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第16話 二日連続、完徹決定

 リビングへ戻ると、すでに着替えを終えた茜が待っていた。

 パジャマ姿で、頭にはタオルをくるりと巻いている。


 どうやら、髪も洗ってきたらしい。


「あ、晴翔さん。お湯加減どうでしたか? ……なんちゃって」


 はにかむように笑う茜。


 ずっと張り詰めていたところに、久々の自宅。

 行水とはいえお湯も使えたことで、だいぶ気持ちが緩んだのだろう。


「よかったよ。後でインスタでお勧めしとく」


「バズったりしますかね?」


 そんな軽口を交わしながら、借りていたタオルを返す。


「えっと……晴翔さん。どこで寝ますか? 両親の部屋とか使ってもらっても……ベッド、二つありますし」


「いや、それはさすがに気まずいだろ。俺はここでいい」


 そう言って、リビングの大きなソファーに腰を下ろした。


「えっ。でもそこ、寝にくくないですか? ベッドじゃないと疲れ取れませんよ。こんな事態ですし、遠慮しないでください」


 どうやら“おもてなし精神”に火がついたらしい。

 なかなか引かない。


「大丈夫。何かめちゃくちゃ高級そうなソファーだし、正直、俺が普段使ってたベッドより快適だぞ」


 実際、寝転がってみるとクッションの具合も申し分ない。値段は怖いから聞かないでおく。


「……そう、ですか。分かりました」


 ようやく納得した様子で頷く茜。


「じゃあ、明日に備えてゆっくり寝てくれ。あ、ドライヤー使えないから、髪はちゃんと拭いて乾かすんだぞ」


 タオルの巻かれた頭を指差す。


「はーい。ふふ……なんだか、お兄ちゃんを思い出します」


 そう言って笑う茜を見て、俺も遥の顔を思い浮かべていた。

 ……もっとも、うちの場合は妹の方がしっかり者で、立場は逆だったが。


 茜が自分の部屋へと戻っていく。


 俺は程よい硬さのあるソファーにごろりと横になり、茜が貸してくれた掛け布団にくるまった。


(しかし……異世界に行ったとき以上に、慌ただしいな)


 ふと、あっちの仲間たちの顔が脳裏をよぎる。

 あいつら、元気にしてるだろうか。こんな事なら向こうに留まってた方が良かったか? いや、あのまま向こうに居たところで……


 そんなことを考えていると──


 ガチャ。


 二階のドアが開く音。

 続いて、スリッパが階段を降りてくる、ぱたぱたという足音。


 顔を上げると、茜が布団と枕、それにぬいぐるみを両手に抱えて立っていた。


 そのまま何も言わず、俺のソファーの隣、床にクッションを並べ、布団を敷いて横になる。


「……何してるんだ?」


 思わず聞く。


「ベッドで寝ないと疲れ取れないって、自分で言ってただろ」


「べ、別にいいじゃないですか! 自分の家なんだから、どこで寝ても!」


 そう言って、慌てて布団を頭から被る。


「……分かった。じゃあ茜がソファーで寝ろ。俺は床でいい」


 身体を起こそうとした瞬間──


「そうはいきません!」


 茜が勢いよく布団から顔を出した。


「……だから、両親の部屋をお勧めしんです」


 小さく呟く。


 あぁ、なるほど。

 ベッドが二つある、ってそういう意味だったのか。

 一人で寝るのが──怖いんだな。


 まぁ、無理もないか。


「……分かったよ」


 俺は観念して身を起こした。


「このソファー大きいからな。詰めれば、二人で寝られる」


 座面の端に寄ると──


「実は、ソファーベッドなんです」


 茜がそう言って、背もたれに手を掛けた。

 ギギ、と小さな音を立てて倒れる背もたれ。

 二人が充分に寝られるベッドが現れた。


 茜はそこに枕と、ぬいぐるみを並べ、静かに横になる。


 顔と顔が、並ぶ。


 思わず視線を逸らすと、茜はそのまま、静かに口を開いた。


「……晴翔さん。本当に、ありがとうございます」


 声は小さいが、はっきりとしていた。


「私……一人だったら、家にも帰れなかったし……きっと今頃、生きてなかったと思います」


「……気にするな」


 短く答え、反対側を向いて布団にくるまる。


「成り行きだ」


 しばらくの沈黙。


 そのあと、背中越しに──


「晴翔さん、優しいですね」


 囁くような声。


「……私、ほんの少しでも、恩返し……できましたか?」


 張り切って“おもてなし”してくれていた理由が、今になって腑に落ちる。


(……ほんと、いい子だな)


「あぁ。充分だよ」


 俺は軽く息を吐いた。

 その瞬間。

 ふわっと、何かが胸元に投げ込まれた。


 手足の長い、妙にゆるい顔のクマのぬいぐるみ。

 抱き上げると、茜のシャンプーと同じ、ほのかに甘い匂いがする。


「サービスです」


 背中側で、茜が小さく笑う。


「だっこして寝ると、よく眠れるんですよ」


「……おっさん臭くなっても、知らないぞ」


「大丈夫ですよ」


 そう言われてしまえば、遠慮する理由もない。


 俺はそのまま、クマを抱きしめた。

 確かに、もにっとしていて、悪くない。


 ──次の瞬間。

 背中いっぱいに、ぬくもりを感じた。


 茜が、そっと抱きついてきたのだと理解するまで、一拍遅れた。


 何も言えず、身体が固まる。


 そして、背中から聞こえたのは……


「……おやすみなさい」


 それだけ。


「あぁ……」


 格好をつけて、短く返す。


 ここまで懐かれるほど良くした覚えも、ないんだけどな。

 吊り橋効果、恐るべしというところか。


 意識は遠くに。なるべく背中から感覚を逸らすようにして、呼吸を整える。


(……二日連続、完徹決定だな。これは)


 そう心の中で呟きながら、眠れない夜に身を委ねた。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。 毎日コツコツ投稿しておりますが、皆様のブックマークや評価ポイントが、物語を完結させる大きな支えになっています。 未熟な作品ですが、応援のほどよろしくお願いいたします!

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