた。
「私は柚葉。見ての通り……ただのJK──だった? こないだまで。学校無くなっちゃったし……今は、無職?」
両手を広げて、自分の制服を指し示しながら何度も首を傾げる。いや、俺に聞かれても知らないが。
「で」
柚葉は俺を一瞥し──
「おじ……お兄さんたちは?」
……今、絶対”おじさん”って言いかけたな。
「えっと……」
俺の眉間に皺が寄る前に、茜が一歩前に出た。
「私は茜です。こちらは……晴翔さん」
「へぇ」
柚葉は俺を無視して、茜の顔を覗き込む。
「つまり、パ……彼氏?」
今、“パパ活”って言おうとしただろ。思ってることがそのまま口に出るタイプか。
「ち、違いますっ!」
茜が真っ赤になって否定する。
「晴翔さんは、私の命の恩人です!」
そんなに必死に彼氏を否定されると、ちょっと凹むんだが。
ともあれ──こんな道端で無駄話を続けるのは得策じゃない。
「──で」
話を切り替える。
「柚葉ちゃんは、こんな所で何してたんだ?」
おじさん扱いの当てつけに、わざと子供扱いしてみる。
「ただの食料調達。そっちは? 晴翔さん」
俺の態度が気に食わないのか、随分トゲのある言い方だ。……まぁ、歪みあっていても仕方がない。ここは大人が折れるか。
「分かった、分かった」
俺は軽く息を吐いた。こちらから先に事情を話せば、向こうも話す気になるだろう。
「俺たちは家族を探してる。自衛隊基地に避難所があるって話を聞いて、そこに向かってる途中だ」
一拍置いて、続ける。
「で、そっちは? まさか、一人じゃないだろ」
こちらが態度を緩めると、柚葉も少し力を抜いた。ボンネットの上で胡座をかき、頬杖をつく。
「まぁね。他に男が三人。四人チームだったんだけど……さっき、店の中であいつらに襲われてさ」
「──他の人は!? 早く助けに行かないと!」
茜が思わず立ち上がる。
「無駄だと思うよ。多分、もう死んでるって」
あまりにあっさりとした返事。
「そんな……!」
その言い切り方に、俺はわずかな違和感を覚える。
「……仲間、じゃなかったのか?」
「どうかな」
柚葉は肩をすくめた。
「つい数日前に知り合ったばっか。正直、名前もあんまり覚えてないし」
そのドライさに、一瞬言葉を失う。だが──もしかしたら、この世界じゃ、珍しい事でもないのかもしれない。
向かい合ったまま、沈黙が落ちる。
すると突然、柚葉が何か思いついたように、ぱっと顔を明るくした。
「……あ、そうだ!」
立ち上がり、身を乗り出す。
「よかったらさ、二人も来ない? 安全でさ、ご飯も寝る場所も、ちゃんとあるよ!」
「……は?」
思わず聞き返す。
「みんなで集まって生活してんの。避難所? みたいな感じ!」
その言葉に、俺と茜は思わず顔を見合わせた。
やっぱり……生き残りは、俺たちだけじゃない。
茜の話によると、異変が起きてから二週間だ。まだ生き残りは多数いるはずだし、茜のいたキャンプのように、各地でコミュニティが形成される頃合いだろう。
遥の行方を探すためにも、世界の状況を掴むためにも、情報はあって困ることはない。
──唯一の問題は。
そこが、本当に安全な場所なのかどうかだ。
俺と茜は、無言で顔を見合わせた。
「……少し、相談していいか?」
そう柚葉に告げると、彼女は肩をすくめる。
「いいけどさ。外、危ないし。あんまり長くならないでよね」
髪の先を弄りながら、どこか気の抜けた調子で言った。




