表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/65

第11話 アスファルトって土魔法じゃ動かせないんだよな

「さて、これからどうする?」


 朝食を食べ終え、背中にリュックを背負い直しながら茜に問いかける。


 茜は空になった缶を、胸元でぎゅっと握りしめてから、小さく息を吸った。


「私は……一旦、家に帰ってみようと思います。両親と……もしかしたら、お兄ちゃんも戻ってるかもしれないですし。……春日さんは?」


「そうだな……」


 妹──遥の行き先の手掛かりは何もない。

 ならば、まず向かうべきは俺も“自宅”。


「俺も、一旦家の様子を見てこようと思う」


 茜は何か言いたい事があるのか、少し間を置いてから「……ですね」と頷いた。


「君……」


 昨日から感じていた会話の違和感に、一瞬言葉が詰まる。


「えっと、なんて呼べばいいかな? 今更だけど“君”は他人行儀かなって」


 ふと気になって尋ねると、茜は「あっ」と声を上げ、慌てて頭を下げる。


「ご、ごめんなさい! お兄ちゃんや友達には普通に茜って呼ばれてたので……それで良ければ」


 俺はお兄ちゃんでも友達でもないが……下の名前で呼ばせてくれるなんて、随分と人懐っこいというか、いい子だな。


(もし“普通に苗字でお願いします”とか言われてたら、地味に凹んだかも)


「じゃあ、俺も晴翔(はると)で」


「わ、分かりました……! えっと……晴翔さん、でいいですか? さすがに呼び捨ては申し訳ないので」


 ほんのり頬を染めて笑う茜に、俺も頷き返す。


「──で、茜の家ってどの辺だ?」


「えとですね……」


 道順を聞いてみると、どうやら俺の家と茜の家は“割と近所”だと判明した。

 行った事ない街だが、平時なら歩いて三十分もかからない距離だろう。

 それを知って、茜は意を決したように口を開いた。


「あの……! それなら、お願いがあって……」


 胸の前で両手を組み、申し訳なさそうにもじもじしている。


「晴翔さんの家の後で良いので……もし出来たら……その……。わ、私の家まで……一緒に来て、もらえないかな……とか……」


 語尾が小さくなるにつれ、視線も下へ下へと落ちていく。


「いいよ」


「えっ!?」


 まるで予想外だったと言わんばかりに、茜は目を丸くした。


「え? 何かまずかった? 別にそんな大した距離でもないし」


「い、いえ! すごく嬉しいんですけど……外は危ないし……晴翔さんにも迷惑かなって……」


「あぁ……」


 歩く距離とか、疲れるとか、面倒とかの話じゃなく、“ゾンビだらけの街を移動するのは危険”ってことか。


 昨日から半ばハイキング気分だったから、すっかり危機感が無かった。

 普通の人間にとっては、街ひとつ移動するだけでも命がけの状況だもんな。


「いや、だからこそ茜を一人で行かせられないだろ。ちゃんと家まで送るよ」


 言うと、茜の肩が大きく揺れた。


「あ、ありがとうございます……!」


 両手を胸の前で組み、今にも泣きそうな顔で喜ぶ茜。

 思わず、(か、可愛い……!)と心の中で叫んでしまう。


(……いや、落ち着け俺。変な気を起こすなよ! ここで期待を裏切ったら、男として終わる!)


 そう心の中でブレーキを踏みつつも、茜の安堵した笑顔に胸の奥がじわりと温かくなった。


 ◇ ◇ ◇


 山道をゆっくり下っていくと、木々の間から少しずつ民家の屋根がのぞき始め、やがて舗装道路へと出た。


「よかったです。ここまで……ゾンビに襲われなくて」


「だな」


 軽く返事を返すが……本当のところは、林の中に数体いた。

 茜が気づく前に、土魔法でそっと埋めておいたけれど。


 ……しかしこの先は舗装された地面ばかりになる。


(さっき試したけど、アスファルトって土魔法じゃ動かせないんだよな……。どういう違いだ?)


 異世界に存在しなかった材質は、まだ勝手が分からない。

 こちらの世界の“何が魔法に影響するのか”も、少しずつ検証する必要がありそうだ。


「茜、街の方は人も多かった分……当然ゾンビも多いはずだ。ここからは慎重に進むぞ」


「はい!」


 キリッと弓を持ち直す茜。

 その姿は頼もしく見える……が、茜がそれを使わなくて済むようにしなくては。


 ◇ ◇ ◇


 ──道路標識や大きな建物を確認しながら歩く。


 知った道なら良かったのだが、この辺りは俺も茜も土地勘が薄い。

 スマホがあれば話は早いが、この状況ではもう期待できない。


(スマホの地図って便利だったんだな……。昔の人ってずっとこんな感じでやってたのか)


 そんな呑気なことを考えつつも、一応は周囲への警戒を怠らない。


「……茜、次の角を曲がるぞ」


「あ、はい。……晴翔さん、道分かるんですか?」


「いや、だいたいだ」


 実際のところ──気にしてるのは道順ではなく“気配”。

 道の先に“固まっている気配”を感じた。

 おそらくゾンビの群れだろう。


 シーフとか、探知系の仲間がいれば、正確な人数も種類も、この距離から特定できたんだが……あいにく俺はそっち系統は苦手だ。


(まぁ、気配の薄い道を選べばまず安全だろう)


 なるべくゾンビの少ない方向へ進むように、何度か脇道へ逸れながら歩く。


 そんな中──


「あっ、晴翔さん!」


 茜がぱっと顔を明るくし、前に出た。


「私、この道分かります! 晴翔さんの家、南野町ですよね? なら、このまま真っ直ぐです!」


「お、ナイス! やっぱり大体の方向合ってたんだな」


 足取りが自然と軽くなる。

 ……だが、茜が突然足を止め、俺の服の裾を引く。


「待ってください! 晴翔さん──あそこ……!」


 指差す方向を見ると、数ブロック先の角から、ゾンビが1体、ヒタヒタと姿を現した。

 まだこちらには気づいていない。


(……避けてきたけど、まぁ、さすがに“ゼロエンカウント”は無理か)


 茜が弓を構える。


「わ、私が弓で」


「いや、待て」


 確かに、エルヴンボウなら一撃で終わる。

 けれど、あまりにも楽勝が続くとさすがの茜も疑うだろう。


 それに、もし誰かに目撃されたら──『ゾンビをヘッドショットしまくってるJKがいる』──そんな話が広がれば厄介だ。


「茜は、いざという時のために後衛で待機。俺がやる」


「……わかりました」


 茜は素直に弓を下ろし、緊張した面持ちで頷いた。


(さて……あくまでも地味に、さっさと片付けますか)


 俺はゾンビ達の動きを確認しながら、ゆっくりと前へ踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ