第14話 一緒に、来てくれるんですか
玄関で、しばらく待った。
広い家の中から、足音が響いてくる。
廊下を急ぎ足で行き来する音。
扉を開ける音。
階段を上り、また下りる音。
家族を必死に探し回っているのが分かる。
……誰もいないことは分かっている俺としては、その足音を聞いているのが、ひどく胸に痛かった。
やがて、足音が近づき──茜が玄関に戻ってきた。
「……誰も、いませんでした」
「そうか」
それ以上、言葉が続かなかった。
茜は俺のことを必死に励ましてくれていたというのに、俺はこんな時に気の利いた言葉も出ない。
「……きっと、どこかに──」
そう言いかけた、そのとき。
「でも……!」
茜が声を上げ、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「居間に、こんな書き置きがありました!」
差し出された紙には、急いで書いたのだろう、けれど整った達筆な文字が並んでいた。
『颯太、茜へ。
父さんと母さんは、朝日山自衛隊基地へ避難します。
二人も安全を確保しつつ、最寄りの避難所へ向かうように。無事を祈る』
茜はその紙を見つめたまま、ぽろぽろと涙を落とす。
「……よかった……」
震える声。
「きっと無事だ。行き先も分かった」
俺の言葉に、茜は大きく、何度も頷いた。
涙を袖で拭い、深呼吸してから──彼女は、俺の手をぎゅっと握り、引っ張った。
「……上がってください。もう暗くなりますし……よければ、今日はうちで」
「……いいのか?」
「もちろんです!」
そう言って、下駄箱から立派なスリッパを出してくれる。
こんな時に、とは思いつつ──なぜか少し、緊張してしまう自分がいた。
「……お邪魔します」
「どうぞ」
柔らかく微笑む茜は、年の離れた妹というより、どこか新しくできた“友達”みたいだった。
天井が吹き抜けになった廊下を抜け、リビングへ。
……広い。
三十畳はあるのだろうか。
整然と片付いた室内。
その中央の大きなテーブルには、箱詰めの食料がいくつも積まれていた。
「お父さんとお母さんが、置いていってくれたんだと思います。晴翔さんも、好きなの選んでください」
この非常事態だ。
自分たちの食料だって、心許ないはずなのに。
(……大切に育てられてきたんだな)
「ありがたく頂くよ」
日持ちのしそうなシリアルの箱を一つ手に取る。
そのとき、テーブルの端に置かれているものに目が留まった。
地図だ。
赤いペンで丸が付けられている。
「朝日山自衛隊基地か……結構距離あるな」
「多分、車で向かったんだと思います。一台、ガレージに無かったので」
……え。あんな高そうな車がまだ何台もあったのか。そんな、どうでもいいことがふと頭をよぎった。
「そうか……。道路状況が悪くなる前に、向こうに到着できていればいいな。──何にせよ、徒歩で道のりを追っていくしかないか」
地図に引かれた赤丸を指でなぞりながら、ぽつりと呟く。
「……えっ」
背後から、驚いたような声。
「どうした?」
振り返ると、茜が目を大きく見開いていた。
「……一緒に、来てくれるんですか?」
不安そうにこわばっていた顔が、みるみるうちに緩み、やがて満面の笑顔に変わっていく。
「……? あぁ」
そんなに意外だったのか? と少し困惑しつつ答える。
「俺の妹の行き先も、まだ何も分かってない。今ある手がかりは、これくらいだしな。他に当てもないから……俺も向かうよ」
「……よかったぁ……」
茜は胸の前で手を組み、心底ほっとしたように息を吐いた。
(……そんなに喜ばれると、悪い気はしないな)
リアクションがいちいち素直で、可愛い。




