第5話 モンスターのようなキメラ体質
ダンジョン上層まで来たところで九美果ちゃんの足取りが目に見えて重くなった。
体調もすぐれないのか、顔色も見るからに悪くなっている。特に肌が青白い。
足取りもおぼつかない様子で体が小刻みに震えているように見える。
「九美果ちゃん大丈夫?」
「うん。まだ平気」
「そう? でも、無理もないよね。思い出の場所がなくなったって聞いたら普通ショックを受けるよ」
「そんなこと……」
なんだかそっけない返事に九美果ちゃんの顔を見た。
目がうつろで、ダンジョン下層にいた時よりも呼吸が浅いように見える。
歩くペースが速いわけじゃないのに、なんでだろう。
まるで、外へ出るのを恐れているみたい。
それは、水が苦手な子犬が水辺へ連れてかれるのを察しているような、そんな怯え方。
出たくないんじゃなくて出られない……? いや、まさかね。
「無理そうならやめておく? 別の方法を考えればいいしさ」
「ううん。そうじゃない」
気づけば私はダンジョンから一歩外へ出ていた。
すでに、ダンジョン入り口に併設されているギルド施設までやってきていたらしい。
対して、九美果ちゃんは、その境界を見つめたまま立ち止まっていた。
「ランクの高いダンジョンだし、ギルドの方も人がそろってるから人目につくことが気になるかな? だったら私が先に人払いしてこようか?」
「大丈夫。出られたら行くから」
息苦しそうに青ざめた顔で息を何度も大きく吸う歪な深呼吸をすると、九美果ちゃんは境界をまたいだ。
その瞬間、九美果ちゃんが目をぐるりと回すと、膝から崩れるように体を床に激突させた。
バタアアアアン! と大きな音が辺りに響いた。
「く、九美果ちゃん?」
「う、ああぅぅぅ……」
「大丈夫? 九美果ちゃん。しっかり」
「何かありましたか?」
ギルドで受付をしているお姉さんの声。
「だ、大丈夫、大丈夫です! 転んだだけなので心配しないでください!」
「でも今大きな音が」
「なんでもないです。すいません! お騒がせしました!」
このままでは私や九美果ちゃんの行動が怪しまれるかもしれない。
それに、ギルドの人やギルドにいる探索者の人たちが集まってきても面倒だ。
「九美果ちゃん。いったん奥まで戻ろうか」
私の言葉に力なくうなずいた九美果ちゃんを見て、私はすぐに九美果ちゃんを抱きかかえた。
それから、全速力でダンジョンの奥を目指して駆け戻った。
ダンジョン下層まで戻ってきたところで九美果ちゃんの顔に血の気が戻ってきた。
呼吸も肩で息をしていたのがゆっくりと深いものになり落ち着いてきているらしい。
目に見えて体調が回復してきているのがわかる。
それでも、まだまだ弱っているらしく、万全の体調という様子ではない。
胸の中は申し訳なさでいっぱいだった。
「どうしたんだろ。やっぱり拒否反応かな? ごめんね。無理させちゃって」
私の言葉に九美果ちゃんは首を横に振った。
「噛子お姉ちゃんは悪くない。全部魔力の問題だから」
「魔力の問題?」
そう言われてもパッと思い当たることはない。
少しの間、私は思考を巡らしてみた。
だけど、どうにも出てこない。
九美果ちゃんは特別魔法を使っていたようには見えないし、何かあったかな。
「ダンジョンからの魔力じゃ足りないの。モンスターも狩って食べないと、わたしすぐにお腹が減っちゃうんだ」
「それは……」
モンスターみたいだ。
口には出さなかったけども、九美果ちゃんも内心そう思っていそうに見えた。
実際、普通の人間は魔力がなくても死ぬことはないし、魔力がなくても生活ができる。
当然、ある程度の魔力量を持っている人は一時的に使いすぎた際、欠乏症と呼ばれるような脱水症状に似た体調不良も起こる。
だけど、ほとんどの人間はダンジョンに住まないといけないほど魔力に悩まされることはない。
それこそ、モンスターを狩ってドロップするアイテムより、モンスターを倒す前に捕食することを優先する必要なんて、特殊な事例を除いて発生しない。
ただ、今目の前にいる九美果ちゃんは、その特殊事例の方なのだ。
まさか本当に出たくないんじゃなくて出られなかったとは……。
「ダンジョンの外は今でも魔力が薄いから、ここに来るまですっごいお腹が空いてた」
「上層でもあんなにフラフラになるんだもんね。そう考えると、地上に出るのは難しいなんて話じゃないか」
「……」
九美果ちゃんはなんだか悔しそうに口をへの字にしてうつむいてしまった。
「ちょっと待って。魔力の問題なら、魔力が供給されてたら外にも出られるってことじゃない?」
「多分……」
試したことはないのだろうから自信はなさそうだけど、その可能性は高い。
「まだ確信は持てないんだけど、1つ試したいことがあるんだ。私が九美果ちゃんに魔力を供給するってのはどうかな?」
「え。それって……」
「そう。モンスターと同じように……って言うと語弊があるけど、テイムの原理を応用するってこと。使役するみたいな響きがあるから人間同士でやった事例ってなかったと思う。だけど、うまくいけば魔力を供給できるかもしれない。だから、一時的に、どうかな?」
いつも読んでくださりありがとうございます。
「面白い!」
と少しでも思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から作品への評価をしてくださると創作の励みになります。
また、ブックマークもしていただけるとモチベーションにつながります。
よろしくお願いします。




